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サブカル大蔵経91榎本俊二『火事場のバカIQ 申』(小学館)

 今の日本がどんな時代かと言うと「榎本俊二の漫画が本屋に置いていない」時代。これはヤバい。山田風太郎の文庫作品群がなくなってきたことくらいヤバい。

 榎本俊二はジョージ秋山、永井豪、赤塚不二夫、山上たつひこ、大島弓子らの思想をひとりで引き受けている貴重な鬼才枠。

 綺麗な線で殺人と射精を繰り返すうち、『ムーたち』では、仏教の唯識思想まで到達。セカンド自分。サード自分に驚愕。

 エログロナンセンスをフル装備した「ひとり大正時代」かもしれない榎本作品が当たり前に棚にある方が奇跡だったのかもしれません。

 漫画誌連載新作のアンダー3も表4子も出版は電子のみ。私が榎本作品に会いに行くのは現在「BRUTUS」と「ちゃぶ台」のみ。漫画誌以外が榎本俊二に近づいてきました。

 私の中では榎本俊二の絵が載っている、と言うことだけでも購入する存在。それでいて神出鬼没(ブロスの豊崎書評カットとか)。谷崎潤一郎のアンソロジー作品集でも、唯一谷崎に負けていなかったのは榎本だけだと思った。

 三次に引っ越しした顛末を描いた時は、はた万次郎さんかと思いました。『稲生物怪録』の舞台で独特の磁力を持つ街三次。榎本さんが移住されてからはまた新たな磁場が形成されていく感じがします。私も旅の途中に三次に泊まった時、朝起きたら雪が降って驚いたことを覚えています。

 今度『えの素』がアニメ化になります。私、初めてクラウドファンディングというものに課金しました。予定よりはるかに高額な布施が集まったのを見て、榎本俊二を慕う人はたくさんいるんだなぁと、嬉しいような、これからまた問題作が生み出されていくと思うと少し恐ろしいような。

 榎本俊二は緩急自在でありながら、安易な着地をしない。そこに作家としての矜恃を感じます。 

 この作品、漫画誌連載、最後の紙媒体作品になるのでしょうか。


まあ謝菜なんていいのに


頭がおかしいぞ。みなさん殺人がなくなるんですよ。


もし世界から殺人がなくなったら我々は殺される不安や危険から解放されるに違いない。その時人類は…

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