4. ファーストミッション
初日のオフィス視察を終えた三人はホテルに向かう。
オフィスが入っているビルから歩いて30秒のところにホテルがあったため、住むところが見つかるまではここに泊まることにした。
チェックインをしようとしたところ、ホテル側のミスで2部屋しか予約されていないことが分かり、他の部屋もすでに満室であるとのことだった。
すかさずロン毛さんはCEOの権力を振りかざし、私と基礎代謝さんが最初の数日間、一緒の部屋に泊まることとなる。
ホテルとは言っても格安であったため、潔癖症の私は非常に乗り気ではなかった。
そして、ほぼ初対面の基礎代謝さんと一緒の部屋に泊まるのは気まずい。
嫌だなー。
部屋のドアの前に到着した。
すでにドアから負のオーラを感じる。
あーほんっと嫌だ。
二人とも開けるのを一瞬、躊躇した。
意を決して、恐る恐るドアを少し開ける二人。
そして閉める二人。
なるほど、と顔を見合わせる二人。
おもむろに日本から持参した殺虫剤を取り出す二人。
やれやれ、初日から忙しくなりそうだなと肩をすくめる二人。
そう、これが立ち上げ特有の忙しさである。
次の瞬間、覚悟を決めて勢いよく部屋に突入する二人。
まずは私が蚊の動きを止めるための魔法を解き放つ。
そこにできたスペースに基礎代謝さんが素早く走り込み、職人のような無駄のない動きでゴキ〇リを片付けていく。
初対面とは思えないコンビネーションである。
そして、我々は一瞬のうちにベットルームを占拠した。
安心するのはまだ早い。
残るは一番危険なバスルームである。
基礎代謝さんがここは任せろとバスルームの前に立つ。
部屋に入る前よりも基礎代謝さんが二回りくらい大きく見える。
これが筋トレ後のパンプアップというやつなのか。
殺虫剤を片手に立つ後ろ姿からは風格すら漂う。
先ほどと同様、無駄のない動作でバスルームに乗り込む基礎代謝さん。
バタンッ
基礎代謝さん: 「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
悲鳴と共に、バスルームから飛び出てくる基礎代謝さん。
私: 「どうしたんですかぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
基礎代謝: 「何がいたと思うぅぅぅ!?!?!?!?!?」
私: 「何がいたんですかぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
私: 「毒蜘蛛ですかぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
基礎代謝: 「違うぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私: 「まさか蛇ですかぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?」
基礎代謝: 「ちがぁぁーうぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!」
私: 「じゃあ何なんですかぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」
基礎代謝: 「こーーーーんなでっかい!!!!!!!!!!!」
基礎代謝: 「ゴキ〇リ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私: 「…………。」
激闘の末、無事に領土を確保した私たちだったが、すでに夜中の12時を過ぎていた。
ほぼ初対面であった二人は、この戦いを通して一気に戦友と呼べる間柄になった。
私は戦いの疲れからなのか、今すぐにでも寝落ちしてしまいそうな状況だ。
そんな中、基礎代謝さんは落ち着き無く、部屋の中をうろうろしている。
私: 「基礎代謝さん、まだ寝ないんですか?」
基礎代謝: 「うん。」
基礎代謝: 「あのさ、マクドナルドってまだ開いていると思う?」
私: 「え、腹減ってるんですか?夜飯あんだけ食べたじゃないですか。」
基礎代謝: 「うん、腹減って死にそうだよ。」
基礎代謝: 「僕さ、基礎代謝が高いからかわからないんだけど、どんだけ食べても30分後にはお腹すいちゃうんだよね。」
私: 「化け物じゃないですか。」
こうして、私たちはカガヤンデオロの初日を無事に終えた。
次の日の朝、3人はよく眠れなかったのか、早く部屋から脱出したかったのか、予定よりも早く合流した。
ホテルの朝食を無言で食べる三人。
パサパサな白米と真っ黒なソーセージ。全く食欲がわかない。
こういう生活が当分続くのかと思うと先が思いやられる。
住食の重要性を改めて痛感した。
そんな中、基礎代謝さんはペロリと平らげていた。
私: 「基礎代謝さん、完食ですか。」
基礎代謝: 「うん、昨晩からお腹空いてたからね。」
私: 「それにしても、よくこんなウ〇コみたいなソーセージを食べる気になりますね。」
ロン毛: 「おい、俺まだ食べてるぞ。」
基礎代謝: 「ウ〇コみたいって笑」
基礎代謝: 「こんなウ〇コだったら毎日でも食べたいよ。」
ロン毛/私: 「!?」
朝食を終えた三人は、気持ちを切り替えて仕事に向かう。
我々がカガヤンデオロに来る前から、マニラオフィスの現地スタッフがオペレーションに間に合わせるために講師採用を始め、オフィスとは別の場所でトレーニングを開始していた。
これから、採用された講師達に初めて会うことになる。
我々が一番楽しみにしていたことだ。
期待と緊張が入り混じる中、三人はトレーニング会場となっている別のホテルに向けて出発した。
つづく。
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