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日本甲状腺学会雑誌「甲状腺癌の過剰診断を考える」の号をめぐる経緯

日本甲状腺学会雑誌「甲状腺癌の過剰診断を考える」の号 2021年April Vol.12 No.1が4月に出ましたが、そのあと 6月9日に日本甲状腺学会のホームページにこの特集に関する「学会としての見解」が出され、雑誌編集委員会でもいろいろなことが起こったようです。学会の内部の議論の様子はなかなか知ることができませんが(会員でも全くわかりません)、過剰診断に関心を持ち、今回のなりゆきについて心配してくださっている方々に、事情を知る髙野徹医師が現場で何が起こっていたのかについてお知らせしたいと文章を出してくださいました。

いただいたお手紙を画像で貼り付け、読みやすいように文章でだしています。


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日本甲状腺学会雑誌特集「甲状腺癌の過剰診断を考える」に対する日本甲状腺学会の対応について           
(2021年7月1日)

甲状腺専門医を中心として甲状腺がんの過剰診断問題についての情報を広める活動している「子どもを過剰診断から守る医師の会(SCO)」が、先日日本甲状腺学会雑誌の過剰診断特集号に対する学会の対応について情報を発信したところ、多くの反響があり、学会のありかたを心配する声もいただきました。情報が不十分な状態ではかえって余計な憶測を招いてしまう可能性もあり、甲状腺学会雑誌が発刊されて以降ずっと編集委員を務めており、今回のできごとの詳細を把握している私が責任者として以下にその経緯を記載します。記載内容に誤りがある場合はいつでも訂正いたしますので、私の方までご連絡ください。
                  (りんくう総合医療センター 髙野 徹)

起こった事実

日本甲状腺学会雑誌の掲載内容は雑誌編集委員会のメンバーが決めています。この決定には基本的には委員以外のメンバーは関与しません。2020年に一般会員から編集委員会に「甲状腺がんの過剰診断についての解説をお願いします」との要望があり、委員会で検討した結果、Natureなどの有力紙に論文を投稿していた宮城女子学院大学の緑川早苗先生に編集をお任せすることになりました。2021年4月に「甲状腺癌の過剰診断を考える」という特集号が発刊されました。この特集で掲載された論文の多くが、過剰診断問題に関する高い見識を持った国内外の専門家が参加して結成された「若年型甲状腺癌研究会」のメンバーによって執筆されています。また複数の論文で福島の甲状腺検査のありかたを危惧する意見が出されており、このような見解が国内の学術誌から初めて発信された、という点で歴史的な特集号でした。
2021年6月9日に日本甲状腺学会がこの特集についての声明を出しました
(日本甲状腺学会雑誌 12 巻 1 号に掲載された特集1「甲状腺癌の過剰診断を考える」 についての日本甲状腺学会の立場について http://www.japanthyroid.jp/public/img/news/20210609_1201_2_opinion.pdf)要点は下記のとおりです。
1.この特集の意見は学会の一部の人の意見である。  
2.学会は過剰診断に対する対策についてはガイドラインを作成するなど常に前向きに取り組んできた。
3.福島の甲状腺検査については学会としてずっと支援してきた。

2021年6月15日に雑誌編集委員会が開かれました。会議では、理事会での決定事項として下記のことが通知されました。
・今後雑誌の掲載内容については理事会の承認が必要であること
・次号以降に下記の論文を掲載すること
①福島の甲状腺検査を擁護する立場の論文(注:執筆者からの推測です)
②「甲状腺癌の過剰診断を考える」の論文を批判する立場の論文(注:同上)


経緯については以上です。
以下は私の意見です。
1.日本甲状腺学会の声明について
成人のエビデンスのみを基に作成されたガイドラインを適応することで、過去に例のない福島の子どもを対象とした大規模スクリーニングでの過剰診断の弊害を抑制できているとの考えは誤りです。仮にそうだとするならば、福島県の子供達の甲状腺がんの罹患率が桁違いに上昇している事実をどう説明するのでしょうか。取られている対策が有効でないことを証明している、とするのが科学的に正しい判断ではないでしょうか。今回の甲状腺学会の声明も一部の方の意見であり、学会の総意ではないとは思います。しかし学会幹部が、この声明にあるような甘いリスク認識で福島県の甲状腺検査を今まで支援し、これからも支援し続けるのだとすれば、それは福島県の子供たちを非常に危険な状態に置くことを意味します。声明文の文責ははっきりしませんが、その先生のお考えは変わりようがないかもしれません。しかし、他の幹部の皆様におかれましては、ぜひ今回の「甲状腺癌の過剰診断を考える」特集を熟読し、疫学の専門家や海外の識者が鳴らした警鐘に虚心坦懐に耳を傾けられますようお願い申し上げます。
2.理事会の編集委員会への指導について
今回のタイミングでの理事会の編集委員会に対する監視・指導の強化は、「甲状腺癌の過剰診断を考える」を企画した編集委員会のメンバー、特に編集担当の緑川先生に対するいやがらせもしくは懲罰とも受け取られかねません。この対応は、編集委員のみならず一般の学会員に、学会の場で福島の甲状腺検査に対する懸念をあからさまに表明することはリスクを伴う行為であることをあらためて認識させ、過剰診断の議論は今後はタブーとなるでしょう。日本甲状腺学会は伝統的に自由闊達な意見を述べ合うことが伝統でしたが、そのような伝統が今回の件で失われてしまったことは残念に思います。                         
                                     なお、以上の経緯をお知りになった特集号の執筆者のお一人の先生から以下のようなご意見をいただいております(意見の公開についてはご本人の承諾をいただいています)。
                                     「2021年4月号の甲状腺学会雑誌の『甲状腺癌の過剰診断を考える』は、客観的に見てもとても質の高い特集号だったと思います。もしこの特集とは違う考えの方が学会員にいて、別の特集を組みたいと考えるのならば、その提案を編集委員会に提出されればいいのではないでしょうか。しかし今回の一連の対応は、そのようなフェアで民主的な運営では認められないような内容を無理に通そうと、理事会に工作されたように見えます。そういうやり方はよくないという基本的な姿勢が、学会及び理事会の主流になってほしいと思います。」