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サブカル大蔵経671池田邦彦/津久田重吾(監修協力)『国境のエミーリャ』①〜③(小学館)


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ユジノサハリンスク市街(2018年4月撮影)

サハリンを訪れてから、北海道とサハリンのパラレルワールドをよく考えます。北海道が今のサハリンみたいになっていたかもしれないし、サハリンが今の北海道のようになっていたかもしれません。その時は、北海道は単なる中継地点。

終戦前後の米ソのやりとりの中で、北海道が分割されて北半分がロシア領土になっていたら、私の住む旭川はどちらの国になっても国境最前線の街だった可能性が高い。

そして、そんなありえたかもしれない世界を具現化してくれた本書に出会えました。カバーには、こう記されています。

可能性としての東京を描く仮想戦後活劇

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(1巻p.41)敗戦によって東西に分割統治された日本。東京も分断され、東半分は日本人民共和国という国になっています。

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(1巻p.28)板橋区は西で、足立区と北区は東側。荒川鉄橋が描かれているのがたまりません。

鉄道作品の第一人者・池田邦彦さんの描写は本当に臨場感があって、列車が暴走する回は、昔読んだ細野不二彦『東京探偵団』で山手線の車両が連結して外部に出ようとする回を彷彿とさせる迫力がありました。

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(1巻p.118)そしてこの世界の〈大幹線〉の終着駅が「旭川」のようなのです。いずれ描かれるでしょうか?

昼食(アビエト)は売り切れ!食べ物は全部売り切れよ!!

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(1巻p.48)「十月革命駅(旧上野駅)」の人民食堂で働くエミーリャが毎回さまざまな姿体で叫ぶ台詞。共産圏でよくある風景なのかもしれませんが、なんか、ワクチンに並ぶ現代の日本を予見してるかのようです。描写も内容にマッチしていて、この絵柄は貴重で大好きです。

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(3巻p.34)作中のトーキョー浅草の地図。現在の北海道の地図での日本語と元々のアイヌ語表記の関係に置き換えると、これはロシア語表記が征服側で、日本語地名は征服されたアイヌ語表記に感じられます。北海道の中でのアイヌと和人の関係をここから感じることはできないでしょうか。

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(2巻p.73)脱走者が野球部の練習に故郷を感じるシーンが一番印象深いコマです。何気ない風景こそ、大事なんだなと。

また、作者がまえがきで「学生時代に少年サンデーを読んでいた世代としては、少年誌には適度なお色気が不可欠である!…という強烈な刷り込みがあり、こちら方面の要素も少々」と言う通り、エミーリャのサービス満点な共産圏的なエロスも読みどころとなっています。

単行本は現在3巻まで発売されていて、表紙のカバーをとると、さらに完全にロシア語仕様になります。すごいこだわりは、監修協力の津久田さんのセンスでしょうか。

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1巻

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2巻

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3巻

今後の続きが楽しみなのですが、悲劇がありそうで見たくないような…。そんな複雑な気持ちで、夏の〈安定供給開始〉の4巻を心待ちにしています。

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レーニン像がたまりません。

ユジノサハリンスク駅前の銅像も大きかったです。

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ユジノサハリンスク駅(2018年4月撮影)

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駅前のレーニン像

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夕暮れの中のレーニン像

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