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サブカル大蔵経712佐伯泰英『惜櫟荘の四季』(岩波現代文庫)

「私の初のエッセイ集は、文庫が建て、文庫が守った惜櫟荘が主人公の物語です」p6

前作『惜礫荘だより』の帯の惹句です。

佐伯泰英の新聞広告での顔写真が大きくなるにつれ、まだ読んだことのないその作家の存在は大きくなっていきました。

おそらく出版社や書店にとって救世主のような存在なのだろうと思っていました。

その佐伯さんが岩波でエッセイを出す。本書は続編でしたが、岩波茂雄ゆかりの別荘を佐伯泰秀が継ぐ奇縁。

文庫の神様を文庫の革命者が継ぐ。

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それにしても多い。多すぎる出版点数は、現在の出版不況と小説家としての私の位置を物語っている。だが、この執筆と出版点数がなければ、惜礫荘の修復は成り立たなかったのも事実だ。p.10

 四年で書き下ろした時代小説は61冊。

「これだけ発生した蜂は来年も活動するら、巣穴をいくつか叩いたところで横に移動するだけら」p.102

 メンテナンスと共に。まさに住職です。

文庫の老舗ブランド感が文庫書き下ろしの出現によって薄れていった。文庫は、作家の誇りであったはずだ。それがいきなり書き下ろし文庫になり、老舗文庫と新興出版社の文庫との垣根が取り払われた。p.145

 文庫の格の破壊者であり救世主。

なぜかような真似を七十五歳の私がやらねばならないか。出版社の売り上げは文庫が三割を占めるという。/文庫書き下ろし作家が身罷るのが先か、出版界が消えるのが先か、チキン・レースの様相を呈してきた。p.176

〈佐伯泰英現象〉とは何だったのか。

具なしのパスタに白ワイン。老舗の蕎麦屋に入り、もりをあてに冷酒を飲むような雰囲気で実にカッコよかった。p.187

 佐伯さんはもともとカメラマンとして外国に滞在していました。本書で訪れたスリランカ、コーチン、ナポリは、私も行ったことがあって懐かしい。

出版社を辞めざるを得なかったKと新刊雑誌の休刊を余儀なくされた編集長と売れない物書きの三人が集まり、『居眠り』を形にするために動き始めた。p.218

 その時歴史が動いた。

「ああ、官能のF社さん」p.218

 双葉社の社長が言われてきたこと。

意図したわけではないが、一時の文庫書き下ろしブーム(があったと仮定して)がかつての文庫のイメージを傷つけ、文庫ブランドを曖昧にしたことは確かだろう。ゆえに文庫書き下ろしの終焉は文庫全体の終わりとも重なっているように考えるのは私だけか。p.221

 八面六臂の活躍の功罪を佐伯さん自身が述べる哀愁。何となく誤解していました。

「文庫の時代は終わった」と私は思う。それでも作者は書き、編集者は編集する。それが仕事だ。p.222

 松本清張などにも通じる年齢を重ねてからの多産とブレイク。その矜恃。今度、佐伯さんの小説を読んでみたいです。

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