サブカル大蔵経246馬場啓一『池波正太郎が通った味東京横浜松本編』(中公文庫)
久々再読して驚きました。池波正太郎が訪れた店が次々とdisられていく。「けなすのは嫌い」と言いながら。ファンにとっての聖地を、ひとつひとつ〈剥がして〉いく粘着質な作業。
私も池波正太郎の食エッセイを読んで、それを頼りにして、まつや、竹むら、山の上ホテル、みの家、たいめいけん、並木藪、ヨシカミ、東、ニューグランド、などを廻りました。その思い出には感謝しかありません。
そういうファンを、本当の美味しさをわかっていないとdisり、ひいては池波正太郎をdisることにつながることがなぜ編集側にはわからなかったのか。不思議な奇書。
失礼だが、銀座アスターがこんなに美味しいとは思わなかった。p.60
この失礼な書き振り。
(池波は)食べるものもやきそばとかシューマイといったものばかりである。p.62
味オンチと遠回しに…
(天國)なんでもない天ぷら屋である天國も、池波の中ではひとつの理想の店に昇華していてp.84
池波の選択から物語が始まり、その筆致に、人は酔いしれたんですがね…。
(リスボン)値段相応の味しかしない。p.143
ヨシカミは観光客向けだし、リスボンは「取り残された」と。「世田谷住まい」の著者は浅草に対してもなぜか上から目線。
(東)仕方なくビールでせっせと流し込む。そういう食事の好みが意外な早死にを結果としてもたらしたのだ。しかしビーフンには罪はない。p.172
ビーフンが嫌いと冒頭から書き、さらには、池波の死因がこういった中華店での脂の取りすぎと言及…。
(たいめいけん)肉は決して良い部分ではない。p.189
ビルを建てたことを称賛。
(野田岩)キリンラガー。他のメーカーには悪いがビールは結局これしかない。p.192
煉瓦亭や野田岩では「瓶ビール」の話しかしていない。
(横浜ニューグランド)マティーニは実はそれほどでもない。p.270
この後、なぜ池波は「ロオジェ」のカクテル言及しないのだ、と余計なことまで言いだす始末。
こう見てくると、ひとつのスタイルでつい読んじゃいますね。最初からそういう題名にしないのが不思議。なんか不思議なその界隈の闇を感じます。
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