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福島県は過剰診断を認めていない TBS「報道特集」2022年5月21日【原発事故後300人 原発事故と甲状腺がん 関係は?】についてのSCOの感想

この報道については多くの方々が批判をされていますが、福島での甲状腺がん多発見を国際機関からの報告を無視して放射線被ばくによるものという姿勢で報道していることに加えて、我々が違和感をもったのは、福島で発生している甲状腺がんについて「福島県は過剰診断と言っている」と報道したことです。そのような事実はありません。逆に、福島県・福島県立医科大学・環境省・関連学術学会など検査を実施・サポートしてきた組織は、過剰診断の被害の存在を認めず、今後も検査を推進しようとしています。また、福島県や環境省が検査を縮小しようと画策している、という情報も間違いです。その根拠を下に示します。これらは「福島の甲状腺検査と過剰診断(あけび書房)」に詳しく記載されています。


1. 福島県の有識者会議で2013年以降、専門家たちが何度も過剰診断の危険性を指摘し、検査のやり方の変更を要望してきましたが、福島県はその意見を入れず、2011年から検査法を全く変更していません。

2. 福島県と環境省は「福島で甲状腺検査が開始されたことは適切な対応であり、今後も継続すべきである」と
「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」中間取りまとめ(平成26年12月)で述べ、復興庁:放射線リスクに関する基礎的情報(令和元年5月版) p.6、5.「甲状腺検査」の状況https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/basic_info_on_radiation-risk/latest/kisoteki_jouhou.pdf にも記載されています。

3. 参議院の音喜多駿議員、衆議院の細野豪志議員、福島県の渡辺康平県議会議員が議会で過剰診断問題を取り上げましたが、政府・福島県は過剰診断の被害の存在を認めず、かつ検査の方法の変更もなされていません。(答弁を注意して聞いてもらえばわかりますが、過剰診断についての言及は極力避け、また被害については一言も触れていません。)

4.福島県・環境省は福島の甲状腺がんの説明をするときに、国連UNSCEARの報告書の「放射線の影響ではない」という部分の説明はしますが「過剰診断の可能性がある」という部分は説明しません。すなわち、放射線の影響ではない、ということを言いながら、ではどうして増えているのか、という点については説明を避けています。

上の典型例ですが、読売新聞の記者が環境大臣に、過剰診断問題への対応姿勢を質問したときに、環境大臣は「過剰とか云々とかいう立場ではない。」と答えました。
8分目
https://www.youtube.com/watch?v=qeMbzh_wgAs

5. 以前の我々のNOTEでも記載しましたが、過剰診断についての情報を啓発しようとすると様々な妨害が入ります

日本甲状腺学会雑誌「甲状腺癌の過剰診断を考える」の号をめぐる経緯
https://note.com/mkoujyo2/n/ncbcc9980b2d3

福島の甲状腺検査はIARC提言のモニタリングであると専門家が説明したことについて
https://note.com/mkoujyo2/n/n7a53db6186f8

福島県が過剰診断の危険性を認識し、対応をとろうとしているのならば、我々がこのような活動をする必要もないわけですが、現実は違います。我々の今までの経験からは、福島県や環境省は、過剰診断の被害の存在を認めたくないのではないかと思います。過剰診断がこれだけ問題視されているのに検査のやり方を行政が一向に変えようとしない理由について音喜多駿議員はYouTubeのインタビューで「官僚の無謬性ではないか(つまり、官僚が責任を取りたくない、ということ)」と語っています

(不適切な甲状腺がん検診、国会の反応は?音喜多議員と話そう。7分50秒目)
https://www.youtube.com/watch?v=dr9SdRGX9Uk

過去に韓国で甲状腺がんの超音波検診を推進した結果、甲状腺がんの大規模な過剰診断が発生したときにも、検査を計画した専門家たちは検診の弊害を認めず、検査は続けるべきだと主張しました。しかし、韓国のマスメディアはこれに対抗して良識派の専門家の見解を連日流しつづけることで「反過剰診断キャンペーン」し、その結果過剰診断の被害を抑え込むことに成功したのです。振り返って日本の現状を見れば、反原発運動を推進したい一部のマスコミが、行政の不作為を黙認し甲状腺検査の維持継続を応援することで、行政と一緒になって福島の子どもたちを傷つけているようにさえ見えます。
今この時点でも、福島では過剰診断の被害を受けた患者が日々増え続けています。本来マスメディアは子どもたちの人権に敏感でなければならないはずです。ぜひ良心を取り戻してもらいたいと思います。
ただ、この番組で早期診断されたはずなのに、様々な不調を訴える患者が取り上げられていました。「過剰診断によって、子どもや若者はこんな悲惨な状況におかれるんだ」ということを知る上では貴重な情報です。むしろ、現在検査の推進を主張している方々に見ていただき、現実を知っていただきたいと思います。


福島県は過剰診断を認めていないとTBSが報じたことに対し、BuzzFeedの相本啓太記者が県の担当者に取材した記事が27日にでました。


https://www.buzzfeed.com/jp/keitaaimoto/hodotokushu-tbs

『福島県が過剰診断を主張?
報道特集はさらに、福島県で甲状腺がんが多いことについて「県などは過剰診断だと主張している」と伝えた。
BuzzFeed Newsの取材に対し、福島県の担当者はこう答えた。
「過剰診断の可能性については県の専門家委員会でも指摘されています。しかし、県としては明確に言っていないので、『主張』といわれれば語弊がある。つまり、主張も否定もしていない状態です」
UNSCEARは科学的知見に基づいて「過剰診断」を報告書に盛り込んだ。しかし、いま福島県が自治体として断定的に主張しているわけではない、ということだ。
この担当者は「個別の番組内容についてのコメントは差し控える」としながら、元首相らが欧州委員会に書簡を送付したことに触れた。
「がんになった原因や過程は様々な意見や科学的知見がある。切り取ったり、断定したりすると誤解を招くので、客観的で丁寧な説明をお願いしたい」 』


また、TBSは報道の内容の訂正しました。

https://hochi.news/articles/20220528-OHT1T51239.html?page=1

『TBSは28日放送の「報道特集」の番組内で、21日に放送した東京電力福島第1原発事故に関する番組内容の一部を訂正した。
「原発事故と甲状腺がん」とする特集で、放射線被ばくの影響で甲状腺がんになったと訴える原告団などを取り上げた。番組では、福島県内で甲状腺がんが増えた原因として「県は過剰診断と主張」と伝えたが、この日、「正確には、専門家委員会で過剰診断の可能性を指摘されたというもので、県は議論を継続しているとしています。訂正いたします」と修正した。  』

福島県は「甲状腺検査が過剰診断を起こしていることを認めていない」ことを公式に認めました。過剰診断の被害を認めていないということは、それに対して対策を取る必要がない、と認識しているということです。これは非常に重要な事実です。