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『極私的ライター入門』

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ライター歴37年の私が約20年前に自分のサイト(すでに消去)に載せていた「ライター入門」を、少しずつ再録していきます。 時代の変化で内容があまりに古くなっている部分は、適宜アップ…
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#インタビュー

ライター必読本⑦重松清『あのひとたちの背中』

「ライター仕事」のマスターピースの1つ 重松清が『en-taxi』に連載した、作家、マンガ家、脚本家、映画監督など、広義の表現者13人へのロングインタビュー集である。 私は重松清を、小説家としてよりもライターとして尊敬している。 小説家としても好きではあるが、ファンというほどではない(そもそも、小説は数作しか読んでいないし)。 重松が小説家として名を成す以前から、いまに至るも続けてきたライターとしての仕事――その素晴らしさに感服つかまつり、「ライターの鑑」として仰ぎ見

「ひどい取材」の話

本も読まずに著者インタビュー(!) 10年以上前のことだが、マンガ家・作家のいしかわじゅん氏が、「日経BPオンライン」の連載エッセイ「ワンマン珈琲(カフェ)」で、沖縄の二大紙から受けたひどい取材について書いていた。 (「日経BPオンライン」ではすでに削除されており、書籍化もされていないようだ) 小説の新刊『ファイアーキング・カフェ』の著者インタビューを受けたところ、二大紙の記者ともその本を読まずに取材にきたばかりか、いしかわ氏が何者なのかまったく知らなかったという。 A

取材しやすい人、しにくい人

職業別ベスト3/ワースト3(私見) さまざまな職業の人を取材する機会があるが、取材しやすい職業ベスト3を私見で選ぶなら、弁護士・大学教授・政治家となるだろうか。 いずれも総じて取材慣れしているし、自分の意見を論理立てて人に説明することに長けた職業だからである。   同様に、物書き(ジャーナリスト、評論家など)、企業経営者、企業の広報担当者(これは取材しやすくてあたりまえだが)も、おおむね取材が楽だ。 逆に、取材しにくい「ワースト3」を挙げると、芸能人・物書きを除いたアー

ライター必読本⑤本橋信宏『心を開かせる技術』

著者の本橋信宏氏は、風俗ルポからコワモテ人士(ヤクザ・闇金のドン・右翼・過激派など)への直撃取材まで、硬軟問わず精力的にインタビューを続けてきたベテラン・ライター。話の聞きにくい相手の心を開く達人である。 本書は、著者が豊富なインタビュー経験から編み出した、語り手の「心を開かせる技術」を開陳したものだ。 随所にちりばめられた、インタビューの舞台裏エピソードが抜群に面白い。また、インタビュー術の極意を明かしたハウツー本としてもすこぶる有益である。 私が「なるほど」と思った

ライター必読本④永江朗『インタビュー術!』

取材術に的を絞ったライター入門もいまでは少なくないが、私のイチオシは永江朗の『インタビュー術!』(講談社現代新書)である。 ベテランにして売れっ子のライターが、豊富な経験をふまえてインタビューのノウハウを伝授してくれる1冊だ。 この本の美点の第一は、ヘンな精神論を振りかざすいやらしさがなく、徹底して実用的であるところ。 とにかくアドバイスが細かい。 たとえば、取材の際に使う筆記用具について、“ペンよりもシャープペンシルがよい”と永江は言う。なぜなら、小売店を取材するとき

インタビュー記事は料理に似ている

素材がよければ手を加えなくてよい ライターになって以来、私はどれくらいの人数をインタビューしてきたのだろう? いちいちカウントしているわけではないが、少なく見積もっても週に1人以上、年平均5、60人はインタビューしているから、過去34年間でトータル2000人くらいへのインタビュー経験があることになるか。 その経験を踏まえて私が思うのは、「インタビュー記事は料理に似ている」ということである。 インタビューそのものは原稿の素材集めであり、料理人でいえば朝の市場に材料を仕入れ

インタビューの極意は「たいこもち」にあり?

相手を怒らせたら取材は失敗 国際政治ジャーナリストの落合信彦さん(いまなら「落合陽一のお父さん」と言ったほうが通りがいいか)は、初期作品『男たちのバラード』(集英社文庫)の巻末インタビューで、「インタビューのコツは相手を怒らせることだ」と語っている。わざと怒らせることによって隠されたホンネを引き出すのだ、と……。 だが、ライター諸氏はこんな言葉を真に受けてはいけない。   相手を怒らせることでホンネを引き出すなどという手法が通用するのは、反体制派ジャーナリストが国家権力の