【2020年8月号アーカイヴ】『Tokyo発シガ行き➡︎』 "わたしは何者なの"by 月イチがんこエッセイ
↑今月もまずは出力してお楽しみたい方のために。
以上アナログアーカイヴ。
では以下はデジタルで!
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月イチがんこエッセイ『Tokyo発シガ行き➡︎』 "わたしは何者なの"【2020年7月号アーカイヴ】
『今日は久しぶりに朝から陽射しが眩しい、ようやく、と言っていいだろうか、8月の夏日で賞味期限を2週間過ぎた生卵を食べてみたわたしは軽い腸炎を起こしており明日久しぶりに病院に行かねばならぬだろう。
ここのところ心痛することの連続で「自分を愛しむ時間」なんて持てていなくて今日はそんなわたしの貴重な休日、ふと空を見上げて月と衝突、そうか、世界は今宵0じ59分に月が満ち満月を迎える。キリキリ痛む胃に店から持ち帰った美味しいスペインワインを流し込んで、
「ずいぶん自分を痛めつけるのね」
「いいえこれは浄化なのです」
母の強い薦めで、敬遠していた韓国ドラマにはまってしまい、貴皇后、梨泰院クラス、これは映画だがパラサイト。
韓国ドラマは過激なので、わたしもつい、生きるか死ぬべきか(復讐すべきか! これは韓国調)それが問題と極論に走ってしまうけど、
月が美しいので、もう少し生きてみよう。
お店で起こることが波乱万丈すぎて、恋愛に意識が傾かず誰かを愛し抜く力も今は見つからない。なのでわたしは今日も志磨遼平を待ち受けにし、少しずつでも螺旋階段をあがってゆこうと決意する。
志磨遼平の居るところ、そこまで行けば、きっと今は見つけられない新しい朝を見つけることができるだろう。
せっかくなので何か音楽をと、テイラースイフトの新しいアルバムを聴くことにする。テイラーもエドシーランもデビューアルバムから聴いている。
エドはいつでもA teamの頃のままだけど、テイラーはすっかりポップスタアになってしまい、リトルシャナイアトゥエインになりそうな、それでいてまだまだ垢抜けないカントリーシンガーのテイラーが好きだったわたしは、最近のセレブセレブした無敵テイラーは見ていて少し悲しかったのだけど、ふと聴いてみたこの新しいアルバムは、とても静かなカントリー的アルバムで、昔のバファリンのCMを彷彿させる今宵の月にもよく似合ってる。18歳のテイラーが帰ってきたみたいでとても嬉しい。
ともあれ今夜わたしは自由で、今宵は満月なのだ。愛する我が店がつつがなく日々を重ね、4月に書き終えた新作「わたしと音楽、恋と世界」が本になり世に出るように。月明かりの下、祈りをおくろう。』
(注/志磨遼平はわたしが溺愛する音楽家(ロックスタア))
先日こんな投稿をインスタにした後、わたしの腸炎は「軽度」ではなかったことが判明、現在まる一週間ほどお店を休んで静養している。
幸い昼間の“栞珈琲”の調珈師で我が腹心の右腕であり同時に作家中島桃果子の一番のファンでもいてくれる栞嬢が、7月の終わりから平日は我が家に居候を始めたことと(この半年間彼女は通勤に片道2時間かけて神奈川の果てから通ってくれていた!)東京コロナがまた深刻化してきたことによる時短営業で22時に店を閉めているので、今週は栞が13時から22時までぐるっと開けてくれている。
イーディでは6月の半ばから心痛する事件が連続して起きて、先々週はとうとう店の前で焼酎の一升瓶が割れて警察がいっぱい来た。
「暑気払いそうめんの日」や「マキ姐のタイ料理」「神楽坂ボスのイタリアナイト」など楽しいイベントも盛りだくさんだったけれど、イベントはイベントでみんなが等しく楽しく過ごせるよう気を張るゆえ、楽しいこと→事件→楽しいこと→事件……を繰り返した7月、実のとこ一瞬も気が休まる時はなかったので、そういう意味ではこの1週間、ようやく本当の意味で身も心も休めている。
怒涛の新作執筆に追われた自粛4月に全く手をつけられなかった部屋の模様替えや断捨離や書類の整理などを午後からコツコツし、
消化にいいものを食べ、栞が帰って来ると売り上げを受け取り、その日の報告を聞き、今後お店をどんな風に展開していくか話し合う。共同生活。
栞は次の日も朝早く店に出て午前中に豆を焙煎するので、あまり遅くならないあたりでわたしは我が家のシンボルと言える大きなクリーム色の螺旋階段をテコテコ上がってメゾネットの上の部分で過ごし(現在も上部分で執筆している)、栞は階段下にわたしが作った小さな基地で眠る。
階段から布を数枚、うまいこと垂らしてサーカスの小屋のごとく眠る時外から見えないようにしてみた。「自由劇場」の舞台美術をイメイジしている。佐藤さとるの絵本「おおきな きが ほしい」も、ちょっとイメイジしている。居候ってパーソナルスペースが「狭い」わけだから、その「狭い」を凌駕するワクワクが必要。
今、バイオリズム的に女主人のわたしは少し低空飛行だけど、7月から自分で焙煎も初め、本格的に「栞珈琲」をデビューさせた栞はエネルギーに溢れ溌剌とし、色んなものを「生み出す」喜びを瑞々しく放ち“いい時期”の入り口、その生命力が店を店たらしめてくれている。言い尽くせぬ感謝の状態。
今回の一連の出来事は、普段何があっても「へこたれないわたし」を珍しくめげさせた。大変なことは人生にいつだって起こるのにどうしてこんなに今回は特別“ぐらぐらしている“のだろう。そう考えると「先天的な才能」と「後天的な努力」のどちらもを同時に一度否定され奪われてしまったような感じがしているのだと思い当たった。それが、じゃあもう「わたしって何者?」「この先どう生きていけば?」という、ここ十年は頭に思い浮かぶ暇もなかった疑問を持たせ、さらに答えがすぐに自分の中から見つからないという、その感じが普段のわたしらしくなく、自分の自分らしからぬ状態にまた自身で動揺することが、何かが足元から崩れ落ちるような感覚をわたしに与えているのだと思った。
直感と確信だけで進めてきた先天的な才能、それは書くことであり小説である。実際このエッセイだって面白く書けていると思うし、新作の出来にも揺らぎはない。でも新潮社の担当編集者からはまだ返事がない。
女主人(小説家)って謳ってるけどさ、書き上げた新作が世に出なかったらさ、ある意味小説家として現役じゃないよね。でも作品は書き上げたわけだからさ、目下開かない扉のことを考えても仕方ないし、まずは開いている扉と今立っている足元のことからやんな。それは「日々」であり「我がお店」である。もともと酒場を切り盛りする才能やセンスなんてわたしには全然なくって、これは長い酒場生活の中で経験を重ねながら努力して培ってきた。ディスコ、スナック、ワインBar、色んな形態の酒場で働いてきたけど、どれもが繁盛店でカリスマボスがいたからその人たちを見ながら真似をして。
そう、わたしにとって自身の作品に対する確信は物心ついた時から持っている内なるもの。お店が賑わい繁盛することは、たゆまぬ努力に裏打ちされた外なるもの。
ある時からわたしは「書きたいと思えないものを書かない」選択をしてきたから、書かない時間は酒場に立ち日々を重ね、または努力なんて本当に無意味だと思うような落胆にぶつかった時はそれを書き抜いて世に出し、両輪でバランスをとりながらここまで来た。
けれど今、作品で言えば直感に裏打ちされたわたしの傑作は書き上がってるのにまだ世に出ないし、そんな時にあろうことか、経験と努力に支えられてきた酒場生活を根幹から覆すような出来事が起こっている。わたしが丁寧に、かつ慎重に築いてきた「まるで家のような」「懐の深い」「くつろげる」お店の雰囲気が、このコロナの不安定な情勢、人心が荒廃した世相の中で裏目に出て、平たく言うと「勝手が許される店」になってしまった。
なんてこと。長年大切に貫いてきた自分の接客哲学に、ここに来て思い切り殴られるなんて。
わたしは今、東からも西からも足止めを食らっている。(9月号へ続く)
✨お知らせ✨
栞珈琲にWeb storeができました!
栞ちゃんのオリジナルブランド「群青」「Avec」「寂彩 Seki-sai」がこちらから購入いただけます。なお、各々のまめにわたくし中島桃果子がその珈琲に紐づくポエムキャッチを書き下ろしました。「珈琲と言葉」という唯一無二の形で自分たちの絆を表現してゆけたらと思っています。ハッピーな時だけでなくバッドな時も、少しじぶんに立ち止まる珈琲時間を自分に赦して、やさしい孤独を過ごして貰えたら嬉しいです。
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最新号[2020年8月号]「時のゆらぎ」
・・・の前に!
がんこエッセイが京都新聞(滋賀版)に取り上げて頂きました。
ただ地味に”さらなる展開”などは一切考えずコツコツやってきたものだったので正直すごく驚き、そして励みになりました。
こんな感じで今月号も滋賀県守山市の本屋さん「がんこ堂」3店舗と根津の芸術酒場イーディにて絶賛配布中でございます^ - ^
引き続きバックナンバー[2019.2月〜2020.5月まで]もぽちぽち更新していきます、お楽しみに!
この記事が参加している募集
長く絶版になっていたわたしのデビュー作「蝶番」と2012年の渾身作「誰かJuneを知らないか」がこの度、幻冬舎から電子出版されました!わたしの文章面白いなと思ってくれた方はぜひそちらを読んでいただけたら嬉しいの極みでございます!