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【中篇】前田ヒロPodcast|成長率だけを追いかけ過ぎると罠にハマる。SaaS経営者が考えるべき戦略とは。~ Fond 福山太郎|文字起こし

前篇の続きとなります。中編では「ターゲットセグメントの絞り方」「権限移譲の進め方」「権限移譲での失敗」についてお話されているのですが、どれも示唆に富んだ内容です。ぜひ御覧ください。

「プロダクトを作る前にプレスリリースを書け」

ヒロ 太郎君はどういう時間軸で考えている? 一年先まで解像度高く考えているのか、2年先、3年先まで解像度高くしているのか。

太郎 解像度高く見えているのは3年、5年のスパン。会社がどうなっていたいのか、顧客が競合に比べてなぜ選んでくれるのかって。Amazonがよく言うのが、「プロダクトを作る前にプレスリリースを書け」っていうのと似たような話しですけど、5年後に顧客はなぜ自社を選んでくれるのか。そのためには、自社がなれるためには、どのようなプロダクト・ロードマップで、どういう人を採用すればよいのかを描いてくのか結構分かりやすい戦略の作り方じゃないかなって。

ヒロ 社長の役割として方向性を描くのがすごく重要っていうところなんですけど、そこから戦術に落とし込むのは基本的社長じゃない別のメンバーに任せているって感じですか?

太郎 うちは任しているところと、任せてないところがある。うちの場合、プロダクトのところは僕が見ていて、営業だとか開発のところは他の役員に任せている。

ターゲットセグメントの絞り方

ヒロ では具体的に戦略と戦術の落とし込みの例を教えてもらえると。

太郎 うちでいうと元々SMB向けに事業を展開していたいんですけど、途中から大企業向けに切り替えたという経緯があって。その時の戦略が、大企業の中でも従業員が5,000人から1万人のセグメントに絞ろうと。その中でも産業を病院に絞ろうと。そのうえで既存のサービスを使ったことがある顧客を狙おうとなった時に、どういう戦術になるかというとマーケティングのキーワードに「Hospital」って病院の言葉を入れたりだとか、病院の購買担当が集まる展示会にブースを出したり、ランディングページも病院向けのリワードソリューションです、と書いてあって病院のロゴを並べたり。ケーススタディーも一番上に病院のものを並べたり。プロダクトも病院の人たちって他にどんなツールを使っているんだろうってリサーチが始まって。例えば米国だと病院で満足度調査みたいなものがあって、患者が診察を受けて満足度が高いと、そのサービスを提供した看護師さんやお医者さんに助成金が配られる仕組みがあるんですね。だったら、それと連動して、高い評価を受けた人にリワードが自動で送られる仕組みを作ろうというアイディアが出てきたりだとか。そうした細かいアイディアはトップがひとつひとつは見られないので、大企業で病院という方向性を出した瞬間に具体的に他のメンバーは何をすれば良いのかっていう打ち合わせをし始めることが出来るので、それが戦略有りきの戦術の落とし込みのひとつの例なんじゃないかと。

権限移譲の順番

ヒロ そう考えると戦略を戦術に落とし込めるメンバーを集めないといけないじゃないですか。そのメンバー選びだとか、採用のポイントってありますか?

太郎 基本的に社員が10人前後でARR1億以下だったら社長ができるだけトップダウンでやるというのが、もしかしたらボトムアップ経営には逆らっているかも知れないですけど、最初のフェーズであるほど社長がハンズオンでやったほうが早く決まるし、明確に方向性が出せるんじゃないかと。ただ、そのうえで2つ権限移譲をしていくにあたって質問しなくてはいけないのかなと思っていて、ひとつがその課題って優先順位トップ3に入るんだっけ、ということ。採用するにあたってなにかの課題を解決するために採用するので、抱えている課題のトップ3に入っているのか、入っていないのか。もう一つの質問が、それってCEOが自分で直接解決できるかどうか。そもそもトップ3に入らないならあまり大事なことではない。であれば、できるだけ既存の従業員に任せて、自分のハンズオン具合を下げていって、既存のメンバーに任せる。そうなった時に、目的は現状維持でできるだけスケールすることなのでいわゆるオプティマイゼーションで少しずつ良くしていく。次にトップ3に入る案件でかつCEOが解決できるのであれば、できるだけCEOが解決した方が解像度が高いですし早く決まるのでやったほうが良いんじゃないかと。最後に、トップ3に入っているけど、CEOが解決できないこと。例えばマーケティングをやったことがなくて、全リソースを大企業向けに振り向けたいのに何をしたら良いのかわからないときには、はじめて外部からこれをやったことがあるひとを雇って権限移譲していくのが大事なことなんじゃないかと。そうなってくると既存の従業員に任せる場合は、オプティマイゼーションがゴールだったんだけど、今回は変化がゴールになると。今のままだと目指したい方向に行けないので、外部から人を持ってきて、今あるものを変えてその方向性に進む、早めてもらう。せっかく外部から人を持ってきたのに、半年たっても何も変わっていないって状況だったらそもそもミスだし。

過小評価の罠。まずは自分でやってみる。

ヒロ 社長の長所というかスーパーパワーは何なのか意識して、得意でない部分を他の人に権限移譲して回避しようという感じですか?

太郎 特定のバックグラウンドがあるファウンダーってどうしても自分を過小評価しすぎて、例えば営業出身だからプロダクトのことが分からないだとか、エンジニア出身だから営業のことは分からないっていうのは過小評価だと思っていて。最初のフェーズは学べばなんとかなる。顧客の目線から見るとプロダクトを全部理解していて、ビジョンがあってちゃんと細かいことまで説明してくれるファウンダーが来てくれることって結構大きな要素だったりするわけですよ。最初は言い訳をせずにファウンダー自身がやってみる。やってみないうちに採用をしていると、その人がちゃんとできているかどうかも分かりづらかったりするので、最初にフェーズではできるだけ自分でやってみて、限界がきたら他の人に任せるという順番でやらないと現場で何が起きているか全く分からない状況になると結構危ないんじゃないかと思います。

ヒロ おすすめする権限移譲の順番ってありますか?

太郎 一般的には開発をしないと売る製品がないので、開発のところが大事になって。開発がそこそこできると創業者が自分で売りに行って最初の10社ぐらい獲得してくると。10社売るとひとりだと捌ききれなくなってくるので、そこではじめて営業マンを採用すると。個人的には、営業マンは一人よりも二人採用したほうが良い。万が一、営業がうまく行かない時に失敗の原因がその人にあるのか、製品にあるのか明確になりやすいので、二人雇ったほうがいい。次に創業者の役割は、その顧客が満足しているか、契約更新をしてくれるのか、アップセルをしてくれるか確認しなくてはいけないのでCSのところに入ると。今度、顧客が増えてくると自分では管理しきれなくなるので、CSを雇ったり役員が必要になってくる。今度、スケールの段階に入りだすのでマーケティングに入って、いわゆる財務・人事にいって、最後がプロダクトなんじゃないかというのが個人的な考え方かな。

ヒロ 最後がプロダクトなんですね。

太郎 プロダクトは、ちゃんと全部理解できる人って最初からいるファウンダーだったりする。そこがまず大きいですと。もうひとつがプロダクトへのリクエストって社内からも社外からも色んなものが来るんですよね。例えばエンジニアの負担を解決してほしいっていうリクエストだったり、営業から見てこういう機能をやってほしいだとか、既存の顧客から意見があったりしたときに、新しく入ったプロダクトマネジャーがいて、既存のVP of Salesに絶対作ってと言われたらNoと言いにくいんですよね。そうなってくると社内の中で誰の声が大きい順で優先順位が決まっていくと危険なズレがでてくる。その時にファウンダーないし社長って本当に優先順位を決めやすいし、社内の誰に対しても誰よりもNoと言いやすいので、向かう方向性と目の前のロードマップの差異を一番無くせるのはトップだと思うので、プロダクトは最後まで持ち続けたほうが良いと思うのが個人的な考え。

権限移譲での失敗

ヒロ 過去に権限移譲で失敗したな経験はありますか?

太郎 有りすぎて(笑)。例えばさっきのオプティマイズか変化かっていう時に、VP of Saleを雇って、そもそも単価が低いから上げようということになったんですけど、あまりそこを明確に社内で浸透させることが出来なくて、営業の役員ってたいてい彼らのボーナスって営業成績で決まるわけですよね。そうなると100円のディールでも1億円のディールでもどっちでもお金が入ってくるので、ディールが来れば来るほど、単価に関係なくクローズしたがるんですよね。これは当然のことなんですけど。そうすると何が起きるかと言うと、100円のディールが来て、会社としては単価が上がらないから意味なくないと言っても、自分の収入のためにはやらないといけないので「エンジニアの人は機能を追加してください」ということになる。でもその機能は大企業には使われないよね、っていう。戦略での矛盾が有りつつも、そこが明確になっていない状況で役員を雇ってしまうと結局会社の方向性と、その人の成果にブレがでてしまう。そこはひとつ大きな失敗だったと思う。

ヒロ じゃあ、売上目標だけじゃなく、どうやってその目標を達成するか、どういう状態で売上目標を達成するかというのをはっきりさせて、矛盾をなくしていくと。

太郎 そうですね、一番大事な質問は、会社にとって最も重要なことは今何かということ。それをトップが明確にして社員ランダムに聞いた時に、8割以上のひとがやっぱり同じ回答できることがすごい大事なんじゃないかと思っていて。例えば私達がSMB向けのサービスを大企業向けに切り替えた時に、「Go enterprise」と毎週のようにしつこく言い続けた。それが会社に浸透していくわけですけど、やっぱりそうなったときにOKRに落とし込んだ時にObjectiveがGo enterpriseで、Key resultが一年間で10社enterpriseを獲得し、平行して会社の年間売上目標が5億円だとしたときに、5億円をミスっても大企業を10社とる状況と10社ミスっても5億円を達成している状況になったときに、会社としてどっちが大切ですかというトレードオフが起きたとします。今のOKRの例だと仮に売上目標が達成出来なくても、大企業10社をとったほうが、3年後、5年後のインパクトが変わるって思い込める状況をどう作れるかだと思うんですよね。仮にトップがそれを信じ切っているのであれば、VP of Saleの目標は売上高ではなく、大企業に1社につきいくらというボーナスを設定していればSMBのことはフォーカスしなくなるし、SMBの機能のところも混乱が起きないし、会社として同じ方向に持っていけるんじゃないかと。

ターゲット変更時の社長の役割

ヒロ SMBからEnterpriseに切り替える時に、とはいえ、SMBからリードが入ってくるじゃないですか。SMBを無視しないために工夫をしたりしているんですか?

太郎 反論があるのは覚悟で言うと無視したほうが良いと思います。無視するダメージが低いと言うか、つまり1億の段階でスイッチするとダメージは1億分のお客さんですけど、10億のときにスイッチするとダメージが10億分くるので、早い段階で決めたほうが良いと前提の元、出来るだけ無視したほうが良い。ある意味、既存のターゲットじゃないお客さまがチャーンしても、あまり辛くないと思うべきだし、既存でターゲットセグメントのお客さまがチャーンしたら最優先課題として考えたほうが良いし。新規もターゲットセグメントが入ってこないようにする。例えばマーケティンをする際も「このサービスは1,000人以上の従業員がいる企業向けです」と書いたりだとか、できるだけ入ってこないようにして、入ってきたとしても会社としてアテンションを与えないようにやっていかないと結局リストラクションになるというか、そっちのほうに集中が散漫してしまうので。戦略の肝はリソースをどこに置くかなんで、それが集中すればするほど、効果が出てくるので、そういった意味ではちゃんと決めてやらないことを徹底することが、トップにしか出来ないことなんじゃないかな。
ヒロ かなり勇気が必要ですね。

太郎 勇気が必要ゆえ、トップにしか出来ないです。現場に任してしまうと絶対にふわっとしてくるので、上が何をやって何をやらないかを決めないと基本的に明確な方向性が出ないので。それが綺麗であればあるほどに会社としては効率よくリソースが割かれるんじゃないかと。

後篇に続きます!(後篇の公開は今週末にできるといいですね…)

文字起こし by @MizunoBizDev

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