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そろそろAfterコロナの学習のありかたを考えはじめるべきタイミング

先日、九州大学ビジネス・スクール(QBS)で僕が担当講師を務める「リーダーシップ論」を事例に、授業前・授業中・授業後のオンライン学習の環境を整えるノウハウについてご共有しました。

で、この記事を書き出して思いいたったのが、「コレ、コロナ禍が収束した後、どうするんだっけ?」ということ。本記事では、この問題意識をもとに考えたこと――とりあえず今の時点(2020年6月2日)で、僕がこうしようと思っていること――をまとめてみます。

基本、大枠は変えない

結論から述べると、Withコロナ期の現在やっていることの枠組みは基本的にコロナ禍収束後=Afterコロナ期になっても変えない、と思います。

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本記事のトップビジュアルにも使った図です。

左が、今の僕の授業での学習フロー。受講生は事前に教材動画を視聴し、時間割で定められた曜日・時間になるとZoomで集合。基本的な内容は事前に動画で見てきている前提で講義は早回しでさくっと進め、授業時間はディスカッションや質疑応答を厚めにします。授業後はslackで意見交換(そのほか、スタディグループという週替りの論文精読とプレゼンテーション活動もありますが、今回は割愛します。ご興味がある方は上記のリンク記事『オンライン学習の環境を整える』ご参照のこと)。

右が、今想定しているAfterコロナ期における僕の授業の学習フロー。ここでも事前に教材動画をみてもらい、授業中の講義はできる限りシンプルにして、ディスカッションや質疑応答を厚めにする。授業後は、これも今と同じくslackで授業の感想やフィードバックを共有し、スタディグループも継続する。要は、リアルタイム授業の場をZoomから教室に移す、だけ。

なんで、そうするのか。

それを今から一つひとつ言語化してみます。

授業前――遠隔授業でもリアル対面授業でも、事前に動画で予習しておくといろんなメリットがある

まず、授業前のフェーズ。

遠隔Zoomだろうと、教室で行うリアル対面式のものだろうと、授業でとりあげる内容を受講生が予習してきていることを前提に進められると、非常に効率よく時間を使えます。

どんなレベルの授業であろうと、意味ある学習体験を創出するためには、教師からなんらかのインプットが欠かせない。しかし、教師からのインプット=講義が行われている間、受講生は基本じっとそれを聞いていることしかできません。もちろん、実際にはメモをとりながら思考を整理したり、後述の通り質問をチャットに書き込んだりもできますが、なにも全員同時に同じ教室に座ってそれをやらなくてもいい、と僕は思うんです。

であるならば、講義の骨子については事前に動画でみておいてね、としたうえで、リアルタイムではプラスアルファのCold Callやクイズを織り交ぜたり、細かいニュアンスを確認したり、実際の事例に理論をあてはめてみる思考実験を試してみたりしたほうが、トータルで受講生全体の学びが深まる。これは「事前に講義の動画を視聴→リアル授業ではディスカッション」という、いわゆる「反転学習」に関する研究でもはっきりそのような教育効果が認められています(反転学習の教育効果については、たとえば Karabulut‐Ilgu et al., 2018, など参照のこと)。

Karabulut‐Ilgu, A., Jaramillo Cherrez, N., & Jahren, C. T. (2018). A systematic review of research on the flipped learning method in engineering education. British Journal of Educational Technology, 49(3), 398-411.【論文PDFはこちら

教材動画を用意しておくと、ほかにも授業後に気になったところを復習しやすい、教科書などと比べてスキマ時間にも学習しやすいなどのメリットがあります。なので、ここについてはAfterコロナ期に入って対面授業が再開されたとしてもストップする理由が見当たらない。なので、継続します。

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授業中――デジタルでやれていたことの快適さ、効率性を維持しつつ、誰も振り落とさない工夫を探る

With→Afterコロナで大きく変わることが予想されるのは、当たり前だけどリアルタイム授業のありかた。

今はZoomの完全遠隔、フルリモート=受講生も講師も、全員が一人一台PCの前に座って同じZoomミーティングスペースにアクセスし、議論を交わすスタイルで実施しています。

これが、Afterコロナ期には教室に物理的に集まってリアル対面式の授業になる。すると、途端にいろんな論点が浮かび上がります。

たとえば、教室に来られない、来たくない人はどうするか。

今、僕の授業には「春に転勤になってしまったけれど、遠隔オンラインならば学びを継続できる」ということで休学せずに受講を続けてくれている人がいます。他にも、業務の都合上、QBSが授業を行う博多駅に、僕が授業を担当している1限(18:30開始)までに移動するのは難しいんだけど、遠隔オンラインならWiFiさえ確保できれば受講できるので助かる、という人もいる。既往症があったりしてコロナ感染のリスクが高く、対面授業では参加したくないという人もいるでしょう。

受講生の大多数と講師は博多の教室、上記のような事情がある数名は遠隔で参加。これがパッと思いつくソリューションですが、一つ問題があります。

それは、このWithコロナ期にみんなが気づいたこと。すなわち、マジョリティがリアル対面で場を共有しているところに遠隔オンラインで参加すると、とてつもない情報格差、コミュニケーション格差を余儀なくされるという問題。リアルな場を共有している人同士は、画面に映らないところで目配せをしたり、マイクで拾えない声で話したりできる。

Withコロナで多くの人が「オンライン会議でも全然いいじゃん」となったのは、参加者全員がフラットな形でビデオ通話に参加したからで、それ以前――Beforeコロナの時代のように、大勢が会議室の集まっているところに一人だけ遠隔参加すると、疎外感や隔靴掻痒感がハンパない。Afterコロナでそれを再現したくはないわけです。

ほかには、先ほども触れた「講義中のチャットをどうするか」という問題がある。

講義を聞くにあたって、ただ受動的に動画であらかじめ視聴していた内容が復唱されるのを聞いてもあまり効率的ではないけれど、事前学習で得た自分の理解を改めて講師の説明と重ね合わせながら、疑問が生じたらすぐチャットに書き込むようにすると、これは一気に能動的な学びのモードに切り替わります。今の僕の授業でも、早回しで僕が講義を進める端からZoomのチャットがどんどん打ち込まれていって、一段落したときに質問を拾うのに一苦労するほど(なので、授業冒頭に、チャットでの面白い質問や発言を拾ってくれるボランティアを募るようにしています)。

講義を能動的な学びの時間にしてくれるこの仕掛け、ぜひ継続したいんだけど、リアル対面授業ではZoomを使わない以上、Zoomのチャット機能は使えない。Twitterでハッシュタグを使う手もあるけど、公開の場では書き込みにくいこともあるし、外部から妙な茶々を入れられるのも面倒。sli.doもいいけど、あまりツールを増やしすぎるのも考えもの。

なので、Afterコロナになったら、もともと今でも授業で使っているslackに、授業中のチャット専用のチャンネルをつくって、そこに質問やつぶやきを投稿してもらうようにしようと思っています。ただし、そうなると講義で使うスライドを教室備え付けのプロジェクタで投影したとき質問が見られない、という問題が発生するのでもう一台ずつPCとプロジェクタを用意するなど追加の工夫も必要になる、かも。

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Zoom授業からリアル対面授業になったとき、もうひとつ工夫が必要になるのが、グループディスカッション。

Zoomだと、ブレイクアウトセッション機能が使えるので、クリック一つでさくっと受講生をランダムにグループ分けできる。これ、受講生にも人気で、相互にネットワークをつくるインセンティブが強い社会人学生が集うビジネススクールならではかもしれませんが、毎回違う顔ぶれでディスカッションできるのは新鮮だし、嬉しい、ありがたい、という声が寄せられています。

これをリアル対面授業でも継続しようと思うと、たとえばあらかじめ1~10までの番号を書いた受講生の人数分のクジをつくっておいて、それを入室時に一人一枚配り、グループディスカッションするときに「同じ番号の人と一緒のテーブルに席替えしてください」などする必要がある。

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授業後――slackで授業の感想やフィードバックを共有し、学びを深める

ここも、With→Afterコロナでたぶん変化させないところ。

今でも、受講生と講師だけで構成されるslackワークスペースをつくって、そこで毎回の授業の感想や授業中のチャットで出された質問やコメントに対する追加の議論なんかをやっています。講義では触れることができなかった関連文献を紹介したり、興味深い事例の共有がなされたりしていて、この授業後のslackでの議論はかなり学びを深めるうえで効果を発揮してくれている。

教材動画による事前学習と同じく、これもメリットが多く、逆にやめるべき積極的理由は見当たらないので、継続しようと思っています。

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――でも、それ(だけ)でいいんだっけ?

と、ここまでまとめて、自分でもだいぶAfterコロナ期における学習のありかたについて見通しが得られた、ように思います。

でも。

でも、一つまだ自分のなかで腑に落ちていないんですよね。これで本当にいいんだっけ?と。

というのも、ここまでお読みいただいた方はお分かりの通り、今のところの僕のAfterコロナへの見通しは「今やっているフルリモートオンラインでの学習のありかたをできるだけ変えずに、リアルタイム授業の場だけをZoomから教室に移す」というもの。

でも、もともと今の僕の授業のありかた(前述した「事前に教材動画を視聴して、リアルタイムZoomの後はslackで…」というやりかた)は、

オフラインでやっていた授業を、そのままオンラインでやろうとするのは意味がないどころか逆効果である

という問題意識をベースにして編み出したものなんです。これまで教室でやってきたことを一旦脇において、フルリモートの完全オンラインであることを前提に受講生が学びやすい学習環境ってどんなものだろうと自分なりに考えた結果、今の形に行き着いた。

なのに、完全オンラインからオンラインとオフラインのハイブリッド型に移行しようとなったら、今度はオンラインでやっていることを可能な限り教室に持ち込もうとしている。

これって現状維持バイアスだろうか、と。たぶん、そうです。

今オンラインでやっていることを移管するのではなく、オンラインと対面両方を組み合わせるハイブリッド型の学習ならではの体験価値と教育効果をMAXにすることをピュアに目指せば、たぶん、いやきっとこの記事で書きだした形とは別のアプローチになるはず。

さらに言うと、Afterコロナ期において「教室で学ぶこと」に関するコスト意識は、Beforeコロナ時代のそれと比べて格段に高まっているはず。いくらコロナ禍が収束していたとしても感染リスクはゼロではないし、Withコロナ期にみんな移動時間ゼロ、交通費ゼロで学びを得られることを体験した以上、今後わざわざ同じ場所に集まってもらうからには、それだけの特別なサムシングがともなわなければ「これならオンラインでいい」「むしろ、オンラインのほうがいい」となるはず。

そうならないようにするには、Afterコロナ期の授業は、時間だけでなく、物理的な空間も共有しながら学ぶからこそ創出可能になる価値をもたらすものでなければならない。必要条件として考えられるのは、たとえばその場で手にとって扱うハードウェアを使ったり、物理的なアクティビティをともなったりする活動、あるいは気温・湿度・光などの環境を共体験しながら行うことが鍵になるような学習。

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でも、LEGOのワークショップやProject Adventureみたいな活動を毎回できるわけがないし、仮に実施したとしてもたぶん教育効果としてはあまり望ましくもない。でも、じゃあ何ができるのか――。

今はまだそれが見えてこない。なので、まずはここでこのnoteを公開して、ご覧くださった方々からコメントやご質問をいただいて、そこでもう一度、Afterコロナ期における学習のありかた、というものを考えてみたいと思っています。よかったら、ぜひお知恵をお貸しください。

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