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サブカル大蔵経631吉田豪『聞き出す力』(日本文芸社)

私は吉田豪さんと同じ誕生日なのですが、同時代を生きている者として、彼ほど誇らしく、頼もしい存在はいません。

一年前にこのnoteを書き始めるにあたり、サブカル界隈にこそ、現代の名僧がいる、と思ったのは、吉田豪や杉作さんの文章と姿勢に出会ってからです。

渦中の人物の素顔を偏った世間に投げかけて一石を投じたり、一線を超えた動きや言動をした相手には有名無名関わらず毅然と対応し、Twitterでの素人への対応においても、ギリギリのバランスで啓蒙させる。宮沢賢治の詩のように困った人あれば東西南北に飛び込んで行く人のようで、名カウンセラーであり、現代の剣豪だと思う。

ただ、遍歴を重ねて50歳を過ぎると、〈大物に踏み込む豪ちゃん〉ではなくて、吉田豪自身が大物になってしまった現在、厳しめの言動がパワハラ扱いされなければいいのですが。〈豪ちゃん〉と呼ぶのは、もうターザンと博士くらいでしょうか?

むしろ間違っている相手なら、間違いをより増幅させる装置になって、世の中にはっきりと伝えたいんですよ。だから間違いの目は小さいうちにつまないほうがいい。そうですか、とは言うけれど、ですよね、とは言いませんよ。p.232

 やはり神の領域ゆえの孤高を感じます。

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心がけている事は、嘘をついたら絶対にボロが出るから、相手の良いところを探してそこを好きになって、本当に心から興味を持って聞くこと。そして、良い答えが返ってきたら、ちゃんといいリアクションで返すこと。p.15

 昨日看護師さんに、心掛けていることを尋ねたら、嘘をつかないことと話してくれました。どんな職業にも当てはまるかも。

その作品がいまいちだった場合は「面白かったです!」とは絶対に言わない。あのシーンがよかったですとか、ピンポイントで褒めるべきであり、そうすることで、ほんとに面白かったです、とたまに言った時そこにリアリティーが出るし相手も喜んでくれる。p.21

 この褒め方を見習いたいが、テクニックではなく、自分よりまず相手ありきの姿勢は、なかなか真似できなさそう。

あんまり信用されすぎても困るので、実は完全な味方でもないです!と適度に突き放すと言う代物。友達みたいな距離感になったら慣れ合った感じの刺激のないインタビューになるはずだし、下手に信用されてオフレコ話とかされるのが1番困る。p.29

 この真骨頂とも言える〈間合い〉には、最初衝撃を受けました。そして影響を受けています。

僕の立場は傭兵みたいなもので、雇われた時確実に結果を出すしかない。p.33

 取材相手と主催者のために自らを犠牲にして孤独を選び取り、自転車で帰る姿。

とにかくインタビューで重要なのはつかみなのだ。最初の質問だけでこいつギリギリの事やる気だなと思わせなければいけないのである。p.34

 大物相手でこそ真価を発揮しそう。しかし吉田豪自身が大物になってしまったら。

ジョージ高野と言うプロレスラーがいる。スターになるしかないような逸材だったんだが、いかんせんどこか致命的にずれていて、そこが最高に面白いタイプだった。僕が初めて会ったのは彼が北海道でFSRと言う団体を立ち上げ、パワーボムという飲み屋をオープンさせた頃。トンパチと言うインタビュー集で、なーんでじゃ!どーしてじゃ!と言う謎のリアクションをしていたのが今も忘れられない。p.52

 私もこの浅草キッドのジョージ高野インタビューに衝撃を受けて、釧路に行った時にFSRの事務所を訪れました。たしか大楽毛地区だったと思います。どなたもいらっしゃいませんでした。

僕はこういう時、どっちが正しいのか追求することもせず、ひたすら言い分を聞くようにしている。どっちが正しいのかは、読む人がジャッジすればいいことだし、そもそも正しくてつまらない人より、正しくなくても面白い人を評価したい。p.52

 この姿勢って、現代一番大事で、求められていることだと思うのですが。

永江朗氏の、『話を聞く技術』と言う本に、黒柳徹子・田原総一郎・ジョン川平・糸井重里といった大物たちと並んでなぜか僕も登場しているんだが。p.128

「ダ・カーポ」での日本美女選別家協会メンバーのおふたり。

タモリの合気道的なやりとり。ゲスト側が面白い話を準備してくることが重要視される状況を作り上げたのがタモリの凄いところなんだと思うのだ。p.128

 聞き手としてのタモリの異能性。

この仕事を始めてよかったことといえば、僕の発言によって何かが変わることもあるってことだろう。藤井隆さん、坂上忍さん、岸部四郎さん。p.132

 たくさんの人を救ってきたプロデューサーとしての吉田豪。また坂上忍にインタビューして欲しい。

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