例の「新卒リクナビ事件」覚えてますか

学生の内定辞退率を予測する『リクナビDMPフォロー』という採用ツールが問題になったことは記憶に新しいと思います。

2019年8月26日のことですが、このニュースを聞いた時は正直びっくりしました。何故かというと、マイナビも同様のサービスを提供しているにも関わらずリクナビだけが袋叩きのような状態になっていたからです。

実は、マイナビも書類選考AIツールとして「プライオ」というサービスを企業向けに提供しています。こちらのツールの宣伝文句として「優先度」「辞退可能性」が使われているので問題がこちらにも波及するのかと思ったのですが表向きには大きくニュースになることはありませんでした。

ここからが本題。

「内定辞退率」を測るツールが何故ここまで大きな問題となったのか?採用担当者としての本音はどうなっていくのか?

まず、そもそもの前提として会社の採用担当者は毎日届く膨大な量のエントリーシートに目を通さなければなりません。1枚1枚しっかりと確認できるのが最良なのですが、そうしている内にライバルに出し抜かれてしまうとどうなるか。単刀直入に言えば、面接の予定をライバル企業に先に入れられてしまうことになるので、こちらからいざ連絡を取ろうとなった時に都合がなかなか取れないというパターンになりかねないのです。

「いやいや、学生は時間がたっぷりあるから一日以内に多くの会社の面接を受けることもある!」となるかもしれませんが、東京だけでも企業が26万社もあります。更に一流と言われる "東証一部上場企業"を単純に数えてみても約800社ということを鑑みると採用担当者の苦悩というのは容易に想像できるかと思います。

実際に就活するとして、1社につき3時間(移動1時間+面接1時間+待機1時間)は少なくともかかりますので朝からフル回転したとしても午前枠1回、午後枠2回とかなり少ないので企業からしたら高い競争率の中で勝たなければいけない状況です。それだけではなく、どこの企業も欲しい人財には、一刻でも早く他社よりも先に熱心にアピールして心を掴んでおきたいという気持ちが出てきます。

なので、内定辞退率ないしは書類選考を一気に捌くためのAIツールに対するニーズが企業の中にはあります。ただ、今回のリクナビに関しては何が問題だったのかというと①個人を特定できるような状態で提供されていた ②辞退率を計算して提供していた という所にあります。特に②の方が大問題で、これは「自分は辞退しようともしていないのに勝手に辞退する可能性が高いと見られてしまって選考から外されたらリクナビはその責任を取ってくれるのか」とする学生を含む世間側の言い分が100%正しいです。

さて、どうやって辞退率を計算するのだろうか。

マイナビの「プライオ」は外部向けにも情報が一般公開されているのでそのWebサイトの中にある文章を抜粋します。

過去のエントリーシート等の応募情報の文章データや選考情報(合格、不合格、内定辞退など)をもとに、貴社選考で重要視されている要因をHaRiが学習し、オリジナルの診断モデルを構築。その診断モデルによりエントリーシートを分析し、貴社の採用基準に合った人物を5段階で評価し、優先度を診断します。 【引用元:"書類選考AIツール PRaio"】

学生にとっては驚きの文章だと思います。自分とは全く関係ない過去の人のエントリーシートを元に複合的に判断されているからです。

実際に、私もこのツールを使っていた採用担当者からそれとなく情報を集めてみて資料を読んでも「うーん...?いくらディープラーニングとかAIが昔と比べて発達しているとしても確かな論拠ってあるのだろうか。」と気になってExcelで疑似的に再現することは可能なのだろうかと試してみたことがあります。これはさすがに無理でしたがアルゴリズムさえ確立させれば同じような発想でエントリーシートを効率的に整理していくためのツールは自作できそうだなと感じました。

ただ、正直に言うとその採用担当者も辞退率は結構気にしてはいるものの「このデータって当てになるんだろうか。全く真逆の人が来たりしないだろうか。」とかなり警戒していました。それもそのはずでこのサービス自体がまだ最近出たばかりのものです。且つ、アルゴリズムそのものがどうなっているのかについてそこまで詳しく解説されるかというとそうじゃないからです。(聞いたとしても統計学など研究領域に関する知識が必要なので理解できる人は少ないかもしれないですね)

ちなみに、結果的には、ツールを通して出てきた辞退可能性率が実際の入社者に影響を与えているかというと「何とも言えず」でした。そのため、実のところを纏めるとすると内定辞退率予測ツールが絶対悪というよりは企業の本質的な性格というのが炙り出されたというのが一番の大きなポイントとなった事件であるように感じます。

辞退率予測ツールが無くても「学歴フィルター」という昔からずっと続く就活における理不尽な差別を今でもやっている会社というのは無くなっていないので、その現実もしっかりと認識した上で就活をどう進めていくかということを考える必要があります。逆に言うと、学歴フィルターをバリバリやっていた企業というのは学閥のようなものが社内に出来上がっている可能性が高いので、入社したとしても運を味方にしながら上手く切り抜く処世術が求められてくるので選択として「正解」かどうかについても真剣に考えて決めていかなければなりません。

あなたの就職活動が良いものとなることを心より切実に願います。

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