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勇気をくれる歌『Birthday (Ghost like girlfriend)』を聴いた朝のこと

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人間の要素を全部足して、人口で割った後のような、平均の人になりたい。
そうすればいつも多数派で、他の人の気持ちもよくわかる人間になれる。
そんな人は、他人に優しくもでき、自分にも優しくできる。
いつも余裕があって、充実した日々を大事な人と過ごすことができる。

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朝起きたての気分は様々で、同じ身体に違う人が入っているのかとさえ思う。だとしたら、今日は昨日と違う人だと気づくこの『私』はいったい誰なのだろう。くだらない質問を誰にも聞くことができないまま、仕方なく起きる。目覚ましが鳴ってから起き上がるまでの時間が、昨日よりも少し早い。内臓の調子も悪くなさそうだ。が、いちいちチェックして管理しようとする冷静な『私』のことをは嫌いだ。グレーの淀んだ空気の内側で、順調に休日が始まっていた。カーテンを開けベランダに出ると、鉄板で雨とアスファルトと草を混ぜて焼いた、雑な料理の匂いがした。懐かしかった。

洗面台に向かいながら、昨日の上司との面談の内容を思い返そうか迷った。がその時点ですでに上映されており止めることはできない。
『もっと自己主張できるといいね』
上司の言葉は要約するとこうなる。起きた直後に思い出すということは、これは相当気にしているな。『私』は他人事のように言った。に苛立つエネルギーはない。顔についた水は冷たくて気持ちよかった。

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捻じれたものをもとの形に戻す作業をすると、
涙が出る仕組みになっている。
私たちは捻じれてこそ日常生活を送れているのだ。
そうしないと大人にはなれなかった。
死について考えるのは生について考えるのと同じとすれば、
自分以外になりたい気持ちは、自分でありたい気持ちと同じだと言える。

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珈琲を淹れた。深い香ばしさの中に独特の発酵臭やフルーツの酸っぱい香りが混ざる。この香りをかぐと、必ず心がふっと軽くなるから不思議だ。のぞくと揺れる黒い水面は、の心を穏やかにもするし、踊らせることもできる。口の中から鼻に抜ける心地よい余韻を感じ、Youtubeで昨日知ったばかりの歌を流した。パイプオルガンのような繊細で儚いイントロが流れる。歌詞を検索して、目と耳で言葉を追った。

誰かの気持ちが分かるような人にはなれやしないな
だけど諦めたくもないな

Birthday 『Ghost like girlfriend』

シンガーソングライターの岡林健勝さん(Ghost like girlfriend)の歌である。ラジオで知ることになったこちらのBirthdayという歌は、言葉とメロディーが聴いたことがないくらい柔らかく優しい。流れる川の水のように心の中にスムーズに流れ込んでくる。難しい抽象的な表現ではなく、まっすぐで現実的な言葉が心に刺さった。まるで心の中を読まれているかのようだ。優しいメロディーの上に、丁寧に葛藤が乗せられている。

案外どうでも良いふりをしちゃうね
放っておけない程の気持ちさえ
どんな心の揺れだって
誰のものでもないのにね

Birthday 『Ghost like girlfriend』

面談で上司が言ったことはもっともで『もっと自己主張』しなくてはと日頃から思っていた。努力しているはずだった。しかしそれは自分にとって極めて難しい事だった。そして改めて言葉にされると心が痛い。昨日は演技をして平気を装っただけだった。こちらの歌詞の通り、この心の痛さも、誰のものでもなかった。目頭が熱くなり、何の抵抗もなく涙が出てしまう。握った先の珈琲カップが温かかった。はてさて、心の痛さが自分のものだけだとわかるとなぜ泣いてしまうのだろう。さっきまで冷静だった『私』は慌ててしまい、動揺を隠せない。『私』がだんだんに近づいてくる。

あんまり世界の色味に合わせて
自分を押し殺しすぎないでね

Birthday 『Ghost like girlfriend』

が面談の時思った本音は、『それができないから困っている』だ。『私は私のままでいてはならないのだろうか』という悲しみもあった。感情が高ぶってしまい、その場でうまく処理することができなかった。気を抜くとそれを『怒り』として表現してしまいそうでもあったので、冷静な『私』を表にしっかり出して耐えたのだ。『おっしゃる通りです』とだけ言った。の悲しみを、『私』がしっかり隠した。その場の対応としてはよくある話だと思う。けれど『私』だけでは続けていけない、を変えなくてはならない。でも一体、この先どう変化していけばいいのだろう。

優しさをいつ無くしても
おかしくないような世界で
思い出し笑い一つで抜け出せた夜が幾つもある
君に良い事ばかりが起きれば良いなと心から

Birthday 『Ghost like girlfriend』

そう。世界のことを考えると、悲しいことがいっぱいで、いつも圧倒されてしまう。誰のことも救うことができないは生きるのが難しい。でも少しの笑えることで乗り越えてきた日が確かにある。難しいけど辞めようとは思わない。生きるのが難しいことを言い訳にしたくない。悔しかった。できない自分が情けなかったし、強がる自分は未熟だった。『私』はいつのまにかになっていた。珈琲はもう無い。空になったもう冷たい珈琲カップを握り指でこすりながら思う。あきらめないぞ。次に進む勇気をくれた歌。どこまでも優しい歌。Birthday。

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マイナーチェンジでいいのではないか。
小さな変化の積み重ねで、都度調整していけばいいのではないか。
誰に勝てなくても、自分の中で精いっぱいの形を目指せばいいのでは。
まだ正解は見えないけれど、考える今の時間は面白いかもしれない。
私が私のままでパワーアップできる、新しい方法をゆっくり考えよう。

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