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気の利いた小鉢にキュンとする女ひとり酒

メイン料理よりも添えられた小鉢に心を奪われることがある。カウンターに置かれた「ご自由にお取りください」なつまみもまた然り。奇をてらう必要はない。具材だって一種類で構わない。メイン料理を待ちながらビールのあてにちびちびつまんでいたはずが、その箸が止まらなくなって「メイン料理よ、まだ来なくともよい」とついつい思ってしまうような、そんな罪深き小鉢たち。

珍しい平日のぽっかり空いたお休み。雲ひとつない晴れで、日光が暖かくて、平日のお休みで……そんなのもう、ランチビールを自分にお見舞いするしかなかった。私は以前から気になっていたけれど行く機会のなかった天ぷら屋に満を持して乗り込んだ。

店はすべてカウンター。13時も大幅に過ぎた時間で先客はなし。端の席に自陣を確保しメニューに対峙する。と、定食しかない様子。

「ランチメニュー以外もありますか?」

普段はあまり無理な要求をしない私だけれど、今日は天ぷらでビールを飲みに来たのだという強靭な目標意欲がある。天ぷらで白米を食べに来たのではない。ここは、定食ではなく天ぷら単品か盛り合わせが欲しい。

店の奥様が「お酒を飲むなら出しますけれど」と遠慮がちに、あなた飲みませんよねと言外のメッセージを添えながら尋ねてきた。私は酒を飲みますと、声高らかに宣言する。無事要求がとおり、10品の天ぷら盛り合わせとビールを頼むことに成功した。

ビールとほぼ同時に用意されたのは明太子と高菜、もやしのナムルに漬物。明太子は小皿に載っていて、他はご自由にお取りくださいスタイル。小鉢たちの魅力が過ぎる。この後メインの天ぷらが来ることも忘れて、小鉢とビールにフォーカスしていた。

バットに順々にお出ましする天ぷらたち。熱々に揚げられていて、衣の金とビールの金が見事に調和する。天ぷらと天ぷらの間に例の小鉢を挟んで、幸福指数はメーターを振り切って久しい。

このシンプルな小鉢たち、味は適度に濃いのだけれど箸で少しずつつまむからそんなにくどくない。少しずつつまむだけだから満腹にならない。そしてお酒に合うから永遠に飽きない。小鉢たちがこんなにもひとり酒の心を掴んで離さないのにはオツな理由がありそうだ。

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