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オンライン学習の環境を整える

オンラインでいかに受講生の学びを促進する環境を整備するか、がテーマの記事です。九州大学ビジネス・スクールにおいて、2020年5月7日から開講している筆者の担当科目「リーダーシップ論」での実践をまとめてお伝えします。

目的としては、第一に、オンライン学習に関わる全国の教育関係者の皆さんと知見を共有すること。第二に、今試行錯誤しながらやっていることを自分自身が後で振り返るための備忘録、です。

どんな授業か

「リーダーシップ論」は、九州大学ビジネス・スクールの自由選択科目です。受講生は計54名、全員社会人。年齢層は20代から50代までと幅広く、業種・職種もじつに多彩です。

授業は、週1回90分の2単位科目。本来の学事歴では全15回の予定でしたが、2020年に関しては新型コロナウイルスの影響によって授業の開始が4月から5月に後ろ倒しされ、そのため授業の実施回数も全14回に短縮されました。

授業設計のフレームワーク

「リーダーシップ論」では、後述する通り、さまざまな仕掛けを講じています。

一つひとつを取り上げていくと「なんだかあれこれ、いろんなことをやってるね」と思われるかもしれませんが、授業を設計する講師としては、トータルでの学習体験向上を狙いとして、下図のような枠組みでもって、授業前・授業中・授業後のそれぞれのフェーズでの受講生の活動をナビゲーションしています。

文字でまとめると、以下のような感じです。

1. 授業前。毎週、7~10分ほどの教材動画を3~4本事前に視聴して、その週の授業で取り上げる内容について予習する。

2. 授業中。時間割で定められた曜日・時間にZoomにログイン。教材動画の内容をさらっとおさらいしつつ、質疑応答やブレイクアウトセッションでのディスカッションなどを行う。

3. 授業後。受講生&講師のみで構成されるslackのワークスペースで、その週の授業の感想やブレイクアウトセッションで各グループが行った議論の共有などを行う。授業で使ったスライドは学内システムを介してPDFを共有。

好奇心と集中力を保ちやすいよう変化をつける

大分大学の碇邦生先生がまとめられているように、オンライン学習の効果UPのためには、「多様な学習体験」「受講生が帰属意識を感じられるコミュニティの形成」「受講生の積極性と集中力を維持向上させること」が重要になります。

この理論にもとづき、週ごとに、そして一つの授業のなかでも、できる限り多彩なアプローチ、アクティビティを取りいれています。狙いは、受講生が好奇心と集中力を保ちやすい学習環境を創り出すこと。

週ごとに変化をつける、ということで言うと、これまでDAY-1の初回授業ではオリエンテーションに加えてリーダーシップの影響度に関するクイズを実施し、その後DAY-2、DAY-3は講義とディスカッション主体の授業、DAY-4には外部から講師をお招きしてゲストレクチャーを行いました。今後も、講義とディスカッション主体の講義を軸に据えつつ、オンラインゲームを用いて他大学との対抗戦を組んだり、クリエイティブな活動に取り組むワークショップをやったりする予定です。

毎週同じパターンだと、どうしてもマンネリ感が出てきてしまいがち。なので、良い意味で予測がつかない、飽きがきにくい授業展開を意識しています。

授業中の工夫に関しては、まず巷間よく言われるように、90分講師が喋りっぱなし、というのはないようにしています。そもそも、講師が喋るばかりなら、わざわざ時間を合わせてデータ通信量を消費してまでリアルタイム授業する必然性がありません(講師が喋っている講義動画を配信すればいい。というか、90分のモノローグをじっと聞くのは苦痛でしかないから、いっそスライドPDFと解説文を共有するだけでいい、と個人的には思います)。

なので、僕が講義をするときは、長くても15~20分おきにクイズを出したり、受講生同士でディスカッションをしてもらったりするようにしています。

ビジネススクールでは、講師が受講生を突然指名して質問に答えてもらうCold Call(コールドコール)と呼ばれる発問手法がよく用いられます。僕の授業でも毎回1~2回はCold Callを入れるようにしています。狙いとしては、Cold Callがある、でもいつそれが来るかは分からない、という状況を設定することで、受講生が一定の集中力を保ちやすくすること。

加えて、Cold Callのときはちょっとした効果音をつけるようにしています。

オンラインでは身振り手振りが分かりづらいし、声のトーンもメリハリが効きにくい(Zoomでは音声が自動調整されますし)ため、授業のトーンも平坦になりがち。それを打破するために、Cold Callに入る瞬間には、スライド全体を透明度をもたせた青色のパネルで覆い、効果音ラボから拝借した和太鼓の「ドドン!」という音に続けて「シャキーン☆」という効果音が流れるようにしています(下記動画をご参照ください)。

音の変化は集中力を取り戻すのにとても効果的。印象にも残りやすいので、そろそろ受講生の皆さんも、Zoomの画面共有でスライドが青転して「ドドン!」と聞こえると、顔がピリッとするようになってきた気がします。このCold Callで僕からの指名を受けて回答してくれた受講生については、授業への積極的参加ということで評定に加味するようにしています。

受講生のコミュニティ形成の工夫

上述の通り、「リーダーシップ論」では、授業が終わったら受講生はslackで、その週の授業の感想や、授業中に行ったブレイクアウトセッションでの議論の概要をシェアするようにしています。

このslackでの投稿とコメントを通じて、今はなかなかリアルで顔を合わせることができない受講生同士が意見を交わし、お互いが関心をもつポイントに触れることができるようになっている、というわけです。テキストのみを介した意見交換でも、結構ヒトの価値観って伝わってくるものだなあという手応えがあります。

さらに、授業外の活動ということではもう一つ、「スタディグループ」という取り組みも行っています。受講生が4~5名ずつのグループに分かれ、週替りでリーダーシップに関する論文を読み込んでその内容をプレゼンする、というものです。

日本の場合、「リーダーシップ」が一つの学問領域であること自体ほとんど認知されていませんので、この「リーダーシップに関する学術論文を読む」というミッション自体は、受講生全員にとって初体験。

一方、受講生の中には、MBAではない別の修士号や博士号、医師免許をお持ちの方、あるいは大学の理事職にある方もおられますが、大学を卒業して以来十数年実務に専念してこられたという方も大勢いらっしゃいます。畢竟、「論文を読む」という行為に関する理解や経験、スキルはバラバラ。加えて、この授業で僕がアサインする論文はすべて英語で書かれたものばかり。これについても、受講生の方々の英語スキルには大きな幅があります。

言い換えると、「誰もがやったことがないミッション」に、「メンバーそれぞれが自分の強みを活かして」、「チームで一つの成果物をつくり、発表する」活動がスタディグループ、ということになります。各グループは、自分たちが発表する週になると、授業外でZoomミーティングをしたり、slack内でプライベートチャンネルを立てたりして意見を交わし、準備を進めていきます。

同じ目標に力を合わせて取り組む経験を通じて、仲間意識が芽生えてくる。社会人同士が学ぶビジネススクールということもありますが、授業で取り上げる内容に関する知識の向上と同じか、それ以上に受講生同士のネットワーク構築は重要だと思っていて、そのためにスタディグループという仕掛けを取り入れています。

実際、スタディグループとプレゼンテーション、そしてその後のslack上での意見交換を通じて受講生同士の関係性ができてくると、授業中に質問や発言もしやすくなり、それがさらに「学びのコミュニティ」としての授業空間を進化させていってくれます。スタディグループによるプレゼンテーションはまだ先週のDAY-4授業から始まったばかりですが、今のところ狙い以上の効果が得られているように思います。

まとめとお誘い

以上の通り、一言で「オンライン学習」といっても、よくイメージされる「教材動画のオンデマンド配信」と「Zoomでリアルタイム授業」だけではなく、slackでの意見交換やスタディグループなど、モードが違う学習活動をいろいろ織り交ぜて進めている、というのが「リーダーシップ論」の一つの特徴です。

これによって、受講生の側からすると、「やろうと思えば、どんどんやりこめる環境」になっているんじゃないかと思います。事前教材を視聴し、(自分のグループの担当回でなくても)その週にアサインされた論文を読み込んで質疑応答に備える。授業中は質問を積極的にチャットに書き込んだり、発言のチャンスがあったら手を挙げたりする。授業後も、slackの投稿で質問をしてもらえれば僕が答えるようにしています(投稿で質問→講師が回答→回答に対してさらに追加で質問→他の受講生も混じってさらに議論が発展…と、どんどん伸びていったスレッドもあります)ので、掘り下げたいトピックがあれば、どんどん深堀りできる。この「やりこめる感」をつねに担保しておくのが、講師としての僕の責任かなと思っています。

逆に、カリキュラム全体でみたときにはあくまで自由選択科目の一つなので、自分にとって必要だと感じられる以上に時間と労力をかけなくても、それはそれできちんと学習ができることも大事だと考えています。

特に、九州大学ビジネス・スクールの場合、受講生は日中仕事をして、平日の夜または週末に授業を履修するパートタイムスタイルということもあり、「すべての授業に全力で取り組む」は非現実的。優先順位をつけて、自分の学びをコントロールすることも重要です。そうした中で、Need-to-Learnベースで学びを得たい受講生は、事前の教材動画視聴に約1時間弱、リアルタイムのZoom授業で90分、さらに授業後にslackに授業の感想を書き込むのに長くても5~10分。スタディグループの担当回には、さらに数時間が論文の読み込みとグループでの話し合い、プレゼンテーションの準備に必要になるでしょうが、学期トータルでならしてみると「1単位あたり、45時間の学修を必要とする内容をもって構成すること」という文部科学省の大学設置基準をちょうどクリアするくらいの時間数になるという目論見のもとに、本記事でご紹介したような形で授業を設計しています。

「リーダーシップ論」の授業、いかがでしたでしょうか。

全国各地で今オンライン学習に関わっておられる教育関係者各位にとって、なんらかご参考となる面があれば幸いです。よろしければ、ぜひコメントやご質問などお願いいたします。

また、「授業参観」も歓迎しています。特に、オンライン学習やリーダーシップ開発に関する取材、共同研究にご興味がおありの方には、ここに書いた以外にも詳細な工夫やノウハウをご案内しますので、ぜひお問い合わせください。

以上、リーダーシップ論を専門に授業を開講している一教員の #私の仕事#いま私にできること のご共有でした。最後までご高覧いただき、ありがとうございます。

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