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読了メモ

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読書の記録、残したいものだけ。
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記事一覧

「黄色い家」川上未映子

出版されたのは1年以上前。図書館の予約を永遠待ち、忘れた頃に通知が届く。 救いがない話で、読後感はあまりよろしくない。 完全なバッドエンドではないと思うが、始めから終わりまで、基本重たい気分になる。 鬱々とするのに、600ページ近くの長さを感じさせず、一気に読めるのは不思議。著者の力を感じる。 正直、これ絶対読んで、とは勧めにくい一冊。

「それでも旅に出るカフェ」近藤史恵

前作「ときどき旅に出るカフェ」に続く、シリーズ2作目。 前回同様にカフェ・ルーズが舞台となるが、ここにもコロナ禍の影響が。 カフェオーナーの円と主人公の瑛子を軸に、毎話フォーカスされる人物が変わっていくオムニバス。 相変わらず外国の料理やスイーツや飲み物が美味しそうで、旅行に行きたくなる。酸梅湯は昔飲んだことがあったことを思い出した。中華圏の仕事をしていたはるか昔の話。 それぞれの人物のその後が気になる・・・というところで話が終わるのが、余韻があってよい感じ。昨年出たば

「ホテル・カイザリン」近藤史恵

ミステリーっぽい短編集。 連作になっていて、最初の方の登場人物がまた出てくるのかと思いながら読んでいたが、それぞれ独立した話だった。 どの話も心の描写が深い感じがして読みごたえがあるし、「そうきたか」という終わり方で楽しめる。 今週の昼休みのお供だった1冊。 来週も近藤史恵さんをお供にする予定。

「無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記」山本文緒

闘病(ご本人曰く”逃病”)日記。 タイトルからも予想されるように、あっという間に時間が進んでいく。 日常がリアルに、素直に切り取られていて、病院や軽井沢のカフェを近くに感じ、一緒に過ごしているような気分になる。 終わりに近づいていくのは、当然残りの枚数で予想がついてしまうのだが、最後のページをめくるのはためらう。最後の日記はあまりにもリアルすぎたし、作家人生を全うされたと感じた。 いつの頃からか、桜や銀杏の季節がくるたび、人生であと何回見られるのか、急な事故でこれが最後

「君のクイズ」小川哲

図書館のサイトで予約を入れたのが昨年の4月。年明けにようやく順番が回ってきた。2023年の本屋大賞にもノミネートされていた1冊。 物語の核となっているクイズ大会の問題を出題順になぞらえて展開していくストーリー進行は、個人的にはテンポがよく、読みやすく感じる。 テレビでクイズ番組を見たり、QuizKnockのYouTubeも観たことがあるが、クイズや早押しの裏にこんな思考があることが、興味深かった。そもそも、自分がクイズプレーヤーになる予定もないので、考えたこともなかった。

「老人ホテル」原田ひ香

なぜか図書館に予約を入れていた1冊。 これまでこの作家さんの本を読んだことはない。 読んで損したとは思わないが、他人にお勧めはしない。 大家族と生活保護、高齢化、節約術とお金を増やす方法。 キーワードを盛り込んだ話をしてください、というゲームを思い出した。 こんなトピックスの小説を書きませんか、と言われて書いたような、そんな印象を受けた。文章自体は読みやすく、さらっと一気に読めた。 あ、でもドラマとか映像にするとけっこう面白そうかも。 なぜこの本を予約したのか。 おそ

「たりる生活」群ようこ

完全に出遅れた。 昨年12月に出版された1冊。気づくのが遅れ、今年2月に図書館の予約を入れた。それから8か月あまり、ようやく手に取ることができた。 生活のダウンサイズをする話のエッセイ。 前期高齢者となり、将来のことも考えて引っ越しをすることになって、 本やものの処分を余儀なくされる。そして、それは引っ越し後も続く。 違ったバックグラウンドを持つ友人たちの話も興味深かった。 本の処分は、作家さんなので気持ち的にも大変だったことと思う。 ただの積読人間の私でも、思いき

「世界が面白くなる!」シリーズ

シリーズ3冊読了。 「ペスト」の読了メモでも紹介した、1冊めはこれ ↓ 語り口はシンプルだけど内容が濃い1冊。 ボリューム感がいい感じで読みやすかったので、同シリーズのラインナップをチェックしたところ、2冊ヒット。 続けて読んだのがこれ ↓ 面白い。いや、本当に。 もう1冊も読むことにする ↓ これも面白かった。 そういえば、かつて雑学ブームってあったような。今はスマホで何でも調べられるからブームにもならない。 ただ、この3冊は「雑学」と呼ぶには贅沢すぎる内

「自転しながら公転する」山本文緒

山本文緒さんの最後の長編小説。 650ページがあっという間だった。 どこにでもあるような、どこにもないような話。生々しさがある。 登場人物それぞれの頭の中のものさしの違いがしっかり感じられて面白い。人それぞれでいいんだよ、と月並みなことを思う。 賛否あるそうだが、プロローグ・エピローグが効いていて、物語が締まる感じがした。 これ以上彼女の小説は増えることはない、というのがほんとうに寂しい。

「ペスト」アルベール・カミュ

「ペスト」アルベール・カミュ(中条省平訳) コロナ禍で再びベストセラーとなったというこの本。 確かに、コロナ禍を経験したので、リアルに感じるところが多い。70年以上前に書かれた本だけれど、政治家や市民が考えることは、今も昔もあまり変わらない。非常時に人間の根本が見えてくる、というところが哲学的。 主要人物のリュー医師の場面は、読んでいるだけでヘトヘトな気分になる。職務を全うし、早朝から深夜までずっと働きづめの毎日。コロナ禍の医療従事者などの方たちも同じような状況だったので

'The Last Children of Tokyo' Yoko Tawada

邦題「献灯使」多和田葉子著 気軽に読み始めてしまったが、ディストピア小説だった。 日本は(他の国に迷惑をかけないため?)鎖国状態、インターネットもなくなっている。外国語の使用禁止だったり、常識が大きく変わっている世界。めちゃくちゃな気象に土壌・大気・海洋汚染。東京都心部はもはや人の住むところではなく、かろうじて西側に移り住んでいる。安心して口にできるものは限られていて、沖縄や四国、北海道など自然豊かな地域が幅を利かせている。老人は100歳過ぎても堅牢で(70代はもはや老人

'How Starbucks Saved My Life: A Son of Privilege Learns to Live Like Everyone Else' Michael Gates Gill

ノンフィクションにしては、いろいろあり過ぎる。 イエール大卒で大きな広告代理店のエグゼクティブになったけど、突然クビになって、不倫して子供ができて、離婚して、脳腫瘍まで見つかって、いよいよ路頭に迷いそうなときに偶然スタバの店長に拾われて・・・ それに加えて、ちょくちょく入る回想シーンでの子供時代のエピソードもなかなかで、父親を介して会った有名人にはビッグネームが登場したりする。タイトルにもあるが、ある側面ではかなり恵まれた人生を送っている人。 これだけネタがあって、代理店

'Ikigai: The Japanese secret to a long and happy life' Héctor García, Francesc Miralles

相変わらず図書館で過ごしがちな日々。ガラス張りで明るく、天気がよい日は居心地がよくて、つい長居してしまう。 めずらしく洋書コーナーを眺めていたら、かわいい表紙の本を発見。日本語訳もされているベストセラーの1冊。原書を手に取ったつもりだったが、著者がスペインの人だから、スペイン語が原書なのかも。 タイトル通り、長生きの秘訣について書かれている。内容は、沖縄の長寿の村(大宜味村)を取材した話をベースに展開されていく。 話の中で出てくる”フロー状態”については、よくそういう経

「海が見える家」はらだみずき

先月初めて読んだ、はらだみずきさん。続けて何冊か読んでいる。 「海が見える家」(「波に乗る」の改題)「海が見える家 それから」「海が見える家 逆風」「海が見える家 旅立ち」 シリーズ4冊を読了。 主人公が生きていくこと、働くこと、について悩みながらも進んでいく姿がずっと描かれている。変えられるのは自分のことだけ(他人のことは変えられない)、行動を起こさないことには変化はない、という言葉を思い出させられる。なんだか懐かしくも感じるし、こういう生き方はいいなと思う。並行して読ん