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洗濯機

深夜。
「ドスン」音がした。
余りに大きな音だったので目が覚めた。
目線の先に洗濯機が目に入った。
仰向けで寝るよりも横向きに寝る方が楽みたいでよくその方向に向いて寝ていたからだ。
その洗濯機が揺れていた。
こんな深夜に洗濯物を回した覚えも無いし、何か入ってない限り動く事などない。
「ドスン!ドスン!ドスン!」
少しずつ動き、音が激しくなってくる。
「え、何?」
見ていると洗濯機が踊っていた。しかも激しく。
「ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!ドドドドドドドドドドドドドドドドッドン!」
急に動きが止まった。
「バン!」
洗濯物を入れる蓋が勢いよく開いた。
スッと洗濯槽の穴の縁に真っ赤な赤いマニュキアを塗りたくった爪の女の右手が現れ掴んだ。
「バン!」
次に左手。
その手に力を入れて何かが出てこようとしている。
「グググ」黒い髪の毛がゆっくりと上がってきた。
「う、うああ」
怖くて思わず布団を頭からかぶって「来るな!来るな!来るな!」と念仏の様に言葉を吐き出しながら震えてた。
「ダン!ダン!」「ドス、ドンドン!」
想像するにその何かは洗濯機から床に降り立ったようだ。
「ヒタヒタヒタ」
音から察するに裸足のようだ。
その足音が段々と自分のベッドに近づいてくる。
気配がベッド脇で止まった。
そして布団の上に手の感触が伝わってきた。
そして歌声が聴こえた。
手は自分の頭から足先まで布団の上をフィギュアスケートの様にクルクルと踊る様に弄ってきた。
「♪ハミングううう、消臭うううう‥‥」
何処かで聞いたことのあるリズムと節。
それが壊れたラジオの様にリフレインする。
もう恐怖で限界になり意識が薄れてく。
気を失う瞬間までその歌と手の感触は続いていた。

気がつくと気配は消えていた。
恐る恐る布団をめくると部屋は明るくなって朝になっていた。
「あれは‥‥なんだったんだ?夢?」
ベッドから起き上がり床に足を下ろす。
「冷たっ」
床が濡れていた。
見ると洗濯機の方から足跡の様に濡れた水たまりが続いていた。
部屋は柔軟剤のいい香りに包まれていた。

おしまい。

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