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🍉すきずおる 〈VOL.2〉

昚日の倧雚が嘘のように、空は氎色で、雲ひず぀ない。
「思うこずを、順番にぜんぶ口に出すず、このたた地球にぶらさがっおはいられなくなりそう」
頭の䞭に浮かんだ蚀葉をすこしだけ、実環子は音にしおみた。
 すこしの静寂ののち、歊藀芜衣子は、実環子にむかっお、右の眉をぐいず䞊げお芋せた。
 よくわからないんだけど、どういう意味よ の意である。
たずえば、昚日私は氎になった、ずか 聞き取れないほどに曖昧な぀ぶやきを残しお、実環子は、背䞭を砂に぀けた。うずめた、ずいうべきなのかもしれない。あ぀い。砂は生きおいる。生きお、ひず぀ぶひず぀ぶが、それぞれ意思をもっお熱を閉じ蟌めおいる。
歊藀芜衣子ず海にきおいる。それは少し前からの玄束で、実環子や歊藀芜衣子が普段生息しおいる堎所は盆地で、倏は暑く冬は寒く、そうしばしば海に来れるわけではないが、気が遠くなるほど遠くもない、鈍行電車でごずごず時間半も揺られれば来れる、県をたたいでしばらくのずころで海にいきあたるのである。玄束を先延ばしにするのは歊藀芜衣子も実環子も奜きでなかったが、昚晩の雚ではこれは少し厳しいかなず思ったのだけれど、あれほど匷かった雚も明け方にはすっかりやんで、実環子ず歊藀芜衣子が海に぀いた午埌のはじたりには、あちらこちらはすっかり也いおいお、だいたいの倧雚の次の日がそうであるように倪陜は燊々ず射し、アスファルトなんかは陜炎がたちのがるほどに倧気はぐらぐらずしおいるのだ。
寝転んで、ひじや、手銖や、肩に、力を入れないようにするず、腕も、骚も、肉䜓の重さを持っおいるこずが分かる。自分の右偎にみえる腕は、誰かのものみたいだ。いたはそれを、砂浜が支えおいる。いた、砂ず肌がずおも近い。この肌の内偎に砂がはいっおきおもおかしくないみたいに。いたのずころ実環子はぎったり地球にくっ぀いおいる。すう、ず息をすうず、からだの䞭で、肺がふくらむ。空に向っお、肺に入っおいたすべおを吐き出すず、芋えないけれど、空に向っお䞊昇しおいく。
目を閉じおもその先に金色の倪陜がある。
地球にくっ぀くのをやめお実環子は飛びおきた。
「海にはいるわ」
 実環子は立ち䞊がっお、お尻にちょうどなように氎着を調えた。ビキニの䞊に、半そでのラッシュを着おいる。宇宙のお䞋がりだ。ラッシュは少し、実環子を、ここにいおもいい人に思わせおくれる。真倏ず、ボディボヌドず、たっ癜にむきだした、柔らかい手足ずいうのはどうもちぐはぐすぎる。男物のラッシュで䞊半身が隠れるくらいがちょうどいい。
「入らない 」
 実環子が聞くず歊藀芜衣子は答えた。
「いやよ。底から手が䌞びおきお足をひっぱられるかもしれないじゃない」
 その笑顔はずおも䞍䌌合いに愛らしい。倏に、ではなく、いたここにあっお、もうすこししたら、ゆらゆらずうごめきだしそうな倧気に察しお。
 歊藀芜衣子は、぀ばの広いたっ癜な垜子を深くかぶり、癜い長そでのブラりス、パステルブルヌの、サブリナパンツをはいおいる。さらに癜いレヌスの手袋をしお、モネの絵に出おくる貎婊人のようだ。顔は黒いサングラスでほずんど芋えない。そういえばモネも色匱だったっけ。

 ゚ドガヌル・ドガ、オノレ・ドヌミ゚、パブロ・ピカ゜、カミヌナ・ピサロ、フィンセント・ファン・ゎッホ、レンブラント・ファン・レむン、シャルル・メリオン、クロヌド・モネ 、オヌギュスト・ルノワヌル、アンリ・ド・トゥヌルヌズロヌトレック、実環子は、考え぀く限り、色芚異垞、たたは色匱ず蚀われた画家の名前を、心の䞭で発音した。そしお思った。ぞんなの。色匱っおいうなら、色匷っおいったほうがしっくり気がする、あのひたちの絵は。それほどに鮮やかでひず぀ひず぀の色が匷い、あのひずたちの絵は。
 
 そしお䞖の䞭はお盆なのだった。

 倕方、パラ゜ルの䞋で、頂き物の、スむカをかじりながら、「ドメスティックバむオレンスではない」ず歊藀芜衣子は断蚀した。たあ、激しさ、ずいう意味でなら、(バむオレンス)、だけど、暎力ではない、ず。

「べ぀に䜕も思っおないのに」
マヌブルチョコの筒を改造しお䜜った䞇華鏡でスむカを鑑賞し、その䞍気味さに顔をしかめながら実環子は答えた。綺麗だず思っおいたのに、プレパラヌトに茉せたプランクトンを顕埮鏡で芋たような感じだった。赀い、ずいうずころでさらに䞍気味だった。
䞇華鏡ずはきっず、暡様、ずか、光、ずか、幟䜕孊的なものを芋るべきものなのだ。空ず雲、ずか。鑑賞はやめお、実環子は生ぬるいスむカにかぶり぀いた。このスむカは実環子のおっぱいがもたらしたものだ。海から䞊がっお、ラッシュがからだにはり぀くのが嫌で、脱いで無防備にうたた寝をしおいたら、目の前でスむカ割りをしおいた可愛い男の子たちが、どうぞ、ず持っおきおくれたのだそうだ。その間ずっず読曞にふけっおいた歊藀芜衣子が蚀うには、スむカは、実環子の豊満なおっぱいずその無防備に察する報酬らしい。あんたのおっぱいにはい぀でも男の子の倢が぀たっおおいいわね、ず、波うち際ではしゃぐ男の子たちをながめながら歊藀芜衣子は蚀った。
男の子たちだけで玔粋にスむカ割りを楜しめるような、そんなたっすぐで色の぀いおない(色の぀いおない・匷調点)男の子ず、わたしも恋愛がしたいわず歊藀芜衣子が蚀い出したので、果たしお玔粋にスむカ割りを楜しめれば色が぀いおいないのかずいう話から、ドメスティックバむオレンスの話になったのだった。


「あなたもたっすぐで色が぀いおいないずころを奜きなんじゃないの 」
 岡田宇宙のこずよ。歊藀芜衣子は蚀った。
「それ、岡田が䜜ったんでしょ。知っおるわよ」
たしかに䞇華鏡は宇宙がくれたものだった。䞀緒に垰っおいるずきにひょい、ずくれたものだった。
 䜜りはひどく簡単で、マヌブルチョコの筒の底にちょうど合うアクリルの球(きゅう)を詰め、筒の郚分に薄い板のような鏡を向い合わせに、ちょうど、空掞の䞉角柱のようなかたちに折り、それを入れお、最埌に穎の空いた蓋をしただけのもので、それなのに立掟に䞇華鏡だった。
 簡玠な぀くりなのに立掟な働きをするこずに感動しお、以来持ち歩いお、いろんなものを芗いおいる。
 少し前たでは、バリアントヌルずいう、色匱暡擬フィルタのルヌペを持ち歩いおは色んなものを芋おいた。竜之介や宇宙ず同じように䞖界を芋たいず、思っおいたから。しかし、゜メむペシノの䞋で、お互いを映しあっお、宇宙ず自分の奥ぞ぀きぬけおからは、ルヌペを介しお同じ景色を芋たこずろで無意味、ずいう感芚が生たれ、ルヌペを持ち歩くこずがおっくうになり(なぜなら芗くずき、その行動が無意味かそうでないかずいう問いず垞に戊わなければならないから)、持たなくなり、最近はマヌブルチョコ颚の䞇華鏡に、いろんなものを映しおいるのだった。これで芋る䞖界は、色ずいうより圢状が重芁な気がしお、それも心地よかった。
  歊藀芜衣子を陀くず、筒の䞭に、歊藀芜衣子の顔が、そら豆のようにいく぀も映り、筒を回すず、たくさんの歊藀芜衣子がゆっくりず回転した。同時に「知っおるわよ」ずいう蚀葉すら、筒の䞭の歊藀芜衣子ぶんだけ聞こえる気がする。
もはや実環子には宇宙のどこが奜きずか嫌いずいう以前に、たっすぐで色が぀いおない状態ずはどういうこずなのかすら謎なのだ。

「少なくずもこれを持ち歩いおいるこずず、宇宙ぞの感情っおいうのは無関係だわ」
 こんどは濡れた砂を芗きながら実環子は答え、けれど、この筒に球をこめる宇宙、鏡を苊心しおぎっちり折った宇宙、そしお完成しお、筒が、自分が思ったように䜕かを映した様にほくそえんだだろう宇宙のひず぀ひず぀が、もうこの䞇華鏡の郚品のひず぀ひず぀である、ずいうこずを知っおいるから持ち歩いおいる自分もいるのだず気づき、
「厳密に蚀えば、無関係、ではないわ」
 蚂正した。そしお颚が吹いた。
倧気はふたりの肌に察しお、適床な距離を保ちはじめおいた。
「あら、うわさをすれば」
 本来こういうこずは、生きおいおあたり起きないはずではあるが、自分たちは決しお人の村にも、海の近くにも䜏んでいないのに、歊藀芜衣子のあごの先、メヌトルほどの波うちぎわを、宇宙が歩いおいるのだった。芳本かをりず䞀緒だった。
宇宙はこっちに気づいおいないようだった。サヌフボヌドを小脇に抱え、耳に入った海氎を抜こうずしおいるのだろう、頭を右偎に軜く䜕床かきりながら、歩いおいた。早くもなく、遅くもなく歩いおいたのだが、メヌトルほど埌ろを歩く芳本かをりがやけにちょこちょこ小たたで歩き、その距離が埮劙にちぢんだり、広たったりするので、宇宙がすごく早く歩いおいるように芋えた。
 圌らは目の前を通り過ぎ、その姿がちょうどマヌブルチョコの筒ず同じくらいの倧きさになったずき、圌らは少し接近し、そしお小さくなっおいった。接近したのには理由があった。
宇宙が小脇に抱えおいたサヌフボヌドに巻き぀けおいたリヌシュがほどけお、芳本かをりが近づいお、それをたた巻き぀けたのだ。盞倉わらず長い髪を遊ばせながら、のそのそず、それを行った。

「宇宙、぀たらなそう」
 口を぀いで出たのはそんな蚀葉だった。
「本気で蚀っおるの すごい自信ね」
 歊藀芜衣子があきれたように笑った。
「いた、あなた、自分が寝おる男のデヌト珟堎に盎面したのよ。」
 歊藀芜衣子は芳本かをりを知らない。圌女は音楜を教えおいるから。
あくたで自分の高校の生埒である男子に察しお、倧たじめに、「寝おる男」ず圢容する歊藀芜衣子ず自分の䌚話は、客芳的にはどれくらい䞖間ずれしおいるのだろうか、ず心の䞭で少し可笑しく思いながら実環子は答えた。
「だっおそう思うんだもの」
 ほら、思ったこずを口に出すず、地球にぶらさがっおいられなくなる。目に芋えるのは仲のよさそうなカップルなのに、自分は、宇宙が぀たらないず思っおいるず感じる、それも驚くような確かさで。そしお、小たたで宇宙を远いかけお歩く芳本かをりを目にしおもなお、芳本かをりず竜之介に察しおの胞のざわめきを消すこずができないのだ。
 そのこずは歊藀芜衣子に蚀えなかった。地球にぶらさがっおいたかったから。

 代わりに、䞀瞬、からだ党郚が、すきずおった。しいお蚀えば、マヌブルチョコの筒を握っおいた右手の、砂に觊れおいる手銖より先だけが、そこにれっきずしお残っおいたくらいに。〈vol.3ぞ続く〉

この小説は2009幎に執筆されたした。
今の時代にはないレトロモダンな䞖界ず時間をお楜しみください♩

「すきずおる」の前身小説「゜メむペシノ幻冬舎電子曞籍版」はこちら


パラ゜ル on the 栞珈琲レディ/2023

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