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不本意な同棲、18歳秋

外はまだ真っ暗。
僕の仕事は広すぎる葡萄畑で葡萄の木たちのお世話をすること。朝7時から16時半まで働く。
職場まで車で20分かかるからいつも6時半に家を出る。
日本の時みたいに始業から30分も40分も前に職場に着く必要なんてない。5分前までに滑り込めば誰も嫌な顔しないから僕はオーストラリアが好きだ。

まだいくつか星が残る朝の夜空を友達の車の助手席から眺めるのが仕事前の僕の仕事。
街頭ひとつないまっすぐな道を進む。

「何でわざわざこの人は車道を歩いとるんやろ」
と、真っ暗な道の車道の上を僕らと同じ方向に向かって歩く人を見つけて思った。
何のための歩道で何のための車道なのよ。


運転してくれてるのはミャンマー人のアキヒコ。ツッコミたいかもしれないそこの貴方。それな。
僕はアキって呼んでる。本名は難しくて聞いたけど思い出せないすまない。オーストラリアの大学に通ってた時に日本人の教授から貰った名前らしい。
アキは6ヶ国語話せる。いや7ヶ国語だったかも。
日本語も理解できる強者。アニメが好き過ぎて気づいたら分かるようになってたらしい。アニメって本当凄い。



運転中の彼に言う。
「あの人危ないね、轢いたらダメよ」

「どこ?誰もいないけど」

「え?」

「え?」

顔を見合わせてるうちに通り過ぎてしまった。
助手席から見えて運転席からは見えない不思議な朝。

その後三匹の野うさぎが一匹ずつ車道に飛び出してきてその度にアキがブレーキを踏む。

あんなちっちゃいウサギは三匹ともちゃんと見えるのに。

昨日はカンガルーファミリーが飛び出してきてアキが強めにブレーキを踏んでたっけ。

カンガルーも見えるのに。


僕だけが見たその人はなんか変だった。
ビーニーを深く被りすぎてて(前見えとるん?って思った)その上からサングラスぽいものを付けていた。はず。
頭に残ってる映像をどうしても言語化できない。思い出そうとすればするほど記憶がぼやける。

宇宙人?人の形はしてたけどとにかく変だった。


「朝から変なの見たけどまあいいか」でその場が収まってしまったけど、日本で幽霊をみたらもっと心がザワザワするに違いない。
国が変わるとこんなに他人事になるんだろうか。
日本の心霊って独特よね。国が変われば人も文化も変わるように幽霊の設定も怖さのパターンも変わるのがおもしろいよね。


貴方は幽霊を信じますか。


僕がまだ小さすぎる時、母と市営住宅に住んでた時期があるんだけど。

その時1人で洗面所に行って、風呂のドアを開けたら目の前に青い人が立ってたのを今でも覚えてる。ただそこにずっと立ってた。その人のことをしばらく見上げてたことも覚えてる。

「おかあさん、おふろにあおいひとおる」って風呂場から戻ってきた僕が母に言ったらしい。
それを聞いた母はどんな気持ちだったんだろうか。
もし僕が母なら最低1週間は銭湯に通う。

小さ過ぎる時の記憶は本当に何も覚えてないけど、その時の記憶がかなり印象的だったのか、今もその時のことだけはっきり覚えている。でも当時の僕がその出来事を怖いと思っていなかったから思い返しても怖いとは思わない。


それ以降は特に何かを見た記憶はない。

中学生の時、古いボーリング場で友達と遊んでる時に後ろから後ろに人の気配がして、肩を叩かれたと思ったから「なにー?」って振り返ったら誰もいなかったことが一度あったくらいだろうか。


それからしばらく経って、18歳の秋。実家を飛び出して一人暮らしを始めた。
県内で一番賑やかな駅からチャリで15分くらいの所にあるアパートで部屋もリフォーム済みでという好条件の割に家賃が安かった。

初めての一人暮らしを最初はかなり楽しんでたんだけど、住み始めて1年半くらい過ぎてから急に変なことが起こるようになった。

壁に貼って飾ってあったポストカードが剥がれて落ちてる。だけなら別にいいんだけど、何故か縦向きに貼ってあったはずが結構斜め向きになって壁にくっついていたりする事が時々起こるようになった。
剥がれたものを誰かが貼り直したみたいな。

窓を開けてない部屋でコンセントを刺してない扇風機が回り出したことがあった。

今まで金縛りの"か"の字も知らなかったのに金縛りにあうようになった。しかもそれが夢だか現実だか分からなかった。夢と言われれば夢な気がして、現実と言われれば現実だと言えた。でも夢にしたらあまりにリアルで夢らしくない。
夢と現実の隙間。
金縛りがくるととにかく動けない。それと大体同じタイミングで次はめちゃくちゃ息苦しくなる。
ちなみに霊感がある友達のパパも霊感が強いらしいんだけど、パパの場合は自力で金縛りを振り解くらしい。
いやいや嘘でしょ。
「金縛りは脳が寝てて身体が起きてる状態なだけだよ。幽霊なんていません。」と論じてくる人もいるだろうなあ。別にどっちでもいいけど苦しくて怖いことには変わりない。

首絞められてて残りの喉の隙間で必死に空気を通わせるあの感じ。マラソン走る方がよっぽど良い。

これはずっと僕の悩みなんだけど貴方は夢の途中で自力で起きれますか。
僕はそれができるようになりたいんだけど、いつも夢に全く抗えないの。夢って自分で分かってる時でもどうしても夢から出られないの。
こんな苦しい夜を夢だと思いたくて必死に現実に戻ろうとするし、目を開けようと頑張るんだけど一度だって元の自分の場所に戻ってこられた試しがないの。


それからまた別の日の夜、寝ている時にまた息苦しくなって、うっすら目を開けたら自分のお腹の上に小さいお婆ちゃんが正座して座っててずっと何かぶつぶつと唱えてたのを覚えている。でも、それも夢と言われれば夢な気がして、現実と言われたら現実だと言える。でもね見える景色がどう見たって自分の部屋で、自分のベッドで、感じる感覚がリアルなの。
夢と現実の区別が曖昧になってる自分の事がなにより怖かった。

朝シャンする習慣なんて無いのに学校から帰ったら勝手にシャワーが出てたこともあった。

もしかして誰か住んでたんだろうか。
生身の人間じゃないことを今更になって願う。

あまりにも心霊現象らしいことに振り回されてたので、視ることをお仕事にされている方に会う機会があったから、今まであった怖かったことを全部伝えて、それから部屋の此処が何故かずっと気になってるってことを伝えたらピンポイントで「そこにずっと座ってるよ」と言われた。本当にその場所がなぜかずっと気になってたの。
直感って凄いよね。


アパートが安かった理由が1年半を過ぎてようやく分かってきて、ここを解約して別の所へ引っ越すか、もしくは実家に戻るかの選択肢があったんだけど、実家から学校まで1時間と少し遠かったもので、早起きして実習に行って、看護師たちに揉まれてクタクタで帰ってきて、徹夜して莫大な量の記録に追われて寝不足でまた実習に行くみたいな限界看護学生をどうしても僕はやりたくなかった。家が遠い上に朝も早いから新幹線で登校しとる友達おったもんね。

よって、奇妙な二人暮らしをそこから結局1年続けた。
時々母が身を清める為にアパートに清酒を持ってきてくれた。その時の僕ができる多少の抵抗は清酒と塩だけだった。

その奇妙な2人暮らしをしてたその当時は、何故か周りに視える友達ばかり居たのも不思議。
今はその人たちとは縁遠くなってしまったけれど。


家の中だけじゃ治らなくなって、超古い病院で実習中に、人影が部屋に入っていくのが見えた気がして何となくその後を追いかけてその部屋を覗いたけど誰も居なかった、なんてこともあった。

実習先のナースステーションに重症患者さん達の様子を確認できるモニターが付いていて、やる事が尽きてしまった僕はとりあえずナースステーションの隅で看護師の邪魔にならんように静かに突っ立ってそのモニターをなんとなく眺めてた。
そしたら、ある患者さんのベットの側にだけ黒いモヤモヤしたものがあるというか、漂っているのに気づいて「何やろうあれ」と思いながら、でもあまり深く考えずにぼんやり眺めていた。
そんな事をすっかり忘れてた次の日、その部屋の患者さんが夜中に亡くなったことを朝の申し送りで聞かされた。
思い当たる節しかない。昨日見たあの黒いモヤモヤはお迎えだったのかもしれない。


でもめでたく看護師になってからは幽霊よりも怖い先輩と勤務が被ることの方が怖くて、患者さんの急変の方が恐ろしくて、それどころじゃない日々を送っていたので病院で特にこれといって怖いことはなかった。
いや、あったような気もするけど覚えてない。
でもアパートが変わっても金縛りと息ができなくなるのだけは変わらず続いていた。

怖すぎて霊感ありありの友達に報告したやつ
やめれ



夜勤中に患者さんが亡くなられた場合、自分の病院では基本的に年次の低い看護師が一人でご遺体と一緒に霊安室まで降りないといけなかったんだけど、一年目なんてもちろん低年次で、二年目ももちろん低年次で、三年目でもまだ低年次みたいなものなので、病棟と霊安室を行きする機会がそれなりにあった。

何故か最近自分が勤務中に誰か亡くなる、今月霊安室ばっかり行っとる、みたいな時期が毎年あった。
「なんか最近いつも霊安室降りてない?」って先輩と後輩に毎年言われてた。不本意だよ。

お見送りをした後、仏壇を元通りにして軽くなったストレッチャーを廊下に出してから、部屋の電気を消して真っ暗になった霊安室を出るまでのあの数秒間、それからドアを閉めるまで暗い霊安室と目が合うあの瞬間が超怖い。

別に何も悪い事してないんだけどね、怖いものは怖いじゃん。


これまでの事を改めて思い返してみたら、あの時結構怖かったなって思う。(今更)
でも人間って大体の記憶を最終的には美化できるくない?僕だけ?
ちゃんと怖かったくせに今は"あれもまあ良い思い出"として脳の海馬に保存されているようだ。
都合が良くて大変助かる。


ちなみに、この頃僕が一番怖いのは売国政策に全力を注ぐ岸田総理とお金にしか目がない自民党議員たち。あと真実を絶対に報道しないメディア。幽霊より怖いよアンタ達。
日本国民がこんなに苦しんでるのにいまだに己のことと目先の利益しか考えられないのね。
今年の国民の税負担率50.6%の見通しって何なの?「2022年のピークから比べると低下している」じゃないんよ。それでも半分やんけ。20年から賃金全く上がってないのに税負担率だけ上がってるのはどういうタイプのいじめ?
それからコロナワクチンで今沢山の人が亡くなってるのに一切そのことを報道せずに嘘を重ねて更にワクチンの追加接種を煽ってるのも全く理解できない。
でも僕は今日本に籍がないから此処でどんなに喚いてももちろん選挙権がない。何とかしたいのに、何とかする方法が政治に参加して投票に行くことなのに参加する権利が無いことが悲しくて悔しくて仕方ない。
今から東京都に転入届を出して7/7の東京都知事選挙に投票しに行きたいくらい選挙に行きたい。
一人一人が持ってる一票の価値って凄いんだよ。「税金高すぎ、お金ない、皆んなやっとるからとりあえず積み立てNISAでもやっとくか」よりも"選挙に行く"方が確実に未来の僕たちのためになる。その後選挙割りが使える飲食店でお得にご飯食べて家路につきたい。

今日も明日も明後日も、どうか日本が日本でありますように。大好きだニッポン。

怖い話を聞いて欲しかっただけなのに今の日本が心配すぎてついつい脱線してしまった。


有難いことに、ラリアに来てからは金縛りも息ができなくなるようなことも気がついたら無くなってて、平和な夜をぐっすりと過ごせているしニコニコしながら毎日を過ごせている。
誰にも邪魔されずに朝まで気持ちよく寝れるだなんて僕はなんて幸せなんだろうか。


貴方の夏がちっとも怖くありませんように。

今年も日本のみんなが素敵な夏を過ごせますように。

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