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村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温』を読んで

思春期は残酷だと思う。本来ならば自分のすべてをさらけ出したいと思う時期なのに、空気を読むことで、自分の位置が勝手に決められてしまう。その位置を変えようとすると仲間外れにされてしまう。

主人公は新興住宅地として開発が進められている街に引っ越してきた少女、谷沢由佳。

性格は自分を守るために出来上がる。しかし、あまりにも自分を守ろうとしすぎると、歪んだ性格になる。
主人公の由佳は中学生になって、自分の容姿に対して劣等感を持つ。そして、その劣等感を忘れるためにひねくれた優越感を持つようになる。自分はこの街が嫌いだとわかるくらい大人な自分。ベランダの上から校庭で遊んでいる男子を見下ろす自分。人を見下す「観察する私」という優越感。

そんな由佳には小学生時代から知っている伊吹という少年に興味を持つ。自分より背も低く子供っぽい伊吹をおもちゃだと思い、自分の思いどおりにしようとする。伊吹は素直な少年で、由佳はその素直さにイライラするとともに羨ましく思っている。中学生になって大人になっていきながらも素直な伊吹を、由佳は恋しく思うが、初恋だという認識を持てない。伊吹から付き合いたいと言われるが、劣等感から素直にイエスと言えない。

クラスメイト全員から無視される存在になって、初めて由佳は過去の自分に別れを告げることを決める。そこには、伊吹の素直さや信子の感情を表に出す姿に美しさを見出した経験が大きかった。由佳は言いたかったが、なかなか言えなかった言葉を口に出せるようになる。それは相手の反応などまったく気にしない由佳の本心からの言葉だった。

素直になれた由佳は伊吹に自分の本音を告げる。伊吹も由佳に対する本音をぶつける。
伊吹ははっきりと由佳に嫌いだと告げた。自分のことが嫌いな由佳を大嫌いだと言った。しかし、本音を話し合うことで、伊吹は由佳の心の変化に気づき、二人は結ばれる。
その経験は最初で最後の経験になるかもしれないが、二人にとって必然だったように思う。

最後に、他の作品と印象はだいぶ違うが、やはり村田沙耶香でなければ書けないエロティシズムを感じることができた。

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