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ラピダスよ、夢を語れ─2ナノ量産は遠くとも、未来に力を与える

昨今は半導体ニュースが出るたびに、現場に近い40〜50代のエンジニアから「いまさら」感コメントがすごく目立つ。過去に辛酸を舐めた人が多いからだろう。
長く半導体オペレーションに携わった筆者も、ラピダスの2ナノ量産には大いに疑問を抱いているが、「強いてプラスの可能性を見るとしたら」と仮定して、その効果を推測してみた。


ファウンドリ・ラピダスの発表

ラピダスは今年3月1日、北海道千歳市に工場建設を進めることを発表した。
同社は昨年11月の設立に際し、2027年に2ナノのロジック量産開始を目指すことを発表している。
この発表当時、多くの専門家やエンジニアたちから疑問の声があがったことは記憶に新しい。 かつて国会で「日本の半導体崩壊の歴史」について講演した元半導体技術者の湯之上隆は、「誰がラピタスに半導体を生産委託するのか」「国産のファウンドリよりもインテルに来てもらう方が現実的だ」などと痛烈に批判している。

今年3月にも台湾のリサーチアナリストが、「製造はできるだろうが収益性のある量産はまだ難しいだろう」との見解を述べている。

エンジニアたちの反応

筆者の知る40~50代のエンジニアたちは皆、ラピダス設立のニュースを聞いて否定的だった。タイタニック号のように沈んでいく日本の半導体企業で息を潜め、半導体設計を続けた者たちだ。

設立の発表と同時に、政府はラピタスに700億円を拠出すると発表した。この金額にしても、先端の半導体工場の立ち上げには全く足りないという批判もある。

「半導体では45nmから2nmへ、⼀気に9世代もジャンプすることなどあり得ない。はたして出資した8企業*は、先端の半導体を使う予定があるのか。何より政府主導の半導体スキームは、過去一度も成功したことはないではないか」(湯之上氏)。半導体関係者なら、このような疑念を持つのは当然だろう。
*ソニーG、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自、NEC、NTT、三菱UFJ、キオクシア

ラピダスの求人情報と量産スケジュールから見える狙い

筆者はラピダスを、日本が半導体を量産するというミッションを持つ工場であることは理解しつつも、それ以上に新しいメッセージを打ち出すための事業という意味合いで捉えている。

そう考える理由は2つある。

ひとつは、ラピタスが公開している求人情報の内容だ。同社の求人情報を見ると、応募資格は専門性を有した職務経験3年以上、高専卒以上または博士課程修了。英語はTOEIC600程度とある。
20~30代でエンジニアリング経験を持つ者が対象だ。40~50代の脂の乗った技術者を求めてはいない。英語の基準を見ても、外国人の応募は想定していないようだ。

もちろん、半導体工場のオペレーションはかなり自動化されており、量産のために熟練した技術者が必要であるとはいえない。
しかし、半導体チップの量産には客先との協業が不可欠だ。市場不良が起こった場合や歩留まりがでない場合に、「経験不足の技術者が客先のエンジニアと問題解決できない」では通らない。

そうすると、ラピダスは先端技術の量産サポートのできる技術者を求めてはおらず、若いエンジニアを先端技術に触れさせようとしているのだと理解できる。
このことは、若いエンジニアが大きなチャンスを手に入れられるということを意味する。

もうひとつは、量産の開始時期についてである。

もし本当に2027年に2ナノ量産を目指すプロジェクトがあるとするならば、すでに客先と話を進めている頃合いであり、TSMCとのコンペが始まっていなければならない。 しかし、出資している8社からTSMCにそのような打診をしているという情報はない。
つまり、2ナノ量産までにはまだ時間がかかると考えてよいだろう。

ラピダスの戦略と可能性

ラピタスの小池社長は、「TSMCの後は追わない。同じ土俵では勝負しない」と明確に語っている。つまり、自社の製品や技術を競合企業との比較ではなく、市場全体の拡大という視点で捉えている可能性がある。
その意味でラピダスは、日本のエンジニアに夢を与える存在へとなり得る可能性がある。

もちろん、大規模な量産を実現するには、日本のサッカーチームがW杯で勝利を目指したのと同じくらいの難度の壁を乗り越えなければならない。
それには時間が長く、長くかかる。

Jリーグの発⾜は1993年。同年、W杯はアジア最終予選で敗れた。
初めてW杯に出場できたのは5年後の1998年。

それからさらに30年を経た2022年大会では、ベスト8を目指した。

今年1月のW杯での日本チームの活躍は、目を見張るものであった。
ならば同じように、「ラピダスよ、夢を語れ」とエールを送ってはどうだろうか。



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