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【フレスコボールマガジン RALLY&PEACE】風味千賀子・宮山有紀 [2]

迎えたブラジル選手権、リオ・デ・ジャネイロ。

風味千賀子・宮山有紀ペアはフレスコボール日本代表トップバッターとして2019年ブラジル選手権の舞台に登場した。

国内で着々と結果を残し、確固たる地位を築いてきた。たくさんの練習をした。準備もした。

しかし、国内と大きく違う環境下でのトップバッターのプレッシャーは、想像以上のものだった。アタックの判定方法、落球時のタイムの取り方、効果音、独特の雰囲気…。すべてが違っていた。国内では温かく感じていた周囲の声援も、焦りに変わる。

状況に適応する間もなく、気がつけば、制限時間の5分間は、風のように終わっていた。冷静さを失い、何も出来ずに終わってしまった虚しさに、抜け殻になった。涙で、サングラスが外せなかった。

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戒め。

リオでの悔しさから、帰国直後は苦しい日々が続いた。フレスコボールをするのも辛い、フレスコボール以外の友人に会うのも気を遣わせてしまいそうで断ってしまう、そんな時期もあった。

悔しさを消化し切れないまま、すっかり街がクリスマスムードに包まれた、2019年12月中旬。ふたりは、宮山の誕生日祝いということで大阪市内で食事を共にした。

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プレゼントは、ふたりの今までの写真をフォトフレームに入れたもの。あの日の、悔しさでサングラスが外せなかった写真の裏には、14ペア中11位という結果と、戒め!!!の文字。

ふたり流の、励まし合い方だった。あの日のラリーに初めて向き合えた。動画を見ても、決定的に崩れているところはない。全力で戦った結果だった。シンプルな、その時点での実力を、冷静に見極めることができた。

「あのラリーを忘れることは絶対ない。今も。でも、そのご飯の時から、徐々に切り替えられたかな。」 ふたりは感慨深そうに頷いた。

共感しすぎないこと

「メンタルのブレは、ラリーに出る。」

別々に聞いた質問で、ふたりが打ち合わせもなく同じことばを返してくれた。

お互い芯が強く、人のせいにしない性格。そんなふたりだからこそ、両方が同時に調子を崩してしまってはどんどんマイナスに傾く一方だ。それに陥ってしまったのがブラジル選手権だったのかもしれない。

メンタルがブレてしまいそうな時、ふたりは、共感しすぎない。どちらかがブレていると、必ずもう一方がプラスな言葉で引き上げる。言霊を信じ、マイナスイメージを打ち消す。

自分が失敗しても相手が上手く返してくれるという、良い意味で「任せる」気持ちが、ふたりのメンタルバランスを保っている。

2020年2月、兵庫、大蔵海岸。

この日はふたりが所属するフレスコボール関西Gremio VENTO(GVK)が主催する、ローカル大会「明石ゲラゲラカップ」。寒空の下、全国のフレスコボーラー達と、地元兵庫の高校生や家族連れを合わせ70名超が集まった。

ラリーを続ける風味と宮山の背中には、地元の子どもがそれぞれ嬉しそうにしがみついている。「こらこら、やめや〜」というふたりも、なんだか嬉しそうだ。普及に対するふたりの思いは、大蔵海岸で練習をするようになってからより一層強くなった。

大蔵海岸では風味・宮山に限らずトッププレーヤー達自らが、地元の子ども達やお父さん、お母さん達に直接プレーを教える場面が多い。

ついこの前まではフレスコボールを知らなかった地元の人達が、買ったばかりのマイラケットを持って自分たちを待っている。この喜びは、何にも代え難かった。

「大蔵で初めて、人のための練習ってこんなに楽しいんだと思った」

普及する喜びを知った大蔵海岸の例を、これからも色々なビーチや公園で展開していきたいとふたりは語る。

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「かざみやペア」にしかできないこと

フレスコボールの魅力と今後のフレスコボールについて質問した時のふたりの表情は、この日一番輝いていた。

「たくさんあるけど、一番は年齢や運動経験によるハードルが低いこと。何歳からでも挑戦できるし、生涯スポーツになり得る。

そう話しながら、仲間の名前を嬉しそうに挙げていく宮山。例えば医療系で働く松井代表はリハビリにフレスコボールを取り入れるなど、高齢者を中心にアプローチ。大学生の杉村選手は学生をたくさん連れて来て、SNSでの発信を。コピーライターの山下選手はクラブの発展をクリエイティブ面からサポート…。小学校教諭として働く自身は、教育の現場で子どもたちにフレスコボールに触れてもらうことで普及に寄与する。

「将来、フレスコボールのラケットが子どもたちのバッグに必ず入っている時代が来て欲しい。フレスコボールをずっと続くスポーツにする為に、“マイナースポーツの日本代表”という枠にとどまらず、キャッチーな話題を発信し続けていきたい。

関東時代を含め今までメディアにも多く取り上げられてきた風味。日本代表である自分たちが活躍することで、ひとつの話題としてフレスコボールそのものの普及に繋がる。手取り足取り初心者に教える普及ももちろん大切だが、自分たちが憧れられる存在であり続けることもまた普及だ。

フレスコボール界で初めて、ふたりの共同のTwitterアカウントも作った。練習記録やメンタルの持ち直し方などを、ふたりらしい言葉で発信している。

「私たちが競技としてフレスコボールを引退する日が来ても、またクラブから次の日本代表が出てくるのが理想。」風味は続ける。

ふたりが見つめる先は、フレスコボール界の未来。

「かざみやペア」だから生み出せる、強く、爽やかな風。それはこれからも、フレスコボール界に吹き続け、フレスコボール界を引っ張って行くだろう。

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