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サブカル大蔵経867上垣外憲一『勝海舟と幕末外交』(中公新書)

幕末の異国との交渉の類書を読んだ後再読したら、他にない史料と視点で、現代の外交にも繋がる貴重な著作だと感じました。

川路聖謨はロシアとアメリカのどちらを選ぶかと言うことでは、断然ロシアだった。幕府の外交官僚の中には最初の時点で日露同盟論があった。p.52

今日の日本も沖縄の嘉手納にアメリカ軍の基地を置いて中国に対する備えにしているのだから、小栗の日露同盟軍を批判する資格は現代の我々日本人にはない。p.225

黒船前後の外交。川路–小栗ライン。

今期の大河ドラマは、川路や小栗、一翁まで出たが、あえて海舟は出てこなかった。

海舟の取った外交手法は列強のバランスオブパワーを利用。一辺倒はいけない。対馬も稚内も取らせず。p.3

幕末史はいろんな見方があるなぁとあらためて思い、沢山のifが想起されました。

本書のが文章、どこか〈現代の勝海舟〉のような小気味の良さで、現在へもチクリ。

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開国交渉に来た使節の中で日本文化、日本語を1番尊重していたのはロシアのプチャーチン使節団だった。p.35

 ロシア幻想また高まりました。どの類書を読んでもロシアの友好さが描かれます。ロシア陣営に入っていたら日本はどうなっていたかなぁ。

この辺が川路は智謀の人であるとしてロシア人を感心させた。p.49

 警戒しながらも交渉を進める川路聖謨。

岩瀬は、条約締結を渋る井伊直弼を、京都に英仏軍が侵入するかもしれないと、ハリス流で脅したのである。p.64

 米英仏露。幕閣内の外交官僚の葛藤。

アメリカのハリスによるイギリスの悪口の裏を取るにはどこの国に聞くか。諸戦争に無関係だったオランダが一番信頼できる情報源であった。阿部正弘や勝海舟は長崎のオランダ人教官を情報源あるいは相談役として用いた。p.67

 欧米をひとくくりにしない情報戦。比べて、米国一辺倒に見える現代の日本。

井伊直弼が、勅許を得ずして条約調印するという、後に大きな政治問題になった決断をした最大の要因は、長崎奉行所からもたらされた、清国がイギリスにアロー戦争で大敗北を喫したと言うニュースにあった。p.74

 アロー戦争と米国の南北戦争の只中。

東シベリア総督ムラヴィヨフの威圧。「蝦夷地すなわち北海道の支配、開拓をしっかりやってもらいたい。そうでなければアメリカかイギリスがとってしまうだろうから、そういう場合は自分たちロシアがとってしまう。北海道をしっかり日本が確保するのであれば、自分たちは少しも手出ししないだろうと言うことだ。」p.82

 北海道統治は、ロシアのすすめ。それまでは蝦夷地は放任されていた。北海道という白紙の土地が緊張を生み出していた。

井伊直弼は、それまでロシアがかなり日本に食い込み、そこにイギリスが追いつきつつあった日本外交を、大きくアメリカ寄りに舵を切ったのである。p.119

 井伊から始まった日米同盟。

安政の大獄は、ムラヴィヨフの脅迫・外圧を利用して国内反対派を潰しにかかったということである。戦争の危機を言い立てて国内の引き締めにかかるのは、どの国などの時代の政府もやることである。p.137

 安倍政権での北朝鮮を指しているのか。

横井小楠と勝海舟はすでに相当交友が深まっており、勝海舟がアメリカで買った小刀を送った。p.233

 小楠が生きていれば、どうなったか。維新以後、そう思わせた人物。

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