#73 自分のコミュ力は衰えど、息子がコミュ力おばけだった件
昔から自分はコミュニケーション能力はある方だと思っていた。
ここ近年で社会に出るのが嫌になるまでは・・・
コミュ力 (りょく) を無くしてしまったとは思っていないが、今の自分は『コミュ障』と自称する人の気持ちのほうがわかる。
上手くは言えないが、花瓶の花が茎からガクッと折れたまま、自力でまた起き上がれない状態なのだ。ポキッと折れたのではないから、折れ曲がった場所を切ってから、水に挿し直せば復活できるのではないか‥‥
そんな気はしている。今は‥‥
近年、自分に自信がなくて悶々としていた頃、年下だけどすごく尊敬する友人と食事に行った。
芯が通っていて、考え方が素敵で、常にポジティブな彼女は惚れ惚れするほどカッコいい。
その彼女と入ったのは地域にあるカレッジの職業訓練用のレストランだった。
これからシェフや外食産業の職に就くための学生を訓練する場所でありながら、作られた食事を彼ら自身のサービスによって、公に提供している。
『生徒が料理する』といっても、それを監督・指揮する先生がいるので、食事はおおむね評判がいい。
そこには、一生懸命フルコースの食事をサーブしながら客との会話に必死な子がいたり、いちいち気がつかなくて監督の先生からそっと注意を受けている子など、見ていていじらしいな、と思ってしまう。
そんな彼らの心情を誰よりも察して、彼らがいちばんリラックスしてタスクをこなせるように、絶妙なタイミングで言葉をかけ、緊張する彼らを笑わせる私の友人。
彼女は人から好かれようなんてしていないのだ。
思いやりがあるからそれが自然に言動に現れ、発達障害を持つ生徒までがこぞって彼女のもとにおしゃべりにやってくるのだ。
同じ場所で同じ時を生きていながら、彼女の人生のほうが私のよりも断然濃いのではないか・・・とため息が出たのを思い出す。
『コミュ障』という言葉を知った時、真逆の『コミュ力おばけ』という言葉も知った。そして彼女こそが、押しも押されぬコミュ力おばけだと思った。
コミュ力はあればあるほど良いに決まっている・・・
実は私、もうひとり身近なコミュ力おばけを知っている。
うちの息子だ。
ここで書いたように、予期せず、家を出ていた長男と暮らす時間が与えられ、私たちは丁寧な暮らしを楽しんでいる。
Food combining (フードコンバイニング) という食事法はいまも続いている。たんぱく質と炭水化物は一緒に摂ると消化が悪いので、別々にご飯を食べる回と、肉料理を食べる回がある。
一投入魂さながらの一食なので、どちらの回でも一緒に食べられる野菜選びには力が入る。この頃はスーパーに行かずに、地元野菜を扱う八百屋や、注文すると切り落としてくれるような肉屋に買い出しに行く。
こんな時の、我が息子のコミュ力と言ったらそれはもう凄いのだ。
私は普段からスーパーマーケットを利用してきたのだが、スーパーのレジで後ろに列ができているのに世間話をしているお客が苦手だ。
だから、必要最低限のあいさつだけで、できるだけ手早く袋に詰めて手早く支払うのが当たり前になっていた。
息子が小売店を選び、そこで導き出す店主との会話を聞いていると、私がいかに黙々と物だけを買って生きてきたかを思い知らされてしまう。
確かに、丁寧に料理をするなら、今朝どこそこの農家さんから届いたキャベツだと知っているほうが思いを込めやすい。
息子は、入り口で待っている人が居ても焦って会話をやめたりしない。「お先にどうぞ」とその人の用を先に済ませてもらっている間に、ゆっくりと欲しい野菜を物色する。
例えばにんじんが欲しい時に、葉付きのにんじんを見つけ、「この葉っぱをてんぷらに使うから」と伝えるから、奥からもっと新鮮な葉っぱのついたものを出してもらえる。
そして、お店のお兄さんが「この葉っぱでペストソースを作ったよ」と教えてくれたら、てんぷらから変更し、早速ペストを作っている。もちろん次に行った時は、「美味しくできた」と報告する。
今日は何が美味しいか、とたっぷりコミュニケーションを取って買ってきた野菜は、なんだかキャラクターがあるようで、にんじんの茎もキャベツの芯も大事にとっておいてスープストックにする。
小売店で、扱う人の顔を見て、会話をしたら、商う食品に込められた想いまで感じ取れることを、私も一緒に実感している。
すごいな、化けものだぞ‥‥
基本こんなコミュ力おばけが側にいたら、かるく嫉妬するかな、私。
でも息子というのが絶妙にいい。
だって、いくらコミュ力で完敗してたとしても、その子を育てたのが自分だと思えば、悪い気はしない。
"負うた子に教えられて浅瀬を渡る"
いやいや、25にもなれば負うた子どころじゃない、こっちが軽く負われる立場だ。
いい歳したコミュ回避おばさんの私でも、コミュニケーションの素敵さを思い出させてもらえているのだ。
そんな毎日のささやかな幸せに感謝するのです。
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