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サブカル大蔵経210ディック東郷『東郷見聞録』(彩図社)

 お互いにプロレスを続けていれば、こうやって再会できるのだ。p.48

 シブくて頼りになるレスラーのイメージがあるディック東郷が、日本を引退した後、たった一人で欧州、北米、南米、アジアとリングに上がりながら旅した紀行文。

 各地のプロモーターとメールでやり取りして、呼ばれたらその街に行き試合。たったひとりでの交渉、移動、試合、住む、食べ飲みが描かれていく。すごい時代。

 私もユニバーサル、みちプロ、海援隊とずっと見てきましたが、ウルティモ、サスケ、デルフィン、邪道、外道、TAKAと切磋琢磨してきた中で、どちらかというとサポートに回る東郷が、最後にプロレス伝道者として世界のそれぞれの国のレスラーに魂を伝えていく布教物語をぶち込んでくるとは、感慨深いです。彩図社ありがとう。

タリスのチケットを買うためブリュッセル南駅に行くと、途中のゾーンから街の雰囲気がガラッと悪くなった。p.77

 たしかにヨーロッパ都市の駅前はガラ悪い印象があります。私もよく絡まれました。

ユニバーサルでデビューしたときのリングネーム嚴鉄魁は新間幹事長(新間寿)が名付け親。俺の故郷秋田に魁新報と言う新聞があってそこからとったそうだ。p.112

 さすがの新間イズム。イージス艦問題追及で地方紙の矜恃を見せた新聞。

エクアドル。練習に参加したのは10人。いつも通り、はじめにスクワットをやらせてみた。これだけで単体のレベルがある程度わかる。p.168

 スクワットリトマス。やはり、プロレス=スクワットなんだなぁ。

チリ。客席の子供が持っていた応援ボードを見ると「DICK TOGO」と言う文字に加え、日本語で「ディック東郷、ランカグアへようこそ」と書いてあった。ランカグアに来て本当に良かったと思った。p.197

 ここ、感動しました。プロレスファンとしても嬉しい。地元のプロモーターがSNSで宣伝するのだが、それにしてもすごいなぁ。レスラー冥利につきるのでは?これも東郷の今までの実績があるからだ。

アルゼンチン。ヒップホップマン。お客さんには入場料の代わりに服や食料おもちゃなどを持ってきてもらい、集まったものは後日選手たちが孤児院を訪問するときに届けられる。p.215

 プロレス、すげえなぁ。今の日本で、お寺でも興行でもこういう発想できるかな?

アルゼンチンの人はWWEに関心がないと言うこと。p.221

 さすが。三千里でマルコが旅した国。こういうところにアメリカに対するスタンスが出るところが貴重なリサーチだと思う。

ゲバラの革命家としての生き様をプロレスに置き換えることで、勝手ながらゲバラと自分を重ねてきた。ある節にはゲバラがルチャを習ったと言う話もある。p.230

 ゲバラ、ルチャ!!

ボリビアの女性レスラー・チョリータ。あなたたちは観光客を意識しすぎて、ルチャリブレ本来の戦いを忘れている。との東郷のコメントに来訪。p.255

 このやり取りがたまらない。東郷もガチだし、ルチャ本来の闘いを取り戻させる。

飛び散ったポップコーンには、試合中なのにやってくる野良犬が食いつき、もうめちゃくちゃだ。p.277

 こういう描写は記者より細かくて臨場感溢れてます。その場にいた人で感性のある人でないと書けない。

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 最後、日本から仲間たちがやって来るシーンは少し興醒めしたかなぁ…。ひとりで終わる方がカッコ良かったような…。

 さらに、引退かと思ったら、まだアジアに伝道に行く流れもすごい。実は日本のどのレスラーよりレジェンドになっていくのでは?

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