映画「君たちはどう生きるか」~いま、備えるグリーフワーク~

ようやく観てきました!!!!!
※ネタバレ含みます。

少年少女のグリーフワーク×宮崎駿監督作品の集大成、という映画でした。

●グリーフワーク
・母の喪失を受け入れ、生きていくことを決意するまでの葛藤を、宮崎監督独自のファンタジー表現で描いた。
・同じように失踪したことのある母久子さんも、ヒミの発言から、母親を亡くしたことであの世界に行っていたのではないか。
●あの世界
・いわゆるこの世(現世)ではない場所。宮崎作品では時間軸が入り混じることが指摘されているが、今回はよりわかりやすかった。
・黄泉の国、死後の世界ではなく、生きている時間の前と後ろにある世界(もしくは生きている時間と共にもある、空想の世界)。だから死者も生まれる前のわらわらも混在している。
・わらわらは「七つまでは神のうち」の体現だと思う。大体7歳くらいまであそこで育って、地上で生まれて、7歳くらいまであの「わらわら感」を持ち、以降人間になっていく。
・キリコさんは久子さんと共にあの世界に行ったことがあり、その時の時間軸のキリコさん(ただし若返った)。「塔の主の声は血をひく者しか聞こえない」ことを知っていたのは、少女時代の久子さんが塔の主の声を聞いてしまった現場に居合わせたからでは。もしくは現世で亡くなった後のキリコさんかもしれない。だからかつてお世話したことのあるヒミ(久子さん)、眞人に愛情を持っている。
・ナツコさんは、つわりで苦しんでいる時に眞人から全身全霊で拒否されているのを感じ取って病み、ふと魔が差したのではないか。「ふと魔が差した」が、赤ちゃんのことを考えると死のう(現世以外のところへ完全に行ってしまおう)とは思えない。だからインコたちも「ナツコさんは赤ちゃんがいるから食べない」と言った。
・大叔父様は頭が良すぎて現世の些事が合わず、その世界に自ら行った、もしくは作り上げた。悩める子孫のために作り上げた側面もあるかも。
・ヒミ(久子さん)は、グリーフワークを行うことを受け入れてくれたこと、「いずれきみは大人になり、結婚して、大切な子どもに出会うよ」という解を示してくれたことに対して、大叔父様へ謝辞を述べた。(おそらく母を亡くしたことについて周囲から「早く忘れろ」等と言われていたのでは)。
・眞人も「友達を作る(家族(母)以外の他者と共にしっかりと生きていく)」という答えを見つけた。合わせて、「現世ではない場所でまた母には会える」という確信も得た。
グリーフワークを通じて「どう生きるか」の答えを出す子どもたちの物語だった。

怖いのがいまグリーフワークを主題に選んだ宮崎監督の意図です。
宮崎監督がファンに贈った最後のメッセージにも読めるし(泣いちゃう)、それでなくてもきな臭いじゃないですかここんところ。
冒頭は空襲警報から始まります(個人的には緊急地震速報より怖い※尚、久子さんが亡くなった火事は空襲による火事ではないようです)。作品の舞台は戦時中です。
国民全体がグリーフワークに備えなきゃならない時代じゃないかな、と思います。
合わせて、「そんな時代にはしないように(あくまで映画の中だけでとどめておけ)」という宮崎監督からの警鐘のようにも感じました。

●こまかいところ
・表現が抜群にうまいーーー。冒頭の街中を走る眞人の周囲だとか、田舎のおばあたちとか。おばあたちの妖怪みたいな姿、あれ「眞人から見た印象」として描いてる。
・眞人の「誰にも気を許していないお坊ちゃん具合」が最高。
・今まで積み上げきた宮崎作品ありきの本作だった。田舎、でかい屋敷、洋館、ファンタジックな大自然……。だから集大成。

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,494件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?