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春の道 無邪気な母が先導する


#休日のすごし方
#タイトルが自由律俳句

『ここの木だったかな〜、こっちじゃなかったかな〜』
母が一生懸命探しているのは、以前カタツムリがたくさん付いていたという1本の木である。約2メートル間隔で生えている、2〜3本の木の間を行ったり来たりしている。
・(今日は晴天で木の表面は乾いていたので、別のところに移動しているのではないか。)
・(前にいたからと言って、今日そこにいるとは限らないのではないだろうか。)
・(どうしてカタツムリがたくさん付いた木を私に紹介したいのだろうか。)
同時に3つの質問が思いついたが、どれも言わず、『ふーん』とだけ小さく言った。後ろから太陽が背中を照らしていて、暑くなる予感がした。唯一帽子を被っている母だけが正解だった。
『ね、この間カタツムリたくさん付いてたよね、このへんだよね』
正解の母は不正解の父にそう言って、というより宙に向かって反射的に放っているように見えた。父も流されるように『こっちじゃない?』と一緒になって探している。私はひとり取り残されている。私たちは散歩に行こうとして家を出たばかりだった。以前田んぼだった野ざらしの土地の前には、私たちの他に誰もいなかった。ただ道幅が狭く、時々通る車に、カタツムリを探すことに夢中になっている母が轢かれるのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。もちろん轢かれることもなく、"カタツムリの木"は見つからず、私たちは再び前を向いて歩き始めた。先頭を行く母は、何事もなかったかのように斜め下に向かって指を指し、口を開く。
『あ、あれがカタバミね』

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