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サブカル大蔵経301渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)

アメリカ大統領選で繰り返し流れる黒人と白人の喧嘩の映像。あれは、何なのか?

アメリカの現在の人種問題の現状と背景について、データと現地取材をもとに記されたルポであり分析の書。真摯な姿勢の本。

「白人至上主義者と言う表現には白人が他の人種を支配すると言うイメージがありますが、今の白人にそんな力はありません。もし日本に外国人が数百万単位で入ってきたら日本人は違和感を覚えませんか?私たちは白人としてごく当たり前の権利を主張しているだけです。白人が嫌いだと公言してもさほど批判されないのに、私たちがヒスパニック系が嫌いだと言うと白人至上主義者と批判されるのです。黒人の命は大切ですが、白人の命は大切でもあります。/私は自分を白人ナショナリストや白人至上主義者ではなく人権活動家だと思っています。すべての民族の尊厳と自立、自決が保障されるべきです。ます最も大切な事は選択の自由です。グローバルな権力によって強制されてはならないんです。」(「私は人種差別主義者ではない」と断言するテイラー氏)p.10.40

 この部分を読んだ時、単純に白人ナショナリズムを断裁できない自分がいました。実は白人、かわいそうなのでは?と。その不安と主張の中にはうなずける部分もある気がしました。

米国を批判するのは良いが、自らを省みない他者批判はみっともない。p.198

 著者の渡辺靖さんは今日のNHKBSニュースにも出演されていました。名前を見た時もしかして?と本棚から引っ張り出しました。これは対岸の問題ではないし、単純な善悪の問題でもないこと、そしてトランプを支える層の意識を本書のお陰で、報道を見ていてもふまえることはできました。

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「米社会の基層は白人文化です。私はそれを尊重しています。どの国にも基層となる集合的な文化があります。私は両親がイラン出身の移民2世です。イランの基層はペルシア人の文化です。私はそれを誇りに思っています。米国の白人の皆さんは、ぜひ出生率を高めてください。」/アイルランド系は社会進出に加え、黒人差別に加担することで徐々に「白人」としての地歩を固めたと論じている。中国系や日経などアジア系の脅威論(黄禍論)が盛んだった20世紀初頭、アイルランド系や東欧系、南欧系の白人は必ずしも「白人」とはみなされていなかったのである。p.13.78

「白人」こそアメリカの基層という視点。この「白人」とは誰を指すのか。白人の中の多層性。そしておそらく黒人の中にも。その多層性は差別と共に育まれたものならば、敵の敵は味方。それが政治に利用されたら…。トランプを応援する黒人の存在。

「マイノリティー支援に尽力するリベラルな白人こそ真の白人至上主義者だ。彼らの根底には強烈な人種意識とマイノリティに対する優越感がある(マイノリティーに施しを与えることで白人の優越感を確認している)」p.14

 保護や援助こそが、実はマイノリティを隔絶させているという言説。日本の差別問題でも論点になる問題。

テイラーはリベラル派の「幻想」を次のように説明する。「同じ人種同士で集う方が安心できるのはごく自然なことです。/多様性は力とされますがそれはあくまで願望であって歴史的事実ではありません。」/脱人種の立場をとったオバマを称賛するのは、人種を直視しようとしないリベラル派の欺瞞。/人種の違いに目を閉ざすことが人種差別なのか。それとも人種に固執することこそが人種差別だと非難すべきなのか。p.121.122

 身近なものを優先して大事にする現実主義、家族主義。これは加地伸行『儒教とは何か』で説かれていた儒教の教えに近い。

米国を破壊した要因としてグローバル化が槍玉に挙げられる。p.16

 白人ナショナリズムは、非グローバリズムで、ネオコンや新自由主義とは一線を画す。トランプの一国主義と相性が良い。

バノン。「闇の国家」の解体を目指す自らを「レーニン主義者」とさえ称する。この認識はトランプ氏のそれとも重なる。/反エスタブリッシュメントの有権者を強な支持基盤としている点だ。p.71

 資本家攻撃・社会主義的アメリカ。

ミームを用いることで堅苦しいイメージやメッセージも茶化すことができる。この「茶化し」の感覚こそが肝で「ポリティカルコレクトネス」はおろか「保守」も「リベラル」も、さらには米国を支えてきた制度や規範そのものすら「茶化し」の対象となる。/白人ナショナリストの中には、牛乳を一気飲みする動画を投稿し、「牛乳が飲めないなら(米国から)去れ」と主張する者まで現れた。牛乳は彼らのシンボルとなった。p.62.131

 全ての既得権益側を破壊するネトウヨ的ルサンチマンと、〈茶化し〉て炎上する幼稚性。極右とネットの相性の良さ。既得権益を茶化すつもりが体制側に利用されていく流れには気づかないのか。しかし、牛乳が白人ナショナリズムのシンボルになるとな…。

日本でのユダヤ人称賛本。イスラエル大使館広報官曰く、「今は称賛されているが、いつ反転するかわからない。その時の恐さが私たちには歴史を通して身に染みついている。」p.146

 白人とユダヤ人。ユダヤ人は差別されながらも既得権益側という位置づけなのか?

KKKの入力団体の最高幹部を務めたデビット・デューク「人種の血筋が保持されている社会の偉大さに気づかされてくれたのが日本でした。」山口二矢を模したミームやグッズも人気のようだ。p.39.166

 日本まで利用されていく。

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