外人のカツアゲと日銀文学の終焉
「田内さん、住宅ローン金利はあがっちゃうんですか?」
インスタグラムのDMに数人の方からこんなメッセージをいただいた。
今週火曜日の話だ。この日、金融市場に衝撃が走った。日本銀行が長年続けている金融政策に修正が入ったのだ。
住宅ローン金利は上がるのか?
僕らの生活は今後どう変わるのか?
まずは、日本銀行の方針転換が何を表すのかを理解する必要がある。
ざっくりイメージだけ伝えると、これまで外人にカツアゲされてもお金を出さずに我慢していた日本銀行がついに屈してしまい、さらに外人たちが群がろうとしている状況だ。
それはいったいどういうことか。
順を追って説明していこうと思う。
そもそも日銀が何を言っているのかを理解する必要があるのだが、これは一筋縄ではいかない。非常にわかりにくい文章なのだ。
一ミリも理解できなくても、心配ない。
それが正常なしるしだから。
「日銀文学」とも呼ばれるこの文章はほぼ全てが建前で覆い尽くされている。本音を知るためには、前回の発言とのわずかな差分や行間を読まないと理解できない。
文学とはいっても醜悪な文学だ。
三島由紀夫の描くような美しい文学とは真逆にある。
この文章だけ読むと、最後の行の“物価安定の目標の実現”にむかってがんばってくれているように思える。たしかに、日銀の方針転換によって一ドル137円から133円へと一気に円高が進んだ。
円高にすすむことは、僕らの生活にとってもものすごくいいことだ。輸入に頼っているエネルギーや小麦の価格が一気に3%安くなったのだ。
「日銀、すげーじゃん」
そう思う人も多いだろう。
しかし、それは今回の修正の本質ではない。
日銀総裁の発言の中には、こんな一文がある。
日銀は、10年国債金利(長期金利)の誘導目標を0%においている。とはいえ、10年国債は日々市場で取引されているので、0%ぴったりにすることは難しい。そのため、ある程度の許容範囲をおいていて、以前は−0.25%〜+0.25%の幅だった。
最近は市場が動きやすくなっているから、今回の修正によって−0.5%〜+0.5%に変えることにした。
前後の文章も合わせると、そのように読み取れる。
なんだ、幅が広がっただけで、真ん中は0%のままじゃん、と思われそうだが、これは建前。本音はまったく違う。
長期金利は、ここ最近ずっと上限の0.25%にはりついたままだった。外人の国債の空売りに対抗して、日銀が買い支えるという構図があった(詳しい説明は省くが、国債の価格が下がると金利は上がる)。
上限が0.5%に変わったことで、長期金利は0.25%を超えて、0.5%に近づいていくだろう。実質の利上げだ。
0.25%が0.5%に上がるだけならかわいいものだ。
しかし、こんなことも言っているのだ。
この文章とその前後から本音を読み解くと、こういう話になる。
「僕ら日銀が10年金利を低く抑えたせいで、市場を歪めてしまっていた。やっぱり、抑えるのはよくないわ」
これまでも自分たちの方針が間違っていたことを認めたのだ。
わかりにくくて醜悪な「日銀文学」が、これまで評価されていたのは、彼らの一貫したプリンシプルがあったからだ。目的達成のためには決して態度を変えないという姿勢が示されていた。
「外人が空売りしようと、何が起きようと、自分が市場をコントロールする」という強い態度があった。
ところが、今回、その態度を一転させた。市場に対して白旗をあげたのだ。
人間関係と同じで、一度舐められたらおしまいだ。
新しく0.5%というターゲットを示しても誰も信じない。どうせ市場に脅されたら、また上限金利を上げるんだろうと。
言い方は悪いが、こんな感じで外人にからまれている場面をイメージしたらいいと思う。
「なんやコイツ、金出さへんって言っていたのに、脅したら出すやんけ。もっと脅したら、もっと金出すんちゃうか。金利ももっと上げられるやろ」
さて、ここで、まわりにいる外人はどう思うのか。これについても考えてみようと思う。
主に2つの反応が考えられる。
A 「なんや。もっと金利払ってくれそうや。俺らも日本円買おうぜ」
B 「日本って経済的にやばい国やで。それなのに金利払わせたら、いよいよやばくなるわ。近寄らんとくわ」
Bの反応が返ってくるときは通貨の信認がなくなっているときだ。
高い金利じゃないとお金を貸してもらえなくなるし、さらに通貨自体も安くなる。直近だと、トルコリラがいい例だ。金利は10%を超えていたが、通貨安が続いていた。
日本は通貨の信認を失っているという人たちがいる。
しかし、今回の反応はBではなく、Aだった。日本がこれから金利を上げていくのなら、日本円をもっと買おうぜ、という反応だった。
0.25%から0.5%への実質“利上げ”に留まらず、さらなる利上げも起こり得ると考える人がふえた。そして、日本円に対しての信認が失われているわけではないから、円が買われて急激に円高にふれたのだ。
なので、日本がズブズブと沈没していくことはなさそうだ。その点では一安心。
円高になることは、消費者の立場からすればいいことだ。しかし、金利が上がることはお金を借りる人からすれば困った話だ。
変動金利で住宅ローンを組んでいる人はびくびくしているはずだ。しかし、今回、変更されたのは長期金利。変動金利に参照される短期金利とは関係ない(はずです。責任を持てませんので、詳しくはそれぞれの契約を確認ください)。しかし、日銀が方針を変える可能性があるということが今回確認された。もちろん短期金利もあがる可能性はある。
新規で固定金利の住宅ローンを組もうとする人たちは、長期金利の上昇の影響を受ける。すぐにではないが、時間とともに銀行の設定する固定金利は上がっていくだろう。それが0.25%の上昇だけでおさまる保証はない。
参考までに、4000万円、35年住宅ローンの金利が0.25%上昇すると、支払うべき利息は約180万円増える。
1%なら利払い負担の増加は700万円を超える
個人だけでなく、企業もお金を借りにくくなるだろう。さらに景気が冷え込みそうだ。
円高に進むことで一時的には物価は安くなったかもしれない。しかし、金利は上がる。そして、どこまで上がるかはもうコントロールできないよ、と日銀が言ってしまったに近い。政治的なプレッシャーもあったのかもしれないが、いずれにせよ孤高で誰にも屈しなかった日銀はいなくなった。
三島由紀夫は自ら命を絶ったが、三島文学は今も美しく残っている。
一方の、日銀総裁の黒田氏は任期を全うするため、自らの延命のために、日銀文学を終焉させてしまった。日銀は信頼を失ってしまったのだ。
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ここからは、余談だが、三島由紀夫の代表作「美しい星」が僕は好きだ。
2017年にはリリーフランキー主演で映画化もされている。人間のふりをして日本に住んでいる宇宙人一家の話なのだが面白い。
さて、原作の小説にはこんな一節がある。
「或る日、彼は突然、自分がただパンだけで、純粋にパンだけで、目的も意味もない人生を生きていることを発見する。」
日本は戦後、アメリカにパンを与えられた。
美味しい美味しいと言ってパンを食べることを覚えた日本は、アメリカから小麦粉を輸入するようになった。オレンジや牛肉も自由に輸入するようになった。
戦前は9割近くあった食料自給率(カロリーベース)は現在では4割を切っている。
その食料自給率が下がったことが、僕らを苦しめているという話はこちら
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読んでいただいてありがとうございます。
田内学が、毎週金曜日に一週間を振り返りつつ、noteを書いてます。新規投稿はツイッターでお知らせします。フォローはこちらから。
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