鈴木誠也、村上宗隆・岡本和真と史上初の「二冠王3人」誕生はあるか?

広島カープの鈴木誠也を巡って、カープファンが憶測に揺れている。
今オフ、MLBにポスティング移籍するのではないかとみられているからだ。

鈴木誠也はプロ9年目を迎え、今季まで6年連続で「打率3割超、25本塁打以上」をマークしている。これは、王貞治、落合博満、小笠原道大、そして鈴木誠也の4人しか達成していない偉業である。

今季は春先から好調も5月、6月に調子を崩した。
7月に持ち直し、東京五輪2020の侍ジャパンのメンバーとして、出場した。
稲葉篤紀監督から四番を任されたものの、オープニングラウンド2試合で8打数無安打と苦しんだ。準々決勝の米国戦で初ヒットとなるソロ本塁打を放ったが、準決勝は再びノーヒット。
決勝の米国戦でも2安打を放って溜飲を下げたが、5試合で22打数3安打、1本塁打、1打点に終わった。

しかし、8月中旬のペナントレース再開後、徐々に調子を上げると、9月に入り、打棒が爆発。
9月3日の巨人戦(東京ドーム)の第4打席で今季20号ホームランを放ってから、9月9日の中日戦(マツダスタジアム)で27号を放つまで、NPB16人目となる「6試合連続本塁打」を記録した。

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王貞治、ランディ・バースに次いでNPB史上3人目となる、「7試合連続本塁打」はならなかったが、9月は実に13本塁打を放って、打率.381、22打点を挙げ、セ・リーグの月間MVPも受賞した。

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鈴木誠也はレギュラーシーズン1試合を残して現在、打率.319でセ・リーグトップに立っている。
2位の牧秀悟(DeNA)は.314、3位の近本光司(阪神)は.3128で全日程を終えており、鈴木を追い抜ける可能性があるのは、打率.3126で4位につけている同僚の坂倉将吾(広島)のみに絞られている。

鈴木は本塁打でも38本で、トップの岡本和真、村上宗隆の39本塁打に1本に迫っている。10月17日の阪神戦(甲子園)で37号、38号と1試合2発を打ち、岡本と村上に猛迫したのである。
だたし、鈴木は足の状態が思わしくなく、守備につける状態ではないようだ。10月24日の阪神戦でスタメンで出場したが、3打席で途中交代した。
本拠地・マツダスタジアムで行われた10月28日のDeNA戦では代打で出場(結果はDeNA先発・京山将弥からライト前のタイムリー安打)、本拠地最終戦の10月29日のヤクルト戦でも代打での出場(ヤクルト3番手・金久保優斗から四球)に留まり、代走を送られ、守備にはついていない。

広島は11月1日、神宮でのヤクルト戦を残しており、もし鈴木誠也が出場して、1本でも本塁打を放てば、本塁打王のチャンスが出てくる。
仮にその試合で5打席、凡打しても、打率は.3158となり、坂倉が3打数3安打で打率.3175となれば逆転するが、坂倉が3打数2安打であれば、打率.3152となり、鈴木が首位打者から陥落することはない。

鈴木誠也は先日、10月12日マツダスタジアムで勝利した試合で、今季34号本塁打を含む3安打3打点で坂倉を抜いて首位打者に立った。
試合後のヒーローインタビューで、セ・リーグトップタイの今季12勝目を挙げた九里亜蓮、NPB新人歴代2位となる32セーブを挙げた栗林良吏と共にお立ち台に上がった際、
「自分は一度、首位打者を獲っているので、坂倉さんに取ってもらえれば」
「僕は首位打者より今日みたいにいいところでたくさん打てればいいと思っています」
と語っていた。
言葉通り受け取れば、坂倉に抜かれて首位打者を獲れなくても本望、ということなので、首位打者に拘って欠場する、というより、本当に足の状態が悪いのだと推測される。

非常にレアな「首位打者」と「本塁打王」の「二冠王」

実は、首位打者と本塁打王の「二冠王」というのは、「三冠王」と同じくらい希少価値がある。

NPBで「首位打者」と「本塁打王」のタイトルを同時に獲得したのは、「三冠王」を含めると過去20度、達成されているが、「首位打者」と「本塁打王」を獲得して、「打点王」が獲得できなかったのは過去9回しかない。

本塁打が増えれば、打点も増える傾向にあるが、打率の高さと本塁打の多さを両立させるのは「本塁打」「打点王」の二冠よりも難易度が高いということだ。
一方で、打率がリーグトップで、本塁打もトップ、にもかかわらず、打点王を逃すということは、得点圏で打席が廻ることが少ないか、同じチームの自分より打順が前の打者が打点を稼いでしまうか、という二つの要因が考えられる。

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「首位打者」と「本塁打王」を獲得して、「打点王」が獲得できなかったのは、

1948年 青田昇(巨人)
1951年 大下弘(東急フライヤーズ)
1955年 中西太(西鉄ライオンズ)
1958年 中西太(西鉄ライオンズ)
1961年 長嶋茂雄(巨人)
1968年 王貞治(巨人)
1969年 王貞治(巨人)
1970年 王貞治(巨人)
1992年 ジャック・ハウエル(ヤクルト)

西鉄の中西太は1955年、1958年と、打点王が獲れずに、「三冠王」を逃している。
しかも、両方ともトップと1打点差で涙を呑んでいる。
しかも、1954年は「本塁打王」と「打点王」の二冠王を獲りながら、打率は4厘差の2位、1956年も「本塁打王」「打点王」の二冠で、打率はチームメートの豊田泰光の打率.3251にわずか.0005(5毛)差で敗れている。
すなわち、計4度も、あと一歩、いや「鼻差」で「三冠王」を逃している。

王貞治は、1968年から1970年まで3年連続で「首位打者」「本塁打王」に輝いているが、いずれも、長嶋茂雄に「打点王」を阻まれている。
つまり、同じチームに長嶋茂雄がいなければ、少なくともあと3回は「三冠王」を獲得していた可能性があるのだ。
1964年には当時、シーズン最多となる55本塁打を放ち、「本塁打王」と「打点王」を獲るが、打率では江藤慎一(中日)に3厘差で敗れ、「三冠王」を逃している。
王は「本塁打王」と「打点王」の「二冠王」が9度、「首位打者」と「本塁打王」の二冠王が3度ある(王に「首位打者」と「打点王」の二冠王という組み合わせは無い)。

鈴木誠也が、「首位打者」と「本塁打王」の「二冠王」のみ、に輝けば、10度目ということになる。1992年のジャック・ハウエル以来、29年ぶり、外国人登録選手を除けば1970年の王貞治以来、41年ぶりということになる。

「三冠王」を含めたとしても、2004年の松中信彦(福岡ダイエーホークス)以来、17年ぶりである。

NPB史上初、同一リーグで3人の「二冠王」誕生なるか?

さらに、面白いのは、東京ヤクルトスワローズの村上宗隆の存在である。

村上宗隆は現在、39本塁打で、読売ジャイアンツの岡本和真と並びリーグトップであるが、112打点で岡本和真と1打点差である。

村上宗隆の所属するヤクルトも残り1試合であり、あと1打点を記録すれば、岡本と並ぶ。
岡本は本塁打と打点でトップで全日程を終了しており、村上が本塁打なし、かつ1打点で終えれば、その時点で二人の「二冠王」が誕生する。

そこに鈴木誠也がホームラン1本を放てば、鈴木誠也も「二冠王」となるため、セ・リーグには、3人の「二冠王」が誕生することになる。

同一リーグで3人の「二冠王」、これはNPBの歴史始まって以来、初の快挙である。

奇しくも、ヤクルトも広島も、11月1日、最終戦で相まみえることになってしまった。

鈴木誠也が足の状態が悪く、フル出場できず、1打席だけの代打での登場、ということであれば、カープも、村上宗隆との勝負を露骨に避ける必要はない。

スワローズも、鈴木誠也に一発を浴びたところで、村上は並ばれるだけであり、に勝負を避ける必要はないように思われる。

ここは両チーム、というより指揮官にフェアな勝負を望みたいところだ。
鈴木誠也は来シーズン、カープで、NPBでプレーしないかもしれない、ということに鑑みれば、正々堂々の勝負が、鈴木誠也にとっても、プロ野球ファンにとっても、最高の「はなむけ」になるだろう。



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