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真夜中のサイクリング

夜中の23時頃。
ぽつりぽつりと窓から光が消えはじめる時間帯。
僕は出発の準備をする。
黒の小さなショルダーバックに家の鍵と財布を入れて、そっと音を立てないように家を出る
駐輪場へ向かうと、ほとんど見えない中手探りで自転車を探し、サドルに跨る。
そして、月明かりと僅かな街灯の光を浴びながら
ゆっくりペダルを漕いでいく。





僕の住んでいる家は駅から遠い場所にある。
駅から歩いて帰ろうものなら2時間近くかかるかもしれない。
周りには田んぼもあるし、いつ建てられたのかわからないような木造の古民家もあったりする。
でも、あまり嫌いではない。
田んぼでは収穫時期になると稲が金色の絨毯のようになって綺麗だし、夏は近くの小川に蛍が現れてなんとも言えない幻想的な光景になる。





いつもの道を進んでいく。
すると色々な音たちが僕の前に現れる。
踏みつけた砂利の音、揺れる草木の音、少し不気味な風の音、どこかで車が通る音、名前を知らない虫の音…
昼間隠れていた音たちが一斉に歌い出す。
まるで、「僕はここにいるよ」といわんばかりに。





今更だけど夜は少し怖い。
暗闇をすすむにつれて、心なしか徐々に脈が速くなっていく。
僕の臆病な性格によるものなのか、本能的なものなのか、ただの運動不足によるものなのか。
ふと、思い出したのだが人間は遺伝子レベルで夜を怖がるらしい。
大昔、人がまだ狩りを行なって生活していた時代の夜は夜行性の動物から襲われる危険性があったからだろう。
進化の過程である程度克服しているらしいが、僕がお化け屋敷に入れないのも、きっと本能せいだと思いたい。
そんなことを考えながら進んでいく。
まだ、脈が脈が速い。
なんとなく、僕を照らしてくれる街灯を愛しく感じた。
これが俗に言う吊橋効果か。(ぜったい違う)






僕は目的地を決めずに家を出る。
目的地を決めるとなんとなく縛られている感じがして嫌だ。
自由こそ最高の贅沢だと思う。
近所のコンビニ、少し離れたレンタルショップ、駅前の公園、24時間営業のスーパー、隣町の本屋さん、どこにも行かずにただサイクリングして帰る時もある。
今日も、自由気ままに自転車を進める。
みんなは今頃夢の中でどんなことをしているんだろうなんて想像しながら。

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