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「映像制作会社の社員が、採用広報動画についてアレコレ言い合ってみた。」


新年度が始まる4月。今年もたくさんの企業が新入社員を迎え入れています。
今回のテーマ「採用広報動画」。
映像制作会社MOTIONの社員2名の対談をお送りします。

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採用動画は似たり寄ったり?

きりんP(以下、K):採用広報動画ということで、採用広報玄人の私と、最近まで動画を見る側の学生だったNakaoka.さんの二人で話していきたいと思うんだけど…
Nakaoka.(以下、N):よろしくお願いします。

K:採用される身として、当時動画をどう見てました?
N:どう…ですか?ふんわりしてますね
K:そもそも採用動画って学生さんの就活に役立っているんですかね。実際どんなものを見ましたか?
N:某大手損害保険会社の動画とか…あとはMOTION(弊社)に入ったあとですけど、映像の勉強の一環としていくつか見ました。
…でも、どれも変わりがなくって詳細な印象は…。
K:「変わりがない」というと?
N:企業が作るオフィシャルなものなので、“冒険”した感じではないですよね。
『社員の1日』とか『やりがいインタビュー』とか…その企業らしさを伝えるよりも説明会のスライドの代わりといった感じで。
K:“冒険しない”というキーワードでいうと、「他社に倣って」というような感じなんでしょうか?
N:それは長年制作してきた方が詳しいのでは?
K:そうなるといつものようにたくさん話してしまうのだけど…
N:(笑)

採用動画は形式重視の悲しいコミュニケーション?

K:随分前の話で恐縮なんだけど…バブルの頃なんかは逆に、“冒険”しまくっていた時代があって。要はどう他社と違うことができるかが重視されていた頃もありました。
例えば当時でいう準大手のとある証券会社なんかは、若手社員が船に乗って対談をして、オフィスがある兜町の川からエンディングには太平洋に出る、とか。「大手と異なる視点のビジネス」というコンセプトでね。
N:へぇ〜。
K:当時の人事や作り手の思惑としては、他との差別化と同時に、人事の一見突飛な企画も受け入れる企業の度量みたいなものを表現しようとしていたんですね。ただ突飛なだけの、「スタジオクイズ番組形式」のような映像もありました。
それが採用広報動画の本質的なところなのかというのは議論しなくてはいけませんけどね。
N:最近の採用広報動画とは全然違いますね。
K:広告でいう“差別化”とは文脈が違うけど、他社と差をつける発想が、近年は変なところに向かっている気がします。極端になると、容姿で動画に登場する社員を選定するなんてこともあるとか。

N:それは学生の求めるものとはかけ離れてますよね。
K:そうなんです。そこから感じるのは人事の方たちが圧倒的に「学生さんを信用していない」ということです。「学生はそんなところぐらいしか見てくれないよね、どうせ」っていう。
N:同時に学生も「インタビューも台本を読んでるみたいで、企業は綺麗なところしか見せてない」って思っている人、多いと思います。
K:そうでしょうね。企業側もまたリアルを描いているわけじゃないというのが見抜かれている。リアルって、仕事や企業組織の本質、という意味ね。
ねじれたコミュニケーションですよね。双方にギャップがあるのに、お互い採用したいし採用されたいから、上辺だけニコニコしているようにおじさんには見えてしまいます。
だからいま巷にあふれている『若手社員の1日』という動画は、一方で“冒険せず”もう一方で“信用せず”っていう“悲しい形式”に入っているのかなって思いますね。
N:それじゃ映像の本領を発揮できないというか…映像制作会社としては切なく感じてしまいますね。

リアルを切り取るためには「オタク」であれ

K:学生は何を知りたいんでしょう?
N:そうですね…多分学生はWebやパンフレットの活字から分かるような情報は動画には求めてないと思います。「わが社の社風は…」とか「グローバル化に貢献…」云々はwebでいいと思うんです。
映像で見るより説明会はライブのイベントですから、そこにいけば登壇した社員の方の表情や上司とのコミュニケーションを盗み見る方が、よっぽど生々しいですしね。
K:じゃあ動画では何を知りたいんですかね。
N:やっぱりその仕事のリアルな面白さなんじゃないでしょうか。
学生って経験がないから業界への知識がないので、自分が消費者として関わってきた業界に夢を抱きがちだと思います。でもゲームプランナーにしろCAにしろ、とっても間口が狭いじゃないですか。だから夢を諦めて「就職先は最低限生活できればなんでもいいや…」ってなることあると思うんです。
そこで仕事の面白さを伝えることに成功している企業がたくさんあれば、そういう悲しい就活やミスマッチを防ぐことができるんじゃないかな、と。

K:そういえば以前、有名な監督が作ったある商社の60秒CMを一緒に見ましたよね。コーポレートコミュニケーションとしてのCMだけど、間違いなく採用も強く意識している。私もそれを見て「すごいなあ」と思ったし、あなたも「社風やそこで働く人たちの雰囲気が分かる」って言っていたじゃないですか。
N:何の変哲もない会議風景をカメラ1台で撮ったものをつなぎ合わせただけの素朴な映像だったけども、カメラに向かってやりがいを語るような動画よりも伝わるものがありましたよね。
K:そうそう。仕事に熱中している社員たちの姿が淡々と描かれていた。でも、確実に「この人たちはホントに仕事を面白がっているんだろうな」と感じさせたよね。

これは想像ですけど…でも多分外れていないと思うんですけど、丁寧にシナリオハンティングをして「ここが面白い、ここが仕事の本質」というところを発見して、何日かカメラを携えてそれが起きるのを待っていたと思うんですよね。
照明を焚いているわけでも、カメラをマルチで狙っているわけでもないけど、
その動画が「面白い」と感じられるのは作り手側が企業を理解する力があったからこそ。そしてクライアントも作り手の提案を受け止める度量があったからこそだと思います。
N:なるほど。
K:この企画フレームを提案した広告代理店・広告会社も尊敬します。

K:いま複数の、採用広報を扱う広告会社とご縁があるけど、その広告会社の担当者の企業の面白がり方というか、“企業オタク度”が減ってきているように感じます。どこが学生さんに伝えるべき面白い部分なのかわからないと、ありきたりな論理や形式で制作されてしまう。「まあ、これでいいよね」と。
ある採用広告会社の制作部長さんが自戒を込めて、「採用動画を変えたい。今のままだとどの会社も一緒だ」と仰っていた。たしかに学生の立場で言えば何社も同じものを見せられたらたまんないよね。
N:そうですね…。パッケージ化された動画って途端に嘘くさく見えてしまうし、説明会で流れた瞬間に集中力が切れてしまいますよね。
K:だから今一度「何をメッセージするべきなのか」を、作り手とクライアント企業がきちんと議論しながらイチから考えることが必要…というところに立ち戻っていくんじゃないかな。

(記事:Nakaoka.)


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