見出し画像

サブカル大蔵経610久住邦春『奇跡の本屋をつくりたい』(ミシマ社)

学生時代、札幌の琴似にある〈やまさ〉という居酒屋によく行きました。呑む時は、そこを教えてくれた友人と店で直接待ち合わせていました。地下鉄東西線琴似駅で降りて店に行く途中、十字路の角に「くすみ書房」という本屋がありました。ある時、フラリと中に入って驚きました。

画像2

店の中央の棚に、ちくま、教養、中公などの文庫が面出しで一冊ずつ並んでいます。目を疑いました。売れない文庫フェア?

〈最も売れない教養文庫〉と言う棚があり、ルースベネディクトの『菊と刀』、黒岩涙香『小野小町論』、増谷文雄『この人を見よ』が並んでいる。p.126

垂涎の棚が、そこに鎮座していました。
これだけ絶版に近い文庫の群を見たのは、京都の「三月書房」くらいだと思いましたが、棚の前で眺めているのは私だけのようで、その棚以外は普通の本屋さんでした。

画像1

それから、くすみ書房のユニークなフェアはその都度、メディアを賑わし、私が札幌を離れた後、新札幌に支店を出したことも伝え聞き、またいつか行けるかなと思っていましたが…。

久住店長の想いを受け継ぐミシマ社社長の渾身の一冊。

画像3

その原因は、1999年に実施された地下鉄の延長だった。p.13

 終着駅でなくなることが大きかった。

それよりも返本している方が良い。返本すれば請求は確実に減る。だから、何もしないことに決めた。店は欠本でガタガタになり、店内はどんどん荒れていった。p.16

 本屋が〈荒れる〉ということ。本書では家賃の問題も大きい印象。

人を集めるプロに話を聞きに行った。FMのラジオ曲と代理店を経営する木原久美子氏に尋ねた。マスコミを動かすこと、そして経営者であるあなたを売り込むこと。p.23

 人を集めるということ。寺もそういうことをしている所もあるが、果たして根本的な目標になるのだろうか。

岩波書店の営業の方「うちの文庫が1番売れません。だからぜひ取り上げてください。」p.34

 出版社の営業と書店の関係。

取り次ぎ、出版社の協力なしの書店独自の企画はほとんどなかった。p.48

 書店の独自性と限界。

妻が友人に送った最後のメールは、「本はいいですね」だった。p.86

 あらためて本を手に取る。その一冊。

皆さん覚えていらっしゃいますか?駅前から、明正堂、アテネ、なにわ書房、大通りに、リーブルなにわ、維新堂、富貴堂、成美堂、東京堂とありました。この書店さんが全てなくなるわけです。しかしこの8軒の坪数を全部足しても今の駅前の紀伊国屋さん一軒の坪数にも満たないです。p.155

 懐かしいです。全部行きました。特に〈リーブルなにわ〉は幻想文学の棚が大好きでした。

 書店の死。本と本屋好きになってから、今まで何軒本屋の死を見てきたのかなと思いました。これだけ取り組みをしても閉店せざるを得ないのは何が問題なのか。

Amazonや駐車場完備の道内の大規模複合書店コーチャンフォーで買ってしまう私が殺しているのかもしれません。Amazonは便利だし、コーチャンフォーはいつ行っても混んでます。しかし、くすみ書房や三月書房で体験した気持ちはしばらく味わっていないと今あらためて思います。

この記事が参加している募集

読書感想文

本を買って読みます。