夏の江ノ電で(超短編小説)
女「何読んでるの?」
男「『彼女との別れ方』っていう本だよ」
女「何それ? 私と別れたいっていうわけ?」
男「いや、違うに決まってるだろう。もう一人の彼女のことだよ」
女「えー。二股かけてたわけ? ひどい。じゃあ私が別れてあげるから、もう一人の彼女と付き合えばいいじゃない」
女は怒って、次の駅で降りてしまった。
男は追いかけようか、そのまま電車に乗っていようか迷った様子だったが、結局車内に残った。
まわりの乗客たちはそれを傍目に見て、笑いを堪えていた。
電車が走り出し、ホームの女が見えなくなると、男はフーッとため息をついて座席に座った。
男は本を網棚に乗せると、携帯電話を取り出し、通話を始めた。
男「万事オーケーだよ。彼女別れてくれるってさ」