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大規模怪異発生日記18

主な登場人物


万禮ばんらい久幸ひさゆき、ヒー、始祖:
かど凌司りゅうしのバンパイアにおける直系始祖。
かど凌司りゅうし、りゅーし:
万禮ばんらい久幸ひさゆきのバンパイアにおける直系係累。
左から
大空ひろたか久幸ひさゆきの実兄スカイの伴侶。鳥人。
千夜ゆきやす久幸ひさゆきの兄の子孫。久実ひさのりの母方の祖父。
久実ひさのり久幸ひさゆきの兄の子孫だが、
ヒューマン社会には久幸ひさゆきと共に
二卵性双生児と偽って生活している。千夜ゆきやすの孫。
左から
西田にしだ絵理香えりか凌司りゅうしの元妻。朗正あきまさ華代かよの生母。
朗正あきまさ凌司りゅうし絵理香えりかの子。母と同居。
華代かよ凌司りゅうし絵理香えりかの子。幼少時に父方祖母の養子となる。
左から
ラン:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの恩人。
トゥ、師匠:久幸ひさゆきの友人。凌司りゅうしの魔術の師。
泰市たいち:ランとトゥの伴侶猫。

話中の万禮一家は、
メンバーシップ「夢了の皿」会員の万禮様のオリジナル・キャラクターで
設定その他は会員様御本人と話し合っております。
711号室出演者≒メンバーシップ会員様は常時募集中です♡

万禮様の偶さか日記も併せてお読みいただくと解像度とエモさが跳満です。


暗夜迷宮日記スクショ 第十八更新分
20230426~20230429
テキストは以下


20230426

真綿で首を絞められるような感覚があり、
検索したら喘息発作かもしれない事が分かったので、
主治医にメッセージしてから病院へ行った。
「圭凌司さん、お待たせしました。
アレルギー性鼻炎は出てないのかな?」
「はい、出てません」
「じゃ見せてもらいますね。
はい、口開けてください。
はい、シャツを捲ってください、
胸と背中の音を聞かせてもらいます………
喘鳴は殆ど無いけど炎症はあるし、
軽くだけど気道閉塞は起きてるね。
バンパイア化移行期は心身共にとかく不安定にはなるけれど、
うーん、こういう症状は今まで一度も無かったんでしょ?」
「はい、一度も」
「バンパイアになってから初喘息っていうのはちょっと……
……かなり珍しいかな。
最後に飲食したのは何時?」
「食事は三時間前です。
飲物は白湯を三十分前に」
「苦しいのもうあと六分だけ我慢できます?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ採血させてくださいね。
黄金週間明けを予定してた定期健診の分も多めにいただきます」
「ありがとうございます」
「へぇえ、以前より断然良い色してますね。
食生活でも変わりました?」
「始祖に叱られて改善しました」
「あー、万禮さん、健康オタクだからねー。
良かった良かった。
吸血はもうしました?」
「いえ、未だです」
「あっそう……うーん、そうかあ……」
「早くした方が良いんでしょうか?」
「あ、誤解させてすみません。
喘息発作が吸血由来の可能性を知りたかったんです。
早く吸血を覚えた方が良いかは何とも言えないですね。
こればかりは統計が取れてない位に千差万別でしてね、
バンパイアになって数十年もの長き渡って
吸血衝動が起きなかった人も少なからずいるんです。
圭さんは吸血衝動はまだ起きてないんですよね?」
「うーむ……? 多分無いと思います」
「うん、無さそうですね。
アレはね、初回だけは強烈だから絶対に分かります。
万禮さんに鎮めてもらって
ショックで吸血の記憶を失ってる可能性もあるんですけど、
最初の吸血衝動だけは忘れられないみたいなんですよ、
誰一人例外なく。
はい、採血お疲れ様。
続きは気管支拡張と消炎の薬を吸引しながら
精神感応念話で話しましょう」
「《ありがとうございます。
因みに、
衝動が起きたら例のサイトに行けば良いんでしょうか?》」
「《多分そんな余裕無いと思います。
私にメッセージとかも思いつけないんじゃないかな。
こっちは何故か個人差があんまり無くてね、
長い歴史で自死せずに乗り越えた人で
最も理性が強かった人でも、
始祖を呼ぶのが精一杯だったから》」
「《最多例は?》」
「《目の前にいた人が涸れてしまうまで》」
「《それは避けたいです》」
「《うん、そうだよね。
異変を感じ取ったら即万禮さんを呼ぶ事が最適解かな。
万禮さんなら吸わせるのもプロだから安心して、ね。
勝手に吸わせて勝手に涸れ死んだりなんか絶対にしないから》」
「《はぁ……》」
「《吸引薬、気持ち悪くない?》」
「《はい、大丈夫です》」
「《良かった。
多分万禮さんは陽桜の事件が終わるまでは
時が味方してくれる事を祈ってるんじゃないかな》」
「《あの男が祈る?》」
「《うん、こればっかりはお祈りゲーだからね。
どういうタイプとかどういう生活をしてたかとか
どうすれば衝動を遠避けられるのか
本当に全く統計が取れてないんだ。
でもきっと圭さんの性格と陽桜の現状を鑑みて
できるだけ今は圭さんに血の味を覚えさせないように
万禮さんは最大限の配慮をしてるだろうと私は思うよ》」
「《そうですか……》」
「《万禮さんに信頼しかねるような事をされた?》」
「《いいえ、全然》」
「吸引お疲れ様。
されたら直ぐ私でも協会でも報告してくださいね。
圭さんの受け取り様に対する
万禮さんの理解が足りなかったって事で
フォローしますから」
「はい」
「他に不安や不満は?」
「ありません」
「黄金週間明けに採血の結果が出揃いますので、
体調に問題が無ければ次回はその時で。
何か起きれば連休中でもメッセージください」
「はい、ありがとうございます」
うむ、信頼できる医師の存在は本当に有り難い。

20230427

朝食後、皿を洗い終えた始祖が首を傾げながら切り出した。
何かが腑に落ちていない時の始祖の癖だ。
「今から同級生と高尾山行ってくる。
ちょっと先が見えねぇから、
飯とか探索とか自由行動予定で頼むよ」
「了解。気を付けて」
「押忍。あ、そっちに何かあったら?」
「即呼びます」
「オケ。んじゃなー」
始祖が高尾山? 
まぁ、始祖は運動全般好きだそうだから可笑しくはないのか。
?始祖の同級生?
……ああ、思い出した。
幼くしてご両親を亡くした久実さんの為に
外見を幼くして久実さんの二卵性双生児として
一緒に学校に通っていた時のか。
昨夜パソコンを発注できそうな人を見つけたと喜んでいたのが
何故山登りになったのか不思議だが、
きっと何時か話してくれるだろう。

独りの夕食で寂しくなってしまった私は食後に師匠とチャットして、
猫の泰市さんが始祖の若い頃の肖像画に
初恋したかもしれない話で大いに盛り上がった。
私は件の肖像画を見たことが無かったので、
師匠に写真を送ってもらって見せてもらった。
うむ、確かに黒い猫に見えなくもない。
人間だった頃からあの不思議な色気が健在だった事に驚いた。
うむ、これはあの美しいバンパイアの始祖も他星の猫も
惹かれても不思議はないだろう。

20230428

始祖が髪を下ろして、
泰市さんに会いに行った。
誘われた私も行きたかったのだが、
今日は半ドンで劇団員が
本社稽古場に集まる予定が入っていたので、
手土産だけ持って行ってもらった。
評判の和菓子詰め合わせだ。
一口サイズだから小さな師匠にも食べきれるだろう。

稽古場で意見交換と読み合わせと台本の調整とを
四五回繰り返した後、
食堂に場を移して懇親会の支度に精を出した。
その間に社長と総務部が完成させた
最終台本を食堂に運び込む姿を見た時、
薄く小さな弱々しい記憶の断片が、
私の脳裏で舞い降りた。
最終台本は最後の読み合わせの間に
印刷されていた筈だった。
意見交換と台本の調整を
小気味良い打鍵音で記録していた人が居た筈だった。
私と同じ頃に入団した…………たくみ、匠流生りゅうせい
元同じ企画部で
劇団螺笑門切っての敏腕キーパンチャー。
思い出した。やっと思い出した!
彼女が異界から戻ったから私が思い出せたのだろうか?
試しに隣に居た吉田きったに尋ねた。
「匠さんは?」
「タクミ? 誰?」
「……いや、済まない。何でもない」
未だだったか。
落胆するな、これからだ。
「あ、そうだ。
圭さん、今朝、絵理香えりかさんが此処に来たんですよ」
「な、何て言った今?」
「圭さんの元奥さんが来たんですよ」
「な、何しに?」
「圭さんの男性の同居人は圭さんの恋人だって」
「何を考えてるんだあの人は……」
「いや、多分っすけど、
受付の上藤かみふじさんを牽制したかったんじゃないかと」
吉田は声を潜めた。
上藤さんと言うのはホワイトデーに
私が最も大きいクッキー缶を返礼した人だからだ。
「ああ……成る程、有り得るなぁ」
「本当の処はどうなんすか?」
「君も面倒臭いだろうから、
そういう事・・・・・にしといて良いよ。
もう朗正にもそういう事にしてあるから」
「了解っす。良いと思いますよ。
バンライさんでしたっけ、あの人美形だし色気あるし、
太刀打ちできないと思わせる魅力がありますから
そういう事にしとくのは全然有りだと思います」
「じゃ、『そういう事』で」
「合点承知の助っす」
済まない、始祖……同性愛者にしてしまった。

20230429

朝食前に始祖に昨日の結果を詫びた。
「朝から申し訳ないが、
悪い知らせがあるんだ」
「エリカチャンが此処に同居したがってるとか?」
「縁起でもない! やめてくれ!」
「クックック……
なら大した事なさそうじゃん。
どうした?」
始祖のこの話し易い雰囲気を作る気遣いには、毎度恐れ入る。
「西田家のみならず、
我が劇団螺笑門内でも
君と私は恋人という事になりました」
「俺じゃなくて凌司君がモテ期到来だったか!
良いとも良いとも、しっかり擬態しようぜ!」
始祖は経緯を訊かず、
さも楽しそうに乗り出して私の腰へ手を回した。
「え、いや、そんなに張り切ってもらわなくても結構なんだよ?」
「いんや、張り切るね。
来週になるか三十年後になるかは分からんが、
いずれ吸血し合うのは確かなんだから
外濠は早々に埋めとくのが最適解なんだよ、
分かるかね圭凌司君」
「何キャラ……?」
「ま、半分冗談だが半分はガチだぜ。
直系係累に吸血衝動が起きて呼ばれたら
始祖はほぼほぼソイツとまぐわう事になるからな」
「ま?」
真桑馬鍬魔具? 否、まぐわうまぐわうまぐわうまぐわう……始祖、と? 私、が?
「ま、まぐわゥウウ?!」
「ま、その時が来たら全ての理性が吹っ飛んで
男だろーが女だろーが上だろーが下だろーが
形振り構わなくなるから……
ご希望なら記憶は消してやるよ」
「いや、そんな失礼な事は望まないよ」
ああ、そうか。だから
『万禮さんに鎮めてもらって
ショックで吸血の記憶を失ってる可能性もあるんですけど』なのか。
圭凌司、落ち着け。
私が最優先させるべきは何だ。
最優先事項は、
毎日他星まで点滴に通ってくださった大空ひろたかさんや
他星の御自宅で昏睡状態の私を預かってくださったランさんと師匠や
床ずれせぬようにと気遣ってくださったキャレンタさんに
何時の日か報いる為に生き延びる事と、
目の前に居合わせた人を傷つけない事。
それ以外は諦められる、だろう?
貞操とか貞操とか貞操とか貞操とか貞操とか羞恥心とかそれまでに築いた関係とか。
獣になったとしても私は私に自死を許さぬのだから、
他は仕方あるまい。
ではその時に必要なのは……
己の変化を逸早く察知する事と、
始祖をコンマ秒でも早く呼ぶ事と、
始祖が到着するまで己の肉体を拘束する事、か。
私が合言葉で呼べば、
始祖は一秒すら待たせずに来てくれる事は実証されているから、
察知までの時間と
察知から口を動かすまでの時間を
私が何とかすべきなのか。
うーーーーむ、難題だ。
方々に相談しよう。



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