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熊本はあらたな米どころ?元半導体メーカー社員が考える、JASM

「産業のコメ」という呼称がある。幅広い産業の中で、中核の役割を担(にな)い、なくてはならないもののことをさす。日本の高度経済成長を支えた鉄鋼がそれに当たる。そして現代の「産業のコメ」は、半導体だ。しかし2022年の現在、半導体はまだ日本の産業のコメに値する存在だろうか。

このコメの産地はアメリカ、台湾、中国、韓国、欧州など世界各地におよぶ。日本も70年代から80年代には、DRAM(ディーラムと読む。パソコンなどに使われるメモリーの呼称)などの技術開発が進んだ世界トップの産地であった。

しかし1986年の日米半導体協議をきっかけに、日本の半導体産業は衰退の一途をたどる。日本企業が相次いで半導体事業を縮小するなか、高い技術を持ちつつ、活躍の場のなくなったエンジニアたちの一部は、週末韓国などへ渡って技術提供したという。

半導体メーカーに勤めていたころ、特に日本の半導体メーカー出身の技術者たちの凋落の憂いを何度聞いたことか。

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その「産業のコメ」の大規模工場が、台湾企業との合弁で熊本の菊陽町に建設されることになった。熊本は水が綺麗で半導体の生産に向いているらしい。地震や落雷などの天災も経験済みだ。

半導体工場の新設のニュースは地元を大いに盛り上げた。 しかも日本政府から巨額の助成金が出るという。これがうまく進めば、地域経済が盛り上がる。半導体の技術者が養成される。「コメ産業が復興する」と大きな期待を寄せている 人々がいるらしい。

今年4月時点の計画では、2023年9月の工場完成と、2024年12月の出荷開始を目指す予定とのこと。突貫工事が進む半導体工場の立ち上げは、 Copy Exactlyという手法で、文字通りすでにある経験知を生かし、「完全な複製」を行うというものだ。

生産調整などのオペレーションはどうか。マニュアルがあればハンバーガーチェーンと同じように、同じ品質のものを提供できるだろう。しかし複製した工場から、本国のマネージメントに頼らない、熟練した半導体技術者の養成ができるだろうか。

もともと既存の顧客である日本メーカーの需要を取り込むための工場であるが、一旦供給過多になれば、工場の稼働は落ちるものだ。不況が来たとき、食糧米は必要とされるが、産業のコメは引き取り手がなくなってしまう。この工場の真価は将来不況の時に試されるのだろう。



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