芋出し画像

🍉すきずおる VOL.1

 䞖界は倚数決のぬり絵なのだ、ず、ふず思ったのは、昚日、シャン゜ン䌚の準備をしおいるずきだった。
あいにくのどしゃ降りで(いや、しかしシャン゜ンには雚が䌌合う、ず実環子は考えおいるので、あいにく、ずいうのは客人のための蚀葉ずしよう)雚がひっきりなしに降っおいた。
実環子は窓を開け攟ち、網戞の向こうから聞こえおくる、おいしそうな氎の音を聎いおいた。遠くの方で聞こえる、土にあたる雚足の音に比べお、手前で倧きく聞こえる、堅暋たおどいの䞭をじゃぶじゃぶず流れる氎の音は、おいしそう、ずいうのが䞀番適切な圢容なのであった。しばらくの間、その音を最倧音量に―ずはいっおもそれは物理的に無理なので、比范の問題ずしお、家の䞭を無音に保ち―黙々ず準備をした。
冷しゃぶなんかいいなあ、胡麻だれを぀けお、野菜を巻いお、ず思ったのだけれど、的確なレシピがわからないので本をひっぱりだしおきた。

【材料】
豚肉(薄切り) 
グリヌンアスパラ...本
サニヌレタス.../株
キュりリ...本
プチトマト...個
[薬味]
ミョりガ 個
倧葉...~枚
[癜ゎマダレ]
緎り癜ゎマ...倧さじ
䜜り眮き甘酢...倧さじ
癜ネギ(みじん切り).../本分
しょうゆ...倧さじ
ポン酢しょうゆ(垂販)...適量

  どのタむミングで肉に火が通ったかを芖芚的に認識できない竜之介も、あらかじめ茹でる冷しゃぶなら、気兌ねせず食べれるだろうず思ったけれど、このレシピでは、おそらく竜之介にずっおは味気ない茶色緑のお皿になっおしたいそう、ず考え、䜕か癜い色を足すこずにした。
冷蔵庫の䞭にある癜いものは、梚、豆腐、玉ねぎ。赀い野菜は、パプリカ、倧きいトマト。実環子はキュりリが嫌いなので、冷蔵庫の䞭にキュりリは入っおなかった。レシピは次のように倉曎になった。


【材料】
豚肉(薄切り)...適量
グリヌンアスパラ...本
普通のレタス...適量
赀いパプリカ...個
トマト...個
玉ねぎ(スラむス) 個
絹ごし豆腐 䞁
[薬味]
ミョりガ...個
倧葉...~枚
[癜ゎマダレ]
ゎマだれ(垂販)
ポン酢しょうゆ(垂販)...適量
【その他】
癜ワむン 癜は詳しくないので安いシャブリ本
梚 適量

 準備をしながら、氎の音を聎いお、果たしおこの氎の音を「おいしそう」ず圢容するこずに玍埗する人間はどれくらいの割合でいるのか考えた。その埌、䞖界のあらゆるものを割合で蚈っおみた。

  䞖界に存圚しおいるものの䞭で芋えおいるものず芋えおいないものの割合、聞こえおいるこずず聞こえおいないこずの割合、みんなが知っおいるこずず知らないこずの割合、男ず女の割合、男でも女でもない人の割合。そこたで考えたずき、そもそも人間の皮類を男ず女のふた぀に分けお定矩したのは誰なんだろう ずいう疑問に到達した。粟神的に男ず女が混圚しおいる人もいるし、肉䜓的に混圚しおいるふたなりず呌ばれる人もいるし、指折り数えるずいく぀かの皮類が存圚するはずであるのに、「いや、性別は二皮類だ」ず倧たかにふた぀に分けたのは誰なんだろう 
そのずきにふず降っおきたのだ。今たでのずころ、䞖界は倚数決の塗り絵なのだ、ずいう蚀葉が。

  実環子はそれを口に出しお蚀っおみた。するずそれは、たすたす、そうだ、確かにそうだ、ずいう実感をも぀響きずしお、網戞をすりぬけ、堅暋の䞭ぞ氎ず䞀緒に流れおいった。じゃぶじゃぶずおいしそうな音をたおながら。

 䞖界のカンバスに塗り絵は、油絵のように、繰り返し繰り返し、ある地点で党く違う色に重ね塗りされ、それたで違う色に塗られおいたこずなどなかったかのように、しらっずそこに新しい色が存圚する郚分や、たた、圧倒的な倚数決でもっお、けしお塗り重ねられない郚分があったりもする。平たかった倧地が、しばらく時間をかけお、平たかったこずなどなかったように䞞い球䜓ずなり、性の区別は頑なに二皮類で分けられおいる。
 
   å®Ÿç’°å­ã¯ãšãã©ãè€ƒãˆãŠã„る。もしこの䞖界ず呌ばれる球䜓が、球䜓ではなくお、䟋えばサむコロ状であったら ず。その可胜性はないのかず。
 十二色のクレペンしか䜿わせおもらえない幌皚園のころ、い぀も倪陜を黄色く描いおは赀く描きなさいず怒られおいた。けれども䞭孊や高校になっお絵の具を扱い、色を混ぜるこずができるようになっおからは、昌間の倪陜を描くのに、赀を䜿う人のほうが少なかった気がする。倕日でもない倪陜を真っ赀に塗ったら、それは、逆に奇異なこずであった。
 倚数決によっお䞖界が床倉わる。䞍確かから新しい䞍確かに。
 そんなこずを考えおいるうちに、冷しゃぶができた。
味芋した赀いパプリカは、ポリポリず新鮮な音を立おお実環子の胃に萜ちおいった。

口の䞭には、少しの苊味ず、それを包む甘さが残った。
䞀䌑みしお、爪を青く塗った。雚に合わせたけれど、果たしお雚の色っおなんだろう 実環子は考える。青のむメヌゞだけれど、それはあくたでむメヌゞであっお、正確に雚色に塗るなら、透明のマニキュアでよかったはずだ。けれどもカンパスに、もしそんな色があるずしお透明の絵の具でたくさん雚を降らせたら、きっず景色は逆に晎れおしたう。実環子はなんずなく、くくく、ず笑った。
 矎術教垫的芳点からいうず、もし、透明のマニキュアを塗った指を描くなら、䜿う色は、癜ず、桃色ず、黄色ず、それが混ざり合った肌色のグラデヌションだ。透明のグラスを描くずきは、ガラスの向こうの䞖界をどんどん描きこむこずによっお、透明が出珟する。そう、透明の絵の具はないから、透明、ずいう色もないのだ。

 描きこめば描きこむほどにカンバスはすきずおっおゆく。
 ぀たり、色や、芖芚も、もずを蟿れば、光の手品。

  也ききっおいない爪に、泚意を払いながらをかけた。
 ゜フィヌ・ミルマンの“  アガ・ゞュ・ベ・ベ”邊題は“おいしい氎”

 郚屋に満ちる、ボサノノァの甘ったるいリズムず、倖から入り蟌む堅暋を流れる氎の音を混ぜこぜに聎くうち、実環子はだんだん、ここが倧きな氎槜で、自分がその䞭の氎になったような気分になっおきた。氎は甘く、硬くも柔らかで、粒でもあり、たずたりでもある。

 氎ず女は䌌おいるな、分裂ず融合をくりかえし、景色も音も映しこんで、透明な液䜓になりながら実環子は考えた。

                      ---vol.2ぞ続く---



この物語は春の短篇「゜メむペシノ」の続きです。「゜メむペシノ」はこちらから読めたす。「すきずおる」以降はこちらnoteで無料配信いたしたす〜


著者よりこの連茉は、栞珈琲根接×PASSAGE Bis!のNight Coffeeず連動しお始たりたした。ですので曎新は”栞珈琲 at Bis!”の日に行われたす

なお「すきずおる」ですが14幎の時を経お蔵出し連茉されたしたゆえ、ちょっず䞁寧に確認しながらupしたいず考えおいたす。なのでもしかしたら来週は曎新されないかもしれたせん確認が早く終わったら曎新する

ずある日の雑談栞ナむ氏

本日も19:00〜0:00たで栞珈琲at Bis!!です、お楜しみに
プチコパンをぜひ食べおください


「すきずおる」by  䞭島桃果子🍑

がんこ゚ッセむの経費に充おたいのでサポヌト倧倉ありがたいです