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天国か地獄か(ショート・ショート)

あるところに、ちっちゃな子どもの願いだけを叶えてくれる稲荷神社がありました。
「お友だちとケンカしました。どうか仲直りさせてください」
「今年から幼稚園に入ります。どうか新しいお友だちが早くできますように」
そんな願いをお稲荷様はみんな叶えてあげました。

その村には強欲な女がいました。女は自分の娘に、稲荷神社へ行って、今すぐ大金持ちにしてくださいと願うように言いつけました。
娘は母親の言うとおり、お稲荷様に
「今すぐ大金持ちにしてください」
と願いました。
すると、天から突然金貨がたくさん降ってきました。あっという間に娘は金貨の山に埋もれてしまいました。
それを近くで見ていた母親は、娘のことなどまったく気にせず、風呂敷や袋を手に、金貨をどんどん拾っていきました。

母親が家に戻って、風呂敷や袋を見てみると、中身はすべて枯れ葉に変わっていました。母親は急いで稲荷神社へ行きました。
稲荷神社に着くと、お稲荷様が母親に言いました。
「お前の娘は死んだ。だが、娘は何も悪いことはしていないので、天国に行ったので安心しなさい。その代わり、お前は死んだら地獄に落ちることになる」
母親はかしこまって、家に帰りました。

次の日の朝から、母親は毎日稲荷神社でお祈りをしました。
「私はこれから死ぬまでの間、毎日ここに来て、娘を弔いたいと思います。それから、村人たちのためになんでもするつもりでいます。地獄に落ちる覚悟はできています」
そうお稲荷様へ伝えました。
それからというもの、母親は約束を守り、毎日稲荷神社へお祈りに行き、村人が困っているとすぐに助けにいきました。

三十年後、母親は死ぬまでそれを続けました。お稲荷様はそれをずっと見ていました。

母親が死んだとき、村人たちは悲しみました。お稲荷様のところへみんなで行って、母親を天国に連れていってくださいと祈りました。

さて、母親は天国へ行けたのでしょうか。それとも地獄に落ちたのでしょうか。
それは生きている人間にはわかりません。
もしあなたが、どうしてもどちらに行ったか知りたければ、死んだときに確認してみてください。

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