谷崎潤一郎 刺青・秘密(新潮文庫)を読んで
はじめまして。今日からnoteの投稿を始めさせていただきます。小説家志望Mと申します。
ここでは、読書を始めたいけど何を読んで良いのか分からない人や、読書は好きだが次何を読もうか迷っている人のため、面白かった小説を紹介していきたいと思います。
その際、ネタバレをなるべく回避し、僕が読んでみた具体的感想と言うよりも、読み心地、感覚のような抽象的な感想を書いていきたいと考えています。
今日は、谷崎潤一郎の刺青・秘密の短編集。本作には7つの短編が収録されているが、今回は特に面白かった「刺青」「少年」「秘密」「異端者の悲しみ」について書いていきます。
早速、本題へ
・刺青
谷崎潤一郎の処女作と言われている本作。時代は江戸の中期から後期。一人の刺青師が或る女の体に刺青を入れる話。
ただそれだけの話だが、谷崎潤一郎の持ち味と言われている芳醇な文章が最初から最後まで敷き詰められている。初期の谷崎潤一郎の作品ならではの濃い味の作品。かなり短い作品だが、味が濃いため、丁度良い。これ以上長いと胃もたれするかもしれない。
だが、ただ脂っこいだけではなく、どこか江戸の街に吹く春風を感じるような、爽やかさがある。読後感の良さが演出してくれているのかもしれない。
質の良い脂身が多い牛肉の頬肉をレアで焼き、表面にはしっかりと焦げ目を付けて、その上にラズベリーソースをかけた逸品を思わせる。極上の一皿。そんな作品でございます。
・少年
刺青の次に収録されている少年。谷崎潤一郎のマゾヒストっぷりが発揮された、癖のあるが好きな人はとことん嵌る作品。この作品も、刺青と同じくかなり濃い味の作品。日本を舞台にしているのに、西洋のことが書かれているような気もして来ました。
少年たちの危険な遊びを描写した作品。
刺青よりも長いため、途中芳醇すぎる文章に酔ってくることもあるが、最後に主人公の身を襲う悲劇?喜劇?に辿り着くまでの道筋が、紅灯揺らめく繁華街の夜道を歩くような高揚感を覚えさせてくれ、最後までページをめくる手止めさせてくれません。
刺青は牛肉にラズベリーをかけたような作品だったが、この作品はレアの牛肉サーロインにすりおろしにんにくをかけたような作品。臭気を感じながらも背徳感にゾクゾクさせてくれる逸品。
・秘密
上の二作と比べると若干、味が薄くなったような気がする作品。谷崎潤一郎の作品が世に浸透して、一般受けを考慮に入れるようになったためであろうか。
男の主人公が夜な夜な女装をして街を徘徊する最中に、一人の見知った女性と遭遇する話。
題名は秘密と書いてあるが、男の趣味を公に見せびらかしてやっているように感じる。文章に恥じらいのようなものが一切ないと思ったため、そう感じたのかもしれません。味は上記の二作よりも薄めと書いたが、他の作家の作品に比べたら十分に濃い。だが、肉の味一辺倒ではなく、様々な食材を使って色彩豊かに仕上げ、味わいを豊かにもした印象。
これは生ハムとブルーチーズをワインと一緒に食すような感覚。臭みは確かにあるが、様々な味わいを楽しめ、ワインでほんのり酔えるような逸品。
・異端者の悲しみ
谷崎潤一郎の自伝作品のようです。自らの自堕落な生活を克明に記し、作品として昇華させたもの。谷崎潤一郎が作家になる前の生活が書かれているということになるのか。僕は若干、誇張して書いているのだろうと見たが、それはそれで良い。作品だから。
行動したくても、思うように動けない。そんな苦悩を抱えた主人公が、自分の悪に気付きながら、悪を正す行動を起こすことができないと嘆く描写が多い。そのため、多くの読者の共感を呼ぶだろうと思いました。初めて読む谷崎作品は刺青で良いと思うが、二作目は、異端者の悲しみが良いのではないかと勝手に思いました。
こちらは、三作品に比べて長い作品。そのため、文章も落ち着いている印象を受ける。上の三つは肉の味を楽しんでいたが、ここでは畑で取れた新鮮な野菜や、釣ったばかりの魚介類を楽しむような感覚になりました。小鉢が沢山並んでいるような絵が思い浮かびます。(きっと、先程までは肉のような作品が続いたため、そう感じれたのかもしれませんが)
以上で、読書感想文を終えます。読んで面白い作品を見付け次第、こんな風に書いていきますため、今後もよろしくお願いいたします。
記事とは関係ないですが、僕も小説家志望として何作か世に作品を出しております。文学賞に送っては落ちを繰り返しているので、落ちた作品ですが、是非一読お願いします。松井健太朗名義でやっております。
小説家になろうにも1次落ちのMという名でやっております。
https://mypage.syosetu.com/2007904/
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