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サブカル大蔵経385フィリップ・キンドレッド・ディック/浅倉久志『高い城の男』(ハヤカワ文庫)

 第二次大戦でドイツと日本が勝ち、その二国に分割支配統治されているアメリカが舞台。日本人に支配されている米国人と、ナチスと駆け引きする日本人が描かれる。支配と被支配。この作品は誰に向けて書かれたのだろうか。

 本書も荒俣宏さんの著作で触れられていて、その存在を知り、読みました。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のディックに日本が関係する作品があったとは。

 しかも、今現在Amazonで実写ドラマ化されていて、盛り上がってるとのこと…。

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"史実性"って?ある品物の中に歴史があるってことさ。/片方には史実性がある。どっさりある。品物としてこれ以上は持てないぐらいにある。だが、もう一方はなんにもない。p.104

 架空の小説の中の真実。作中の骨董の真贋はその例えなのかもしれないと読後思いました。

リタは興奮のあまり、老人の肩をつかんでいった。「そういうわけで、ドイツと日本は戦争に負けてしまうのよ!」老人は笑い出した。p.110

 日本が負けてアメリカが勝つことが、苦笑されている世界。

やつはおれを侮辱しわが民族を侮辱した。だが、おれにはどうにもできない。仕返しのすべはない。おれたちは敗戦国民なんだ。そして、おれたちの敗北は、これと同じように、ひどく微妙でぼんやりしていて、ほとんどそれと気づかないぐらいなんだ。p.296

 ディックはこれを読んでいるわたしのために書いてくれているのか?アメリカ人にも日本人にも。

サンフランシスコみたいに坂が多くて。あそこの日本人は、ずっと戦前からいた人たちなのよ。p.340

 在サンフランシスコ日本人への排日運動と強制収容所の事実。宮内悠介『カブールの園』の題材。

中陰パルドー死後の世界だ、と田上は思った。p.378

 チベット仏教に詳しいアメリカ。ちなみにこの田上は易占いを自分で行う。松永久秀か明智光秀がモデルか?

真実−とジュリアナは考えた。それは死と同じように恐ろしい。でも、死を見届けるより、ずっとむずかしい。p.422

 安藤昌益と本書の〈イナゴの作家アベンゼン〉が自分の中でリンクしました。妄想と呼ばれるものの中に真実があるのでは。

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