見出し画像

2022年1月22日

23歳最後の夜は、映画館で映画を観ると2ヶ月も前から心に決めていた。

「真夜中乙女戦争」

23年間生きてきて、初めてパンフレットを購入した。

映画が終わる時間には家に向かう終電がないことを重々承知の上で、私は夜の回を選んだ。113分が終わって、一番最後に映画館を出た。

夜の歌舞伎町ではタクシーが行列を作っていた。

でも、まだ乗りたくなかった。現実世界に戻るには若干の時間が必要であった。新宿駅まで歩く途中、大声で騒いでいる酔っ払いも、喧嘩しているホストと女の子も、全く目に、耳に入ってこなかった。普段ならイラつくしつこいキャッチも、今日は許してあげられた。何も気にならなかった。まるでこの世界に自分一人しかいないようだった。

新宿駅東口でタクシーに乗った。

「◯◯区に向かいたいんですが………東京タワーを見たいんです。」

今日、今日だけは、東京タワーを見ずに帰ることは私には絶対に出来ないと、そう思った。

「……そうしたら、東京タワーの真下まで行きましょうか。」

運転手はそう言って、車を走らせた。出来た運転手だった。

「東京タワーは不幸の根源である」

映画の主人公はそう言っていた。美しいもの、美しくないもの、この世の全てを壊したくなる気持ちが、私には痛いほど理解できた。破壊こそが真の美しさであると。

あっという間に東京タワーの下に着いた。

東京タワーは点灯が終わっていた。人生で初めて、暗い東京タワーを見た。東京タワーは何処となく寂しそうだった。いつもは美しく誰よりも堂々としている東京タワーにも、欠点はあるように思えた。

その後、皇居や法務局を横目に千代田区を駆け抜けながら、運転手とは東京の話をした。東京タワーは元旦にはクラブのようにギラギラと輝くこと、レインボーブリッジは稀にしかレインボーにならないことを教えてくれた。

完璧な夜だった。完璧な締め括りだった。誰が何と言おうと、あの夜は素晴らしく、私の人生に必要な時間だった。

タクシーを降りるとき、なんとなく言ってみた。

「実は、今日、私、誕生日なんです。」

運転手は、こう言った。

「…なんでもっと早く言ってくれなかったんですか?そうしたら、もっと、何か出来たのに。」

ああ、最高の夜だと、そう思った。私は、東京が嫌いじゃないな…と。

同時に、この夜を忘れることはないだろうと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?