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サブカル大蔵経672矢口進也『漱石全集物語』(岩波現代文庫)

夏目家と岩波書店の闘争には驚きました。

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岩波書店は、教師をやめた岩波茂雄が大正二年八月に神保町で開業した古本屋にすぎなかった。p.3

出版社としての岩波書店が『こころ』から始まったとは知らなかったです…。神保町の岩波ブックセンター古書店時代の名残だったのかな…。あの棚は壮観でした。

「東洋思想と西洋思想との生きたる融合は独り先生の作品に求め得べく」p.7

岩波茂雄渾身の漱石全集のパンフレット。これが日本の出版文化を変えたのか。精密な日本の全集のスタンダードがはじまる。

しかしブームの圏外にいるのもやりきれず、考えた末、生まれたのが岩波文庫だった。p.31

この項の見出しは「円本批判者が円本を出す」。著者の〈岩波&夏目家いじり〉が、あげたり落としたりと、絶妙すぎます!

夏目家が桜菊書院の申し出にとびついたのには、いまのうちに出さなくてはならないという焦りがあったようだ。p.85

夏目家、岩波を裏切る。

直後、岩波茂雄脳溢血。

漱石遺族と岩波とでは、漱石に対する考え方に差があって/岩波は、漱石を崇拝する姿勢だったが、遺族にとっての漱石は、言葉はよくないが「金づる」だった。p.90

岩波現代文庫、攻めるなー。

商標権をとっておいたら幾らか生活の足しになるだろう(夏目伸六談)p.102

「漱石」を商標登録しようとした夏目家。異議を申し立てた岩波により鎮圧。岩波が出版文化を護った、と思ったが、漫画界では、作者亡き後遺族らがプロダクション形式で版権管理をしているので、夏目家の気持ちもわかるような。純一・伸六兄弟への幻想高まる。夏目房之介さんの本も読み返してみよう。それにしても当時、漱石とはどれだけシンボルだったのか。怪物か。

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『ザ・◯◯』シリーズ。あの狂気の圧縮具合とザラ紙が懐かしい…。当時は画期的だと思いましたが、青空文庫やKindleで無料で読めるようになった現在、このかたちが漱石全集史のゴールになるのでしょうか。

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