見出し画像

サブカル大蔵経870山口伸美『日本語の古典』(岩波新書)

本当に原作を読みたくなる好著。

『書紀』の臨場感。

異様に無骨な『今昔』。

そして、「近松」のラップ感。

【曽根崎心中】この世のなごり。夜もなごり。死ににゆく身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足づつに消えてゆく。夢の夢こそあはれなれ。あれ数ふれば、暁の七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の。鐘の響きの聞き納め。寂滅為楽と響くなり。鐘ばかりかは。草も木も。空も名残と見上ぐれば。雲心なき水の音。北斗は冴えて影映る、星の妹背の天の川。梅田の橋をかささぎの橋と契りて。いつまでも。我とそなたはめおと星。必ずそふとすがり寄り。二人が中に降る涙。川の水嵩ミカサも増さるべし。p.196

日本文学古典の面白さを命をかけて、

著者の読書体験と共に紹介。

画像1

【古事記】父に嫌われたにもかかわらず、父の命令を最後まで勇敢に遂行し、日本を平定に導いたヤマトタケル。でもその功績を讃えられることなく路傍で一人寂しく死んでいた。言葉によって父の信頼を失い、復讐の言葉を相手に言わせて諸国を服属させ、誤った内容の言葉を大声で述べ立てたことによって、命を失ってしまった。ヤマトタケルの悲劇は言葉に始まり言葉に終わる。言葉に出す事はそれほど重い意味を持っていたのです。p.16

 言葉を向ける、言葉を挙げる。

【日本書紀】蘇我入鹿は用心深い性格で、常に剣を隠し持っている。鎌足は俳優(わざおき=神意を伺い寄せるために神前で様々の芸をする人)を使って、入鹿に剣をはずさせた。入鹿は「咲いて(わらいて)剣を解き、座についた。控える子麻呂は恐怖のあまり反吐を吐く。p.21

 この臨場感。〈俳優〉の元祖。

【竹取物語】かぐや姫が求婚者たちに出す難題は「大唐西域記」「南山住持感応伝」「水経注」「列子」「荘子」などの、仏典や漢籍を読んでいないと思いつかないものばかりだからです。かぐや姫の言葉使いは固い漢文調で、あな、嬉しと失敗を喜ぶ。かぐや姫は月の世界で罪を犯して追放された罪人で、罪が限り果てぬれば、このように迎える。と月から迎えが来た。p.38

 相当ヤバい、かぐや姫。ジブリと古典。

【堤中納言物語】姫君は、ご縁があったら極楽でお会いしましょう。おそばに居にくいんですもの、そんな長い蛇の姿では、と返歌。p.95

 虫愛ずる姫君の、ナウシカ性。

【今昔物語】作者不明ですが、大寺院に所属してた無名の坊さん説。擬音語の宝庫。臨場感。p.107

 無名が、世界を保存した。

【方丈記】ドキュメンタリー。事実と、底光りする比喩。p.120

 元祖ルポライター?

【とはずがたり】良心の呵責を感じない。受け身でただ露見を恐れる。p.138

 貴族に通底するもの

【風姿花伝】能の技量だけあってその本質を知らない人よりは、本質を知っていて技量の劣る人の方が安定している。p.156

 このこと、昨日見た水道橋博士とみうらじゆんの対談でも示されていました。

【伊曽保物語】ポルトガルの宣教師たちが親しんでいた古典『イソップ物語』を日本語に翻訳して日本人に倫理的教訓を与えようとした。p.171

 〈倫理〉が物語を通して輸入される。

【好色一代男】世之介は迷わない。p.184

 西鶴の現代性

【東海道中膝栗毛】お前の蛤なら、なおうまかろう。金玉こげる。p.208

 鬼越トマホークのようなやりとり。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,210件

本を買って読みます。