見出し画像

『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』◆読書ログ2020#07◆

今回の読書ログは、『社会変革のためのシステム思考実践ガイド』です。

本書は、主に社会変革(ソーシャル・インパクト)の文脈で書かれた本ではありますが、そこで解説されている「システム思考」というツールは、公共の社会課題の解決のみならず、一般的な民間企業をはじめとする様々な組織で活用ができるものだと思います。

ただ、多くの人にとって大変役立つ内容である一方で、同じ具体例・同じ説明が繰り返し用いられていたり、抽象的な表現が続く箇所があったりと、書籍の構成としてはやや冗長な印象も否めません。
そこでこの記事では、自分のインプットの整理も兼ね、本書で解説されているシステム思考のエッセンスを網羅的にまとめてみたいと思います。

そもそも「システム」とは何か

システム思想家のドネラ・メドウズによる定義では、システムとは「何かを達成できるように一貫した秩序をもつ、互いにつながりあっている一連の要素の集合体」とされています。

つまり、システムとは “何らかの目的” を達成する仕組み・機構だということです。
だからこそシステムは安定していて、変えるのが難しいのだといいます。
ただし、その “何らかの目的” は、私たちがそのシステムに対して達成してほしいと望んでいることとは限らないというのがミソです。


「システム思考」の定義

したがって、システム思考とは「望ましい目的を達成できるように、要素間の相互のつながりを理解するための思考法」だということになります。

これは、さらに大きく2つに分解されます。

①過去や現在の分析ツールとして:今のシステムは、どのような結果をもたらす仕組みになっているのかを正しく把握する
②問題解決の原理として:真の目的を達成するために、システムをどのように再設計すればよいかを考え、実行する

つまり、「今、どういう結果を生むシステムになっていて、どういうシステムに変えれば望ましい結果が得られるかを考えること」と、まとめることができます。


どういうときに使うべきか

では、システム思考はどのような場面で使うべきなのでしょうか。
本書からいくつか抜粋します。

● 問題が慢性的で、それを解決しようとしている人々の意図に逆らい続けているとき
● 多様な利害関係者が、意図を共有しているにもかかわらず、足並みを揃えて取り組むのが難しいと感じているとき
● 利害関係者たちが、システムの各部分が全体におよぼす影響を理解せずに、自分たちの部分だけを最適化しようとしているとき
● 利害関係者の短期的な努力が、実は、その問題を解決しようという自分たちの意図を台無しにしている可能性があるとき
● 人々が多くの異なる事案に同時に取り組んでいるとき


システム思考と従来の思考法との違い

私たちは往々にして、何かひとつの要素・部分を、ある問題の原因として特定しようとしてしまいがちです。
しかし実際には、その問題は複数の要素が複雑に絡み合って生じていることが多く、むしろそれら要素間の繋がり、あるいはそれらが構成するシステム構造そのものが根本的な原因であることがほとんどなのです。

であるがゆえに、現実の様々なシステムでは、必ずしも部分最適の積み重ねが全体最適になるとは限りません
全体を最適化し、問題を根本的に解決するためには、部分と部分の関係を改善しなければならない部分と部分の関係を改善しなければならないのだということを認識しておく必要があります。

画像1


システム思考の欠如によって問題が慢性化する例

抽象的な説明ばかりではイメージが難しいと思うので、本書で紹介されている例として、飢餓に苦しむ人々への食糧援助を取り上げます。

「慢性的な飢餓に苦しむ人々を助けたい」という意図のもと、彼らに食糧援助を行う活動は、一時的には苦しむ人々を助けることになり、それを継続・拡大することで問題は解決されるように思います。

しかしながら、
● 食糧援助を受けることで、地元のインフラ開発への意欲が失われる
● 無料の食糧の流通によって、地元産食料の価格が下がり、農家の成長や適正価格での食糧販売を妨げ、地元の農業がいっそう弱体化する
● 食糧援助によって生き残った子供たちが10~15年後には出産適齢期に到達し、人口が急増し、飢餓を加速させる
など、長期的には、意図に反して問題を慢性化・悪化させる結果になってしまいます。

これに対し、近年では、地元の農業をはじめとする産業強化に対する支援が適切な打ち手とされています。

このケースでは、直接的な食糧援助という短期的には分かりやすい効果が出る「応急処置」があること、その「応急処置」を行わなければ今すぐに助けられるはずの命を見捨てることになる可能性があること、根本的な解決にはより多くの時間的・人的リソースを必要とすることなどから、システム全体を考慮した解決策にシフトすることが難しくなっていました。

皆さんの身の回りにも、各プレーヤーはそれぞれに最善を尽くしているにも関わらず、長期的には全体として意図に反した結果になってしまっている状況はないでしょうか。


システム原型(システムの典型的なストーリー)

大抵の複雑な問題は、「システム原型」と呼ばれる典型的なストーリーが、いくつか組み合わさってできているといいます。
本書では、全部で12のシステム原型が紹介されていますが、その一部について、ここでポイントを取り上げます。

好循環/悪循環:成功(失敗)がまた次の成功(失敗)を生み、加速させる循環構造。自己強化型ループ。
バランス型ループ:ある安定状態・均衡状態に戻ろうとする矯正プロセス。短期的には効果的な解決策も、その投資をやめた途端に元に戻る。
うまくいかない解決策:短期的には機能する応急処置が、時間的な遅れを伴って、長期的な意図せざる結果を生み出している状態。
問題のすり替わり:本来取り組むべき根本的な解決策を実行せず、症状が一時的には改善する応急処置に依存する構造。
成長の限界:外的・内的な制約要因によってさらなる成長が阻害されつつあるにもかかわらず、一時期は効果的であった現在のやり方に固執している状態。
予期せぬ敵対者:共通の目的を追っている当事者の一方が個別に選んだ解決策が、意図せず他方のパフォーマンスを妨げてしまう構造。

これらの裏にあるのは、物事がどのように機能すべきかという信念と前提、およびそれらの根底にある意図や目的、つまり人々の「思い込み」なのです。
こういった典型パターンを知っておくことで、無意識のうちに、こうした状態に陥っていないだろうか?と、システム全体を俯瞰的に観察することができます。


4段階の変革プロセス

ピーター・センゲは、『学習する組織』の中で、次のような4段階の変革プロセスを提唱しています。

①変革の基盤を築く(準備)
②今の現実に向き合う(理解と受容)
③意識的な選択を行う(コミットメント)
④乖離を解消する(絞り込み・推進力の創造・矯正)

重要なのは、「システム全体から招集する(多様な利害関係者を集めて、志、視点、経験を共有する)」と「システム的に考える(複雑なシステムを、その部分同士のつながりという観点から理解する」の両方を組み合わせるということです。

このプロセスでは、最善を尽くしているプレーヤーが、今までのやり方が適切ではないと言うことを受け止め、それを変えるという選択をする必要があります。
これは非常に難しいことではありますが、彼らの抱いている信念に対し、「正当かどうか」ではなく「有用かどうか」で評価する方が、より生産的な対話を生みます


現状維持ではなく変化するための選択をする

一方、システムとしてどうあるべきかが明らかになったとしても、多くの場合、その変化に踏み切るという選択は容易ではありません。
現状のシステムからも何らかの見返りを得ているはずで、変化することで発生するコスト、一時的に手放さなければならないものなどを考えると、現状維持を選択したくなることも多いでしょう。

こういう場合には、それぞれの便益・コストを次のような表にまとめて整理してみると、現状維持か変化かを選択するのに役立ちます。

画像2

また、これをさらに部門Aからみたパターンと部門Bからみたパターンで分けて書いたり、短期と長期で分けて書いたりするのも良さそうです。
シンプルだからこそ、様々な場面で活躍する汎用的なツールなのではないでしょうか。


さいごに

ここでは、本書で解説された「システム思考」の要点のみを抽出してまとめています。
社会変革における、より具体的な事例・使用例や詳細な解説を知りたい方は、実際に書籍を手に取っていただくのがよいかと思います。

あるいは、社会変革の文脈に特化せず、より広範な「システム思考」の実践プロセスに関心のある方は、以下に紹介する書籍を読んでいただくのがよいかもしれません。


この記事が参加している募集

推薦図書

飲食店の開業を目指して準備をしています。バカな若者をちょっと応援したいと思った方、サポートお願いいたします。 スキ・コメント・SNSシェアだけでもとても嬉しいです。