『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.33「果つる底なき」
「最近、寝不足だ」
原因ははっきりしている。池井戸潤さんにはまってしまったからだ。子供のころにゲームに熱中しすぎてよく寝不足になっていたのを思い出す。こんなことなら出会わなければ良かったと後悔するほどに、心と睡眠時間を奪われてしまって、正直辛い。
第44回江戸川乱歩賞受賞作。「これは貸しだからな」と謎の言葉を残して死んだ同僚の坂本。死因はアレルギー性ショック。彼の無念を晴らすため、そして大事なものを守るため、主人公の伊木は一人、銀行の闇と戦う。
「刑事がこんなことを言うのは変と思われるでしょうが、伊木さん、この事件はきっとあなたが解決すべき事件だったんですよ。坂本さんからあなたに引き継がれた、銀行員としての本能というか執念というか、それが事件を解決したように思うんですよ」
「あなたが解決すべき事件」
そういえば僕が以前パチンコ店の店長をしていたころ。ホール内のクレームでどうにも収まりがつかない時は、僕が出て行って対応をするようにしていた。そうすると、どれだけ怒っていたお客様でも、みるみる表情がやわらなくなっていき、最後には笑顔で帰っていかれるのだ。これは何も僕の対応が良いからという訳ではなく、単に「店長に対応してもらった」ということで「自分が大切に扱われた」と感じるからに他ならない。多分これは、当時の「僕(店長)の解決すべき事件(というほど大げさなものでもないけれど)」であったのだろうと、この一節を読んで思い出した。
そしてもう少し本書に寄せて考えてみると、「あなたが解決すべき事件」というのは、言い換えれば「使命」ということになるのかもしれない。ワンピースのルフィは必ず敵軍と戦う時に「あいつは俺が倒す」と自分の使命(戦う相手)を決める。自分が果たすべき役割。人には必ずそうしたものがあるのだろう。
自分がやること。自分でなければならないこと。自分がやるからこそ、意味のあること。他ならぬ、自分がすべきこと。こうしたことに対峙したときに、人は強くなれる。そうしたら、寝不足なんて、怖くない、きっと。
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