見出し画像

『あなたのため』なら、何を言ってもいいんですか?

ワクチン接種の副反応でダウンし、2日空いてのnoteです。
前回投稿したとおり、しっかりなーんにもしない休暇を過ごしました。

ベッドで寝っ転がっている間、たくさん余計なことを考えていたので、今日はその余計なことを書き留めておこうと思います。

ずっと私の奥底に眠らせてある、大学生のときの話。

私はプロの音楽家を目指して、某音楽大学に通っていました。
私が専攻していたのは、トロンボーンというちょっと変わった形の金管楽器。
吹奏楽なんかではほぼ伴奏しか吹かないトロンボーンも、専門で勉強するとソロの曲を吹くのです。

ただ、ソロといってもピアノやギターと違って同時に複数の音は出せない単旋律楽器。ほぼ毎回ピアノの伴奏が必要です。

大学3年生の夏から卒業にかけて、お世話になったピアニストがいました。
私と同じ大学を出た大先輩で、プロとして現役で活躍している人。金管楽器の伴奏ピアニストといえば必ず名前が挙がる、そんな人に試験やコンクールのたびに伴奏を弾いてもらっていました。

歳は自分の母親よりも少し上くらい。
すごく情熱的で面倒見がよくて、でもものすごく言葉のキツい女性でした。

自分でいうのもなんだけど、私のことをすごく可愛がってくれていたと思う。


『あなたは私の若いころによく似てる』
『あなたにはもっと学ぶ機会を与えたい』


そんなふうによく言ってくれた反面、


『全然ダメ』
『あんたにこの曲吹く資格なんてないわよ』

そんな言葉もしょっちゅう浴びせられました。

レッスン中に怒号や暴言が飛ぶことなんて音楽の世界ではよくあることだし、彼女が私を傷付けたくて言っているんじゃないことは、よく分かっていたつもり。
本当に私のためを思って、もっと伸ばそうと思ってあえて厳しいことを言っているんだ。

しかも、現役で音楽業界で活躍している人。何もかも私よりも正しいに決まっている。信用して素直に教わっていればいい。

だから毎回怖くても辛くても、『無知な私に教えてくれている』と思うことで毎回のレッスンに耐えていました。


違和感を覚えはじめたのは、大学4年の夏、私の22歳の誕生日。

『たまにはゆっくりご飯でも食べましょう』と、自宅に呼ばれました。
私がその日誕生日だということは伝えていなかったから、招かれた日と誕生日が重なったのはただの偶然ですが。

彼女の手料理を食べながら、色んな話をしました。
当時卒業の迫った時期ということもあり、話の中心は私の進路のこと。
『なにかやりたいことや考えていることはあるのか?』と聞かれ、ありのままに私は答えました。

本当は留学したいこと。
留学が無理でも、進学してもっと勉強したいこと。
でもうちは裕福じゃないからこれ以上両親にお金は出してもらえないし、すでに貸与型の奨学金を満額借りてしまっているからこれ以上借金は出来ないこと。
かといってバイトを増やせば練習時間が減って元も子もない……

卒業をひかえてかなりナイーブになっていた私は、話しながら涙が溢れていました。
その涙を見た彼女が呆れたように放ったひと言が、今でも鮮明に私の中に残っています。


『なんか自分のこと、可哀想な子みたいに言うのね』


それをきっかけに、私の中での彼女への信用が違和感に変わっていきました。

その後も卒業が近付くにつれ、進路の話をする機会が増え、聞かれるがままに毎回答えていた私。

また心ないことを言われるのか……と思いながらも、お世話になっているのは事実だから報告するのも礼儀だと、聞かれることには嘘をつかずに話していました。

卒業演奏試験の目前、彼女との伴奏合わせをしたいた2月の夕方。

『で、結局進路はどうしたの?』と。

経済的にも留学は諦め、自分と両親の許容範囲内ギリギリの別の進学先を決めていた私は、その時もありのままを答えようとしていたのですが……

私が話終わるのを待たずに放たれた言葉。

『そんなところにいたって成長になんかならないわよ!他にもっとあったでしょ?!』


……だから、『そんなところ』を選んだ理由をこれから話そうと思ったんだってば。
なんで最後まで聞いてすらくれないんだよ。

なんだかもう分かってもらいたい気待ちも、目前に控えた卒業試験もどうでもよくなってしまって、悔しいとか悲しいとも違う、空っぽな気持ちだけが残りました。


私、何に怒られてるんだろう。
何に傷付いているんだろう。


私のため。この人が言っていることはすべて私のため。
けど、『私のため』であれば、私は何を言われてもいいんだろうか?
『私のため』の暴言であれば、私は傷付いてはいけないんだろうか?
耐えられない私がいけないんだろうか?


その後も卒業試験を終えるまで彼女との付き合いは続き、その一件で私が酷く落ち込んだあと、彼女ともう一度だけゆっくり話しました。

今の気持ち、言われて傷付いた気待ちも、最後にすべて正直に彼女に伝えたけど、カラッとした笑顔で彼女は『そんなこと言ったっけ?』とひと言。


ああ、もうこの人のそばにいるのはやめよう。

私の中で何かがプツンと終わった瞬間でした。


それから卒業試験以来、彼女には会いに行っていません。
伴奏もお願いすることはなくなって、同じ音楽業界にいるから偶然顔を合わすことはあっても、私から連絡して会うことはない。

でも、未だに演奏会の案内などのメールやLINEが彼女から届きます。他の人たちにも送っている一斉送信だと思うけど。一時期はお世話になっているのに……と失礼を承知のうえで連絡も返したことがないし、演奏会にも足を運んでいません。

私が顔を出さなくなっても、あの人はきっとなんとも思っていない。
どうせまたケロッとして『忘れちゃった』なんて言うんだろうし、そうじゃなかったとしても『厳しいことから逃げたダメな子』くらいにしか思われていないだろうな。


でも、ひとつだけ彼女の心に聞いてみたい。


『あなたのため』なら、何を言ってもいいんですか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?