【エッセイ】⑧誰のためにやってるの?
今私はなぜか「嫌われる勇気」を読んでいる。
事の発端は数日前のバイトの時。
パートナーの階級が☆2になってから、より一層仕事に励むようになった。仕事中に手を止めることはなく、無駄な労働時間が発生しないように意識していた。
その日は暇だった。やることがなく、カウンター内の掃除をしている私の横で、ジャイアンとあきらくんが話していた。
2人とも手が止まっている、のは暇だから良いとして、ジャイアンは踏み台に座っていた。
接客業の勤務中に座るなんて、私には理解しがたかった。
君が今座っている間も確実に給料は発生しているんだよ。
おしゃべりは別に全然いいし、たまに手が止まるくらい全く問題ない。しかし座るのは違うよ。明らかに仕事する気が見られない。
「座るのはダメじゃない?」
さすがに言った方がいいと思った。しかし返ってきたのは予想外の返答。
「知ってた?ここって座っててもギリギリ客から見られないんだよ。絶好の休憩スポット。」
違う。私はそんな豆知識を聞きたかったわけじゃない。ただ、座るのをやめて欲しかっただけだ。
「座るのはさすがに良くないよ。何か手を動かしながらおしゃべりすればいいし、休憩したいならちゃんと休憩を打刻して事務所に行った方がいいよ。」
直接言わないと伝わらないとわかり、改めてド直球に伝える。すると、怒るでも、言い訳するでもなく、またまた予想外の返答がきた。
「もっさんはさ、働きすぎなんだよ。なんでそんなに働くの?もっと休憩しないとダメだよ。息抜きしないと。」
なんで私は今この人にダメ出しをされているのだろう。理解ができない。休憩するほうが正義だと言うように、私を悟らせてくる。
あぁ、これがジャイアンという悪魔の囁きというものなのか。
それからバイトが終わって、あきらくんと話していた。
「昼間にジャイアンが言っていたこと、あながち間違いじゃないと思うよ。働きすぎ。」
え、あきらくんもそう思うの?私は何も生産していない時間にお金が発生していると考えると、居てもたってもいられないから働いているだけなんだけど。無理をしているつもりもない。
「もっさん、承認欲求強いでしょ?」
承認欲求?あぁ、認められたい、評価されたい、みみたいなあれか。確かに弱いとは思わない。強いのかもしれない。
「だからだよ。俺が人生で唯一読んだ本に嫌われる勇気ってのがあるんだけど、今度持ってくるから読みな。人生変わるから。」
嫌われる勇気。聞いたことはある。確かアドラー心理学の本。それにしても、人生変わる?
私は別に承認欲求を捨てたいなんて思ってないし、承認欲求強いことがそんなに悪い事だとも思わない。それが私を苦しめている訳でもないし。
それから今に至る。
もうこの本も読み終わる。しかし、人生が変わる気配はない。もちろん、ひとつの考え方として面白いし、所々納得できるところもあるけれど、私の脳みそでは少し難しいところが多かった。
あきらくんに本を返すついでに感想を言った。
「面白いとは思う。でもそれと同時に、難しいとも思った。少なくとも今の私にはこの本はなんの影響も与えられていないと思う。」
せっかく勧めてもらったのにこんな言い方は無かったかもしれない。少し反省していると、あきらくんは語り始めた。
「できる人は課題の分離をしっかりとやっていると思う。自分の作業をしっかりやって、周りの仕事には手を出さない。それをやるべきなんだと思う。もっさんは承認欲求からか、他人の課題に介入するでしょ?でもそれはやめた方がいいんだよ。その辺俺は徹底してるよ。」
確か本にそんな内容が出てきたな。あきらくんは私に課題の分離をしろと言っているのか。私が違うポジションの仕事を手伝ったりするから、それをやめろと言っているのか。なるほど。
いや、まてまて、別に他人に好かれようとして私は他の人の仕事をやっているわけではない。私のやらなければいけない仕事と、周りの人がやるべき仕事、ちゃんと見比べて、仕事の優先順位をつけて取り組んでいる。
他の人の仕事をやる時は、大抵その仕事の優先順位が高いと判断した結果だ。わざわざ自分の優先順位の高い仕事を除けてまでやっていない。
認められたい?好かれたい?バカバカしい。私が考えていることはただ1つ。滞りなく業務が進むこと。その仕事ができていなくて後で困るのは、その仕事の担当者だけではない。カウンター内のみんなとお客様だ。
そもそも、その人だけが困る仕事は私の中での優先順位は低い。根を突き詰めれば、私は自分が困りたくない思いで他者の課題に介入している。結果的にその人のためになって、私は承認されるかもしれないが、そんなものは付属品にすぎない。
「別に他者の課題に介入するのは承認欲求の為じゃないと思うんだけど。あきらくんの言い方的に俺の課題に介入しないで、って言ってるように聞こえるんだけど、要はそんな感じ?」
あきらくんはこだわりが強い。自分自身の仕事にプライドをかけて臨んでいるから、下手に周りに手を出してほしくないのだろう。それを今、わざわざ本の内容を出して回りくどく言ったのだと思った。
「うん、まあ、そんな感じ。」
図星のようだ。
まあ、最大限介入しない努力はするけど、君は仕事が遅いからもう少しスピードを上げて、私に介入する隙を与えない努力をしてほしいなぁ。(まあそんななこと言ったらプライドズタズタで逆ギレされそうだから言わないけど。)
「わかった。努力します。」
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