心・技・体・直結ニューロンブースト

幕内力士稲妻は付き人二人の間で目を閉じ腰を下ろしていた。4勝6敗で迎える11日目、新入幕としては勝ち越しの可能性が残るだけ上出来だが、彼の若い精神は打ちのめされていた。

勝ち星はほぼ同期の力士からで、中堅以上には子ども相撲めいてあしらわれた。心技体全てが未熟。唯一武器と呼べる物は、付き人とのニューロン直結による未来予測だけだった。

「任せろ。今日の芝山ともやったことがある」

左手の兄弟子、幕内経験者の上月が稲妻の脳内で言った。右手で何も言わない花畠は稲妻の実弟で、未だ十両経験もないが人一倍研究熱心だ。

「頼みます」

稲妻は短く言い、999回目の脳内取り組みに集中した。髷の根元から延びるケーブルは感情を伝えないが、二人の優しさはあまりに不器用だった。周囲には同じように電脳を有線接続、出力を増幅し、相手の研究対策に励む力士の集団が無数に形成されている。

「アバーッ遅効性ウィルス!」

遠くで叫び声が上がった。 【待ったなし!】

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