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【前篇】前田ヒロPodcast|成長率だけを追いかけ過ぎると罠にハマる。SaaS経営者が考えるべき戦略とは。~ Fond 福山太郎|文字起こし

 わたしは、SaaSスタートアップに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」のマネージングパートナーである前田ヒロ氏のPodcastが大好きだ。特にSaaS経営者たちを迎えたインタビューは、こちらが聞きたいことだけでなく、思わず膝を叩いてしまうような見事な切り口の質問を繰り広げてくれる。

2020年8月18日のPodcastに登場しているのがFOND(フォンド)の福山太郎氏だ。この福山太郎氏のエピソードが無茶苦茶濃い。特に失敗から得た学びが実に濃い。個人的にはこれは神回だと思っている。

前田ヒロ氏もPodcastの冒頭で「情報量がかなり多かったので、僕もこのエピソード、3回も聞き直しました」と言っている通り、ものすごい情報量でPodcastを聞くだけでは体に叩き込めないとと思い、まずは文字にする作業を休日に行ってみた。なお、前田ヒロ氏に許可を頂いて文字起こしを公開させていただくことになった。かなりの長編になるため、「前編」「中編」「後編」にわけ三夜連続で公開していくことする。(SPECIAL THANKS TO 前田ヒロ & 楠田司)

FONDとは、米国カリフォルニア州で福利厚生代行サービスを提供するスタートアップ企業。創業者の福山太郎最高経営責任者は20代半ばで米国に渡り、いきなり起業した。福山太郎CEOは、2010年慶応義塾大学法学部を卒業後、シンガポールでシステムエンジニアとして働く。11年片道切符を片手に渡米、起業準備。12年Yコンビネーターに参加。AnyPerk(現FOND)を起業。13年福利厚生代行サービスを開始。16年リワードサービスを開始。17年社名をFONDに変更している。

成長率を追いかけすぎた時の罠

ヒロ 太郎君、SaaSスタートアップを経営して何年ぐらい経つんですか?

太郎 2012年に始めたので8年、9年ですね。

ヒロ 8年、9年の間でも色々と成功と失敗を経験してきたと思うんですけど、その中でも特にこの辺が失敗したな、というエピソードってあります?

太郎 ひとつはプロダクトマーケットフィットを探っている時に、最初はできるだけ多くの人に好かれるような製品を作ろうとしていたんですけど、途中でやればやるほど気づいたのは、1,000人に好かれる製品よりも3人に愛される製品のほうがよかったな、と気づきを得られたのがすごく大きかったと思いますね。

ヒロ その気付きってきっかけとかあったんですか?

太郎 ひとつは単価、もうひとつは解約率にでてくるかなって思うんですけど、やっぱり顧客の抱えている課題が大きければ大きいほど、解決した時に感謝される度合いが大きいと。感謝に比例して単価もあがりますし、感謝に比例して解約率も下がるので。結局、単価が高くて解約率が低ければ成長しやすいSaaSになるじゃないかと個人的に思っているので。そう考えるとちょっと好かれるのではなく、愛されている製品を少ない人にでもどれだけ作れるかっていうのがひとつ大事なんじゃないかなと思いました。

ヒロ なるほどですね。で、FONDの歴史をたどってみるといくつかプロダクトがあるかなと。最初はPerkのプロダクトからスタートして、そこからリワードのプロダクトに発展していると思うんですけど、その背景だったりそこでの学びだったりってあったりします?

太郎 2012年に福利厚生のPerkっていうのをはじめて、2015年に日本だとピアボーナスと言われているリワードというビジネスを展開したので、ある意味2回プロダクトマーケットフィットを行っているという感じになっています。で、最初のPerkのときは結構反省ではあるんですけど、ほかのSaaSの会社を見てて、すごい成長しているのを見ていてできるだけ成長させたくて、成長率しか見ていなかったので、そうなるとさっきの例でいうと3人に愛される製品ではなくて、1,000人に好かれるプロダクトを目指してしまった。顧客からの熱量がそこまで高くないのにできるだけ広めることに注力をしすぎてしまって、あまり単価もあげられず、解約率も高くなる時期もあったので、そこはPerkの時に反省したことで。逆にリワードのときはこの反省を踏まえて、できるだけ少なくてもいいから愛される、どれだけお金を払ってでもいいから導入したいと思われるプロダクトをどう作れるかということを非常に強く考え続けたっていうのが大きな違いです。

ヒロ このPMFを探すプロセスで絶対に考えるべきポイントだったりとか確認すべきポイントってあったりします?

太郎 うーん、まずひとつは顧客とできるだけ会うっていうのは大事だと思っています。Perkを始めたのは2012年の後期なんですけど、このときは英語も喋れなかったというのもあってあまり顧客と話していることが無くて、社員に丸投げして基本見るのはエクセルの数字だけという感じのことをやっていたんですけど、それだと顧客の声を直接聞けないし、社員を通じての間接的なフィードバックになるし、結局どこに本当の課題が潜んでいるか分からないまま進まなくてはいけないので、そういった意味では顧客とあって話し質問し続けていうのは、ひとつ変えるのに大きな役割を果たしたんじゃないかなと。

会社を成長させる4つのレバー

ヒロ エクセルだけをみる経営は良くないという話が出てきたと思うんですけど、その罠に入ってしまう理由、特にSaaS経営者ってその罠に入りやすいかなと思っていて、メトリックスが分かりやすいので。エクセルをみるフェーズと見ないフェーズがあると思っていて、この見分け方だったり、どうすればその罠にはまらないかアドバイスってありますか?

太郎 基本的に会社を成長させるにあたっていくつかレバーがあると思うんですけど、僕なりにはインパクトの大きな順番で言うと「市場→製品→戦略→戦術」の4つの順番なんじゃないかと思っていて。どの市場に行くかというのが一番大事で、次にどんな製品を作るか、それまでどんな戦略をもっていって、かつどんな戦術でオプティマイズしていくかだと思っています。一番危険なのは、戦術から入ってしまうことで、いろんなブログとか記事を読んでいるとB2Bだと一日何回電話したほうがいいとか、アポはどうしたら良いとか、営業マンの予算はどうしたらいいとか、そういった末端の数値のところがフォーカスされている。コンシューマーだったら、このボタンは黄色じゃ無くて赤のほうがCVRが高いとか、そういうのがあるんですけど、そもそも市場としていけてない市場にあまり刺さっていないプロダクトを作っていて、戦略が的外れだったら10という数字が12になってもあまりインパクトがないと言うか、そもそも顧客に刺さっていない製品を作っているのに、やれEメールを送る時間は8時じゃなくて10時のほうがいいっていうのは、あまりインパクトが無いことだなっていうふうに思っていて。そう考えると結構、一回プロダクトマーケットフィットしていざスケールするぞ、ってなった時に割とエクセルを見てここを2倍にすれば売上が2倍になるから、来年はこうしようと計画を作ることを何回かやってしまったことがあって、そういった意味ではあまりエクセルを見すぎると逆に大事なことを見失ってしまうんじゃないかなっていうのが結構考えたことです。

社長の3つの役割

ヒロ そうならないように意識的に考えていることだったり、確認しているポイントだったり、分析していることってありますか?

太郎 社長の役割とはなんぞやというところから入ると私の考えでは、方向性の設定と浸透。僕は英語でクラリティ(clarity)って言っているんですけど、会社の方向性だとか、会社のビジョンだとか、それこそ何をするだったりとか、そういうを徹底して浸透すること。2つ目が人財集めですね。採用だとかマネジメントを含めるんですけど、人財集め。最後にお金をなくさないようにすること。この3つが大きく言うと社長の役割だと思っているんですけど。その中でこの方向性の設定ってときに、いまボトムアップ経営って言われていますけど、ここはあまりボトムアップ経営にしちゃいけないところなんじゃないかと思っていて。例えばお客が大企業なのかSMBなのかってなった時にそれをふわっとしてボトムアップで決めさせると、そりゃSMB担当している人はSMBっていうだろうし、大企業担当しているひとは大企業を狙うというだろうし、結局会社が明確な指標を与えていないんじゃないかと思うので、方向性づくりというのはトップが決めなくてはいけなくて、まずここから入っていかないと。そもそもKPIは活動のサポートであって、順番がKPIから見て戦略を作るとなると崩れちゃうのかなと。戦略有りきのKPI設定であることはかなり気をつけるようにしている。

成功している会社の戦略フレームワーク

ヒロ 良い戦略、良い方向性の決め方とか、定義の仕方とか、方向性に含まれる要素ってなんなのか。

太郎 そもそも戦略とはなんぞやということで、色んな人の定義があると思うんですけど、僕なりには目的達成するときにリソースを何に割くのかということだと思っていて。結局、ベンチャー問わずリソースって有限であることが前提であるものと、目標達成するにあたってどこにリソースを割いて、どこにリソースを割かないのであれば一番効果的に目的を達成できるのかどうか。例えば今回の話しでいうと、ARR10億に持っていくにあたって、何をして何をしなければ最速で辿り着けるのかということを決めなければならないと。

ヒロ なるほどですね。戦略を考える時に良い戦略とはってあったりします? フレームワークだったり、考えるときの要素だったりとか。

太郎 成功している会社を見ると、いまからいう3つのフレームワークのすべてがすごくなくても良いんですけど、すくなくとも1つはすごいことがある。その3つがなにかというと、1つが「プロダクトリーダーシップ」。例えばAppleが一番わかり易い例なんですけど、圧倒的にプロダクトが良いので顧客に選ばれる。携帯電話に10万以上払うことってそもそもめちゃくちゃ高いのに払うのは製品がずば抜けていいから。次が「オペレーショナル・エクセレンス」。オペレーションの過程で何らかの理由でものを安く作れる仕組みがあるので、結果的に顧客に提供する時に価格が安くて、顧客に支持されると。例えばコンビニとか、すごい安く髪の毛を切ってくれるところだったりすること。あそこは製品がいいとかマーケティングが強いとかそもそもありつつも、コアはやっぱりいろんな仕組みだとか規模の経済で圧倒的に安く商品を提供できるということが強み。最後に「カスタマー・インティメイシー」がある。顧客とどれだけ親密な関係を築けるか。米国だとZapposという靴屋があって、売っている靴は一緒だけど、カスタマーサポートで圧倒的に顧客にWow! やアハ体験を届けることによって親密な関係を築くと言われていて。スターバックスもあんなに店舗数があるのに、自分の名前を覚えていてもらって、頼んだらカップに名前を書いてくれるだとか、顧客の親密性でスターバックスを選んでいる人もいる。そうなってくると最終的に顧客の目線から言って顧客に選ばれる理由はどれかひとつか、コンビネーションだと思うんですね。プロダクトリーダーシップってかっこいいのでそこを目指しがちなんですけど、どの軸が自分たちの行きたい軸なのか、顧客目線でどれがよくて選ばれているのか把握し、その強みのところをダブルダウンしてできるだけ強くなるか。

ヒロ 振り返ってみると自分たちの軸はどうやって決まっていきますか。チームの構成で生まれていくのか、最初から考えるべきポイントなのか。

太郎 理想は市場に入る前から考えること。競合がどのような戦略をとっていて、それと同じ戦略を取ると戦略をさらに凌駕してやらなくてはいけなくて難易度が高い。セオリーとしては他の競合と違う戦略をとるほうが、そもそも戦わずに勝つことが戦略の基本なので大事。そこを狙い撃ちして、どんな製品をつくって、どんなオペレーションをして、どんな人を雇ってというのが固まると理想なものの、とはいえ最初、どの市場でどんな製品を作るかが大事なのでこういうのって後回しになってしまう。後天的に何が出来るかと言うと、最初の10社、20社顧客ができた時に、その顧客がなぜ自社を選んだのかインタビューをしてみるか、自分たちで考えてみる。自分たちがこうなりたい、の前に顧客はなぜ自社を選んでくれたのかから考えて、それと自社がどうなりたいかをあわせて戦略を作ると必然的にどんな人を採用して、どんなマーケットを狙って、どんなマーケティングのアプローチをして、どんなブログを書いていくかも変わっていくので、そうなると明確にバズルのように進められるんじゃないかな。

中編に続く

文字起こし by @MizunoBizDev

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水野正和|dely株式会社 BizDev|「アレゴー」Founder
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